プロフェッショナル・ゼミ

だから僕は「ズタボロ」だった《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

稲生雅裕(プロフェッショナル・ゼミ)

「あだ名」をつけられることが、小さい頃からの夢の一つだった。
なぜか僕の名前は、「あだ名」を作りにくいのか、苗字呼び捨てか、「君」付けで呼ばれることが多かった。
そんな僕にも四半世紀生きてきて、ついに「あだ名」をいただくことができた。
「あだ名」が生まれた場所は、天狼院書店。書店というには、あまりにも書店らしくない場所。

ついた「あだ名」は「ズタボロ」だった。

去年の4月に駆け込み寺のように、藁をもすがる思いで天狼院書店のライティング・ゼミに参加してから、既に1年が経った。プリンセス天功先生の話、芥川賞「コンビニ人間」とロボット社会について、文系人間からの卒業の仕方、高校の時の禁断の恋など、自分の脳みそを蹴飛ばして、古くなった引き出しを無理やりこじ開け、毎週毎週記事を書いてきた。

様々な切り口で記事を書いていく中で、自分といったらコレ、と確立されたのが「ズタボロ」というジャンルだった。自分の文章は、まるで我が身を切り刻んで書いた文章だと、他の方から比喩されたことがきっかけだった。例えば、「「好き」の後ろに隠れる、醜い、本当の気持ちに気づいてしまった時には。」という記事では、自分がずっと好きで好きで堪らなかった演劇が、本当は自分の承認欲求を満たすための道具に過ぎなかったことに気づいた時の絶望を書いた。
「僕は社会人にもかかわらず、土曜日のことが、一生来なければ良いと思うほど嫌いだ。」という記事では、一緒に受けているゼミ生への嫉妬の感情をこれでもかというくらい丸出しに書いた。
そんな「ズタボロ」記事を読んだゼミ生の方から「今から映画を観に行こうと思っていたのに、もう行かなかくていいかも知れないと思いました」とか「ここまで自分をさらけ出せている記事、自分にはできません」とかコメントをいただき、果てには直接FBメッセージで「泣いた」と送ってきてくださる方までいた。

一方で「ズタボロ」系以外の記事を書くと、なかなかうまくいかない。
感情を爆発的に乗せることができない。
さらに、最近は「ズタボロ」系の記事ですら、書けなくなってきていた。

初めは、仕事が忙しくなったことを言い訳にしているせいだと思っていた。
僕は自分の役職上、1日の中で前ほどはライティングに当てることができる時間を捻出できないでいた。
本来ならば、それでも書くべきなのは百も承知なのだが、悲しいことに自分の弱さにかまけてしまっていた。
ところが、土曜日丸一日を使っても、どうも書くことができない。

「ズタボロ」系の記事を以前ほど書けなくなってきたのには、仕事との関係の中のもっと本質的なところに答えがあることに気づいた。

僕の仕事の役職は人事。人事であるからには会社にマッチする優秀な人材を目を皿のようにして、探さなければいけない。しかも、会社が求めている人材というのは、一朝一夕で見つかるようなものでは無い。まるで砂金だか、砂漠の中でオアシスを探すような作業。加えて、僕が探さなければならないのは、エンジニアだ。高校時代に数学と物理を投げ出し、関数だの引数だの言われるだけで拒否反応を起こすような僕がエンジニアの採用担当なのだ。言葉がわからない異国の人を口説くなんてものじゃあ無い。火星人の中でも、特に優秀な火星人を連れてきてください、と言われているようなものだった。流石に4ヶ月も経てば、機械語とその種類や、様々なツールの名前、特徴を覚えてきたが、それでも火星人をハントするには、やはり火星人の協力を仰がないといけない。

ところが、僕は人にものを頼むのが、絶望的に不得意だった。

一人っ子で育ったせいなのか、面倒なことは基本人に任せてきたからのなのか、指示するのが面倒だから、全部自分であれもこれもとやってきたからなのか、人に頼みごとをすることができない。しかも、自分より年上かつ優秀な方々に、どうものを頼めばいいのか、全くわからない。
就職活動の面接でよく「周りの人を巻き込んで何かを成し遂げた経験はありますか」と聞かれ続けた真意を理解した瞬間だった。

上司からは「悩むよりとにかく行動しろ」と言われ続けていたが、どうにもわからない。エンジニアの方々は、まるで数学の証明問題のような質問の仕方をしないと「え、それってつまりどういうこと?」と聞き返されてしまう。問は何で、どういった条件があって、求める解は何なのかを簡潔に伝える必要がある。それは、プログラミングをする中で、それぞれの意味をしっかりと定義づけしないと、バグが発生してしまう故に身につく思考回路のため、もちろん悪意が無いことは知っている。

しかし、質問が下手すぎる僕はだいたい一発でうまく相手にものを頼むことができない。加えて、プログラミングをしている時にはフロー状態というものがある。思考の速度が、実際にプログラミングをしている手に追いつかず、超集中している時をいうのだそうだ。その時に誤って「すいません〜」なんてこ声をかけてしまうと、だいたい不機嫌にさせてしまう。気まぐれな超美少女の彼女を何人も相手にしているような気分になる。

そうなると、ますます質問しにくくなって、成果があげられなくなってくる。だって、超美少女には、嫌われたくないから。しかもクライアントのような、仕事上の付き合いだけならまだしも、一緒に働くメンバーだ。普通に考えたら、嫌われたくない。

そんな自分を見かねたのか、ある日、上司に突如ミーティングを入れられ、「人や自分に向かわずに、コトに向かえ」とみっちりと説教をされた。普段は温厚な上司だが、眼光が猛禽類のように鋭くなり、僕はまさにトンビか鷹に狙われるうさぎも同然だった。「「コトに向かう」ということは、「嫌われる勇気」を持つコトと同意だ。お前は早く「嫌われる勇気」を持て」と言われた。頭の中でわかっていたコトだったが、ど真ん中で銃弾を命中させられた。

腹をくくるしかない。

次の日から、バカみたいな質問でも、相手に嫌な顔をされても、怒られても、エンジニア達に質問し、時間をもらい、ちょっとづつ頼るようになってきた。もちろん、まだまだ心が弱く、相手の対応に傷つくこともある。でも、自分で自分のことを守らないと、やっていけないことに築いてからは、無理やりにでも自分に対して「大丈夫」と言い聞かせるようになった。
大嫌いだった自分のことを好きになるしかなかった。

そう、僕が「ズタボロ」の記事を書けていたのは、自分のことが大嫌いだからだった。
嫌いな自分を切り崩して、血みどろの自分を、人様の目に晒してきた。

承認欲求が異常に高いくせに、承認欲求が高いことを認めたくない自分。
「僕は人から認められることこそが全てです。だから企業だってブランド力のあるところに行きたいし、女の子にだって常にモテていたい。自分で自分を評価するのではなく、周りからの評価こそが絶対」
そんな風に堂々と言えれば、どれだけ楽なことか。そんな自分になることもできず、かといって承認欲求から逃れることもできない。自分で自分の幸せを定義することができない。
facebookのlikeの数や、instagramのハートの数ばかり気にして、本当の自分はずーっと、箱の中に隠しておく。

自分が努力していないのが悪いのに、「才能」という言葉を都合のいいように使っていた自分。
結局は、努力できるのか、やりきれるのか、諦めないのか、それが大事なのに、色々と言い訳を並べ立てて、双眼鏡を使ってただ見ているだけ。

僕は、なぜ、自分の記事で泣いてくれる人がいたのか、わからなかった。
僕にとって、自分のことを嫌いであることが普通だった。
自分のことが大嫌いです、と声高々に叫んで記事にしてきた。
唯一、一生自分のことを愛せる、自分という存在が、自分自身を「嫌い」と言っているのだ。

そんなの、悲しいに決まっている。

でも、そろそろ「ズタボロ」から卒業する時が来たのかもしれない。

四半世紀、ずっと大嫌いでいた僕、今までごめんね。

僕は、ようやく、僕を好きになることができそうだよ。

今まで、傷つけに傷つけて来た僕は、僕を許してくれるだろうか。
前、何かの本で「人は変わろうと思った瞬間に、変わってる」というのを読んだ気がするから、きっと大丈夫だろう。

出会いの季節と言われる4月、ギリギリだけど、僕もいい出会いを果たすことができたようだ。

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