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プロフェッショナル・ゼミ

性格の悪いフリーターから学ぶこと《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

記事:田中望美(プロフェッショナル・ゼミ)

99.374点!!!!!!!!!!

堺雅人が大きな声で叫んだ。
どこにでもいそうな中年男性が拳を上げて喜んでいる。

「今のお気持ちはどうですか?」と聞かれ、

男性は、

「最高です!」

画面には嘘のない笑顔が映っていた。

そして彼はカラオケバトルの決勝戦へと進む。

だが、周囲からはあまり応援されていないようだった。
なぜなら、彼がフリーターだったからだ。奥さんの稼ぎで生活を支えてもらい、自分は歌手になるという夢だけを追っているダメ男としてTVに映っていた。
そして今年、子供を一人授かったらしい。彼は、子供が生まれたため、やっとのことで重い腰を持ち上げ、最近になってアルバイトを始めたという。

審査員の「子供さんも生まれましたし、仕事に就こうと思わないのですか?」という質問に、彼は言った。

「全く思いません」

会場中が苦笑いだった。奥さんへの同情の声も聞こえてくる。

「いい奥さんをお持ちになりましたね」

カラオケでの彼の技術は、かなり高い。実際に、去年、初出場にして、優勝を勝ち取っている実力者だ。まあ、仕事をしていないということは、歌の練習にかなりの時間を費やすことができるのだから、技術が向上するのは当たり前と言えばそうなのかもしれない。

だが、みんな彼を応援していないのだった。

審査員の人も、彼以外に対しては、
声の質感がきれい、甘い声が魅力的、思いが伝わってきた、素晴らしい!
などとすごい! うまい! と評価するのだが、彼に至っては、そのような言葉は出てこない。

歌手を定職にしたいから、アルバイトは仕事じゃない。
仕事はしないが、子供に苦労はさせたくない。そういう気持ちは持っているのだが、歌がしたい。

ライバルたちにも上から目線でものを言う。

僕がこの世界の厳しさを教えてあげるよ
働きながら歌もやる、なんてことするからどちらも中途半端になるんだよ、だから勝ち進むことができないんだよ

決勝戦の同じグループに、今年から女子大生になった歌のうまい大柄の女の子が出場した。彼女はよく食べ、よく笑い、素直で天真爛漫な女の子だった。
この戦いの前にも、一人焼き肉をして備えてきたらしい。そのどこからどう見ても愛されキャラな彼女の歌は、やさしく、それでいてものすごくのびやかだった。声量もすごい。

審査員たちも彼女のことを大絶賛だった。彼女が歌い終えた後の拍手と歓声はさっきの彼とは比べ物にならないくらいだった。会場中の人の顔がほっこりとしていた。
おそらく、会場の多くの人が口にしないにしろ、あんな男より、純粋な女子大生に勝ち進んで優勝してほしいと思ったことだろう。

だが、判定するのはカラオケマシーンだ。彼女は0.8点差で敗退した。

会場を去るとき、彼女は言った。
「体重が一気に2キロ減りました~(泣笑)」
周囲がまた笑顔になった。次こそ頑張ってね! と審査員の一人が声をかけた。みんな同じ気持ちだろう。

こうしてダメ男、歌手志望のフリーターは決勝戦に勝ち進むのだ。
決勝戦では、トラック運転手の男性とのバトルだった。トラック運転手は、苦労して亡くなった母親のためにできることは何かと考えたときに、それが歌だということに気づいた。一生懸命働き、家族を養いながら、歌の活動を続けているらしい。今回初出場で、彼の歌声は包み込まれるような温かさで、それでいて少しセクシーな甘い声だった。大きな体格に反して謙虚すぎるほど謙虚で、笑顔も素敵だった。そう、北斗晶の旦那である大介さんのような雰囲気である。

この時も誰もが彼に勝ってほしいと願っただろう。大きな声で言わないにしろ、自然と応援したくなるのは、トラック運転手の方だ。

「嫌~。フリータの人に勝って欲しくなか~。彼の歌なんて、聞こうごたるなかもん」

母は声を大にして私の隣でフリータの彼をぼろくそ批判した。
どんなに技術があっても、彼の態度や考え方に共感することができず、素直に歌を聞くことができないという。応援したくもないし、負けてほしいと思ってしまうらしい。なんといっても、母が母であるために、フリーターの奥さんの苦労が計り知れないというところが一番納得できない部分であるらしい。平凡に、一般的に暮らしてきた母が言うのだから、これが正直な世の意見だろう。
審査員が口をそろえて「奥さんがいいのならいいのですが……」というのは、考え方は人それぞれで、そういう夫婦の関係性で成り立っているのなら、周囲が口出しする資格もないが、もし自分がその立場であるのなら、絶対無理という一般的な意見の省略版だ。母も、私だったら絶対無理! 家事もして、子育てもして、働いて……それで旦那は自分の好きなことだけするなんて、奥さんがかわいそうすぎるよ、かなり我慢しとると思う、倒れるとじゃなかね…..と、フリーターの彼が歌うたび、終始そのセリフを繰り返していた。

私も、本当にその通りだと思った。母は正しい。世の意見の大半が母と同意見であるだろうと思う。

だが、私は、その非難されまくりの悪者のように映っている彼に少し同情してしまうのだ。それは、現在の自分と重なる部分があったからだ。

私もプロのダンサー、ライターになるために、フリーターになった。アルバイトをしながら、レッスンに通い、生活していくのだ。周囲の一般的な就職をした人とは違って、収入が安定していない為、未だ家族の援助を受けている部分がある。完全なる自立ができていないのだ。その援助をしてくれている人が親であるのか、配偶者であるのかという違いだけで、あとは自分も彼と同じ身分ではないか。とすれば、そんなやつ、誰も応援なんかしたくないだろうな、と思った。実家に甘えて夢だけを追う20代女性だなんて、なんて甘ったれたお嬢さんなんだといってはじかれるだけだ。私もこんなこと言える立場ではないのだが、実際のところ、彼の歌う姿を見て、彼は一生歌手にはなれないだろうな……と思ってしまった。

それは、歌手になるということは、それを聞きたいと思ってくれる人が必要だからだ。つまり、技術より人柄が想像以上に大切なのだ。愛嬌、第一印象、態度などは、人が歌う時、聞く側にとってずっと歌い手の背後に見えている。その背景なるものが、その人の歌を良くも悪くもするという現象が起こり得るのだ。だから人は、周囲のことを考えない夢ばかりを追い続ける人より、謙虚さをもって働きながら夢を追う人を応援したくなる。カラオケバトルの番組を見て、そのことを明確に感じられた。

フリーター男は、もしかすると、家事や子供の世話をしっかりとやり、奥さんが働きやすい環境を作ったうえで、自分の歌の練習に明け暮れる努力家なのかもしれない。本当のことは、その夫婦にしかわからない。しかし、分かっているのは、彼の生意気に思われるような言動や態度によって、周囲は彼を良くは思っていないということだ。

私自身も、そのような生き方をダメだとは思わないし、アリだとも思う。だけど、聞いてくれる人はやっぱりなぜか正統な人を応援したいと思うのだ。もっと言えば、ヒーローズジャーニーのような背景がある人の歌にはかなり好感を持てるし、共感もできる。同じ歌を歌っても、全く違うように聞こえてしまう。人間の心理というものは、そういうものなのだと改めて気づいた。そういうのが顕著に現れるのは、何らかの芸を持った芸能人だが、芸能人だけに関わらず、あらゆる事業を起こすコンテンツメーカーにとっても同じことが言えると思う。すべては見てくれる人。結局最後はお客様が全てなのだ。スケート選手の浅田真央選手や羽生結弦選手もそうだろう。彼らは悔しくなるくらい応援したくなる。それは、幼い頃から毎日何時間もの練習を健気に頑張っているから、けがやスランプなどの苦労にも立ち向かい頑張っているから、謙虚さを持ち、周囲に感謝して頑張っているからである。

反対に、どんなに根はやさしい人であったとしても、やりたい放題でへらへらとしている人が多くの人の心をつかむのは難しい。これを厳しい世界というのだろうか……

事故から復帰、親をはやくに亡くして、いじめや引きこもりを経験して、それらの大きな苦労から這い上がってきた人々は自ずと応援し支えてあげたいという気持ちになってくる。そんな経験をした人々のパワーはすごいし、それに伴って周囲の彼らを押し上げるパワーも強まる。そういう人の書いた本をたくさん読んできた。

しかし、頭が良くて、お金持ちでお嬢様みたいな、思えば何でも叶うような世界にいる苦労せずに輝いているように見える人々に、人は嫉妬心をおぼえる。あいつは調子にのっているとつい愚痴がこぼれ、良く思わない人が出てくる。人はいつだって優位に立ちたいという気持ちを持っているからだと思う。自分より苦労している人の歌は素直に聞けるが、楽して稼ごうと思っている人や生まれたときから与えられるような人生を送っている人の歌は素直に聞くことができない。その結果悪者のように扱われてしまう。

人生に正解なんてないし、人それぞれの生き方があっていいはずなのに、どうしてだろう。

私はこれまで大きな苦労をしてこなかった。何不自由なく暮らしてきたし、豊かに育てられてきたと思う。そりゃあ、反抗期や悩み、挫折などを経験したことはあるが、どれも誰もが通るようなものばかりだ。だからフリーターの彼を私は責めたり、批判することなんてできない。私と彼には重なる部分があり、ということは私もどんなに頑張ったとしても応援されないかもしれないからだ。

結局人は人をみる。技術だけじゃ全くダメで、背後の背負ってきたものに影響される。

だから私はある意味、「壮絶な人生」をもって生まれた人のことを羨ましく思ってしまう。最初から完全だったら助けなど必要ない。不完全だからこそ、人は完全になろうとし、その姿に共鳴するからだ。簡単に言えば、わかりやすいのだ。それに比べて私は完全でも不完全でもないどっちつかずの中途半端な人間に思えてならない。だから、何らかのハンディがある人を見ると羨ましく思ってしまうのだ。

どうしたらいいのだろう??

私のような、平凡な人間が夢をかなえるにはどうすればいいのか。人知れずの努力? 誠意をみせること? 試行錯誤すること? そうするしか道はないのか?

性格の悪いフリーターが最後の曲を歌っていた。

その歌詞は家族を想った歌だった。

彼は涙目になっているように見えた。

歌い終わって、結果が出るまで、スクリーンの点数は一切見ず、ただただ強く拳を握り祈っていた。決勝に残った3人の中でも一番強く祈っていた。

結果、彼は惜しくも優勝を逃した。たったの0.3点差で負けてしまった。彼は最後に言った。

「家族のことを想って歌うことができました」

今は性格の悪いフリーターだ。多くの人に批判される生き方をしている。一見平気そうに見えるが、本当のところはわからない。

だけど、もしかすると、彼にとってこれはただの中間地点で、これからも彼が歌を続け、いろんな人に貶され、挫折し、何らかのタイミングで更生し、謙虚な態度をとるようになったのなら、

「あの時の自分は未熟でした。だけど皆さんのおかげで私はここまで成長することができ、何とか歌うことをで食べていくことができています」

と、言える日が来るのかもしれない。自分自身と重なる部分があるからこそ、そうなってほしいと思った。私くらい、心の片隅で彼を応援してもいいのかな。

私のような、平凡で苦労のない人生を送ってきた者が、夢をかなえる!! なんてことが本当は一番難しいのかもしれない。過去に、ものすごいパワーとなるような原動力がないからだ。だが、そんなことを言い訳にすることなんてできやしない。そんな言い訳をしたって何も生まれない。何度も何度も心のどこかで言い訳し続けてきたから、それは痛いほどわかっている。だからこそ、今から、小さな苦労を積み上げていくしかないのだと思う。小さな苦労を積み上げ、大きな苦労にして戦うしかないのだ。これは、職人さんのようなものだと思う。何十年続け、極めてきましたというと、その背後に努力や苦労がにじみ出てくるからだ。つまり、長く続けていくこと。それをすることしか、私にはもう残されていないように思う。苦労なしの平凡だと思う今も、明るい未来のためのバネに変えることができるなら、それでグッドなのだ。というか、そうしたい。

これが、今は性格の悪い、夢だけを追うフリーター男から学んだことである。

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