メディアグランプリ

初給料は消え物で


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記事:芽れんげ(ライティング・ゼミ平日コース)

「ただいまあ」
今年のゴールデンウィーク。
土日祝日を含めた5日間、この春就職した娘が帰省した。

大学だけで戻ってくるかなと思いつつ遠くに出したのだが、ちゃっかりその遠い地で就職してしまい、
その上、故郷までは片道9時間かかる離島への勤務となってしまった。
「長いお休み、このゴールデンウィークを逃すとお正月までないんじゃないの?」
というと、
「ほんとだ、ほんとだ。帰るわ」
と戻ってきた。

「朝、6時起きだったんだよね」
家に着いた娘は眠そうにしながら、「あ、これ、お土産ね」とポンポンと箱を置いていく。
隠岐の島ゴーフレットとアワビ釜飯の素。
「これもいる?」
と、ワカメ茶漬け。
「と、これはお酒ね」
隠岐の島産の山田錦で作ったという純米酒「隠岐誉」をスーツケースから出した。

スーツケースから荷物を出す娘を見ながら、実は私はウキウキしていた。
初給料は14日に出ていたことは聞いていた。
アルバイトではなく、社会人になり初めてもらったお給料と言えば、プレゼント。
この季節、母トモの間で話題になるのは、初給料でどんなプレゼントを貰ったかということだったからだ。
ともかく、私はウキウキしていた。
まあ、都会ではなく隠岐の島に住んでいるのだから、小洒落た物ではないだろう。
そういえば○○ちゃんは小さなかわいい手提げバッグをプレゼントしてくれたって、○○ママは言ってたから、そういうものかな。
いくら島でも巾着袋くらいは売ってるよね。
初給料でプレゼントされるんだもん、巾着袋で十分嬉しいと思う。
貰ったら、どうお礼を言おうか。
ウキウキ。
いつ渡してくれるのかな。
眠いって言ってるから、ちょっと休憩してからかな。

しかし、晩御飯が終わっても、翌朝を迎えても、私の手元にはプレゼントはやってこなかった。

「今日は河原町に出かけてくるわ」
一夜明けて熟睡した娘が洗濯をしている私に呼びかけた。
あ、河原町に行ってくるのね。
河原町といえば、京都で一番の繁華街。お店もいっぱい並んでいる。
そっか、なるほど。
島では仕事も毎日あったし、仕事が終わるころにはお店もそんなに開いていないし、食料品の買い出しできっと精一杯。
きっとプレゼントは京都で買おうって思ってたのね。
ああ、ついに。
ついに今晩、私はプレゼントを貰うんだな。
ウキウキしながら、満面の笑顔で娘を送り出した。

しかし、その夜帰ってきた娘はそれらしい包みを持っているようには見えなかった。

娘が帰ってきて3日目。
やはりどう考えても、雲行きが怪しいと認めざるを得なかった。
「今日は祖母ちゃんとこ行ってくる」
やはり朝から出かけていく娘。
「おみやげ、ちゃんと渡すんだよ」
と声をかけながら、心の中で「母への初給料プレゼントを忘れていないかい?」と言ってみる。
いや、口に出すのはおこがましい。そんなことしたら、まるで督促している風に聞こえてしまう。
こういうものは、督促してもらうものじゃあない。
待て、待つんだ。
きっと、いいものが見つからないからに違いない。
きっと今夜には、「遅くなってしまったけど」と手渡してくれるに違いない。

しかし、何もないうちに4日目の朝を迎えた。
もしかして、どういったものをプレゼントしたら良いかわからないから、一緒に出掛けようとか声がかかるのかも、と思ってみた。
しかし娘は、「今日は友達と会ってくる」と、また一人で出かけてしまった。

次の日の朝には、娘は隠岐に向けて帰っていく。
もう時間がない。
私もだんだん焦ってきた。
このままだと、私はプレゼントを貰えずに終わってしまう。
いや、プレゼントが欲しくてたまらないとか、そういうわけじゃない。
初給料でのプレゼントは、「私も一人前の社会人になりました」という、そういう「しるし」だと思っていたし、誰もがするものだと思っていた。
なのに。
これまで母トモから聞いていたこの一種の「踏絵」のような儀式、「初給料でプレゼント」を私は通過できずに終わってしまうのだろうか、そういう焦りでどうしようもなくなっていた。

娘が帰宅した。
「早めに荷造りしなよ」
と、お土産や、娘から買っておいてほしいとお願いされていた「お取り寄せパン」や「山椒じゃこ」をスーツケースに詰めていく。
ちらりと横目で見てみたけれど、やはりプレゼントらしき包みはない。
もう、もう、我慢がならない。

「えっと、ところで、ね、初給料のプレゼントとかは……そういうものは……」
ああ、ついに、口に出してしまった。
一瞬の沈黙。そして娘が言った。
「えっと、隠岐誉。あ、アレがそのつもりで」
酒?
え? ふつう、こういうプレゼントって何か残るものとかなんじゃないの?
目を丸くした私に向かって、娘が続けた。
「だってさ、モノがいっぱいたまるってのも何だし、消え物がいいと思ったし、隠岐らしいものと思って」

ああ、なるほど。
どこにでも売っているような鞄や小物ではなく、娘の初任地の名を冠したお酒ならば、一緒に隠岐の島で引っ越し作業をしたことや、その時のいろんな出来事を思い出しながら杯を交わすことができる。
またいつか、どこかで隠岐誉を見かけることがあったら、
「これは初給料でくれたお酒だったよね」
と、いつでも記憶をさかのぼることができる。
お酒は飲むとなくなってしまうけれど、思い出としてならいつも覚えていられるから、と、
そう考えて選んだのではないだろうか。

夕食のとき、みんなで乾杯した。
ピリッと辛く、そして甘い香りの広がるお酒。
この味を私はずっと覚えていることだろう。

「初給料でこれを買ってくれたんだよね」と、何か形あるものをいついつまでも持つよりも、
あの時のお酒は美味しかったね、と、記憶にのこるプレゼントを。
そんな粋な計らいだったのではないかと、いま、改めて思っている。

***

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2017-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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