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めざせ不倫沼からの「脱出」!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:牛丸ショーヌ(ライティング・ゼミ)

 
 
「あの、言いにくいんですけど……課長って不倫してるって本当ですか?」
「は? オレが不倫してる?」
「あ、はい。結構、噂になってますけど」
久しぶりにチーム内で飲んだ金曜の夜。
ほろ酔い気分でもう1件行こうと勢いで飛び込んだ見知らぬBarにて、カクテルを飲みながら部下の大江から唐突にそう訊かれた。
僕は驚いた。
正直、寝耳に水のことだった。
結婚して14年が経つ。
妻とは子供ができたことが分かってから入籍した。
その後3人の子供に恵まれ、会社から離れれば家事育児と家族サービスに時間をとられ、自分だけの時間もろくに取れない日常を慌ただしく送ってきた。
「不倫」に憧れはある。
これは男である以上、本能的な欲求だ。
ただし、僕にとっては別世界の他人事だと思ってきた。
時間もお金もない自分に「不倫」をする余裕がいつあるというのか?
 
「大江、すまんけど、もう少し詳しく教えてくれるか?」
僕の勤める会社は全国に支店があり、正社員に準社員、契約社員と派遣社員。パート、アルバイトも加わり玉石混合の雇用形態が入り乱れた職場だ。
僕はこの東京にある1つの支店で、8名のチームをまとめる役割を任されていて、ちょうど1年前の春に課長職に就いたばかりだ。
 
「ワクダ課長が不倫してるって噂されている相手は愛川さんです」
「愛川さん?」
愛川さんはうちの会社では転居を伴う異動がない地域採用の準社員だ。
年齢は僕の2つ上の39歳。
外見は綺麗系で独身。
ただし、周りの女性陣からは恐れられている節がある。
どこか陰があり、取っつきにくい空気を身にまとっているため、お昼のランチタイムでも独りでいることが多いと聞く。
仕事はそつなくこなすし、業務上でのコミュニケーションも問題ない。
プライベートな会話をほとんどしたことないが、店内ではミステリアスな女性というキャラが確立されている。
「大江、はっきり言うけど愛川さんと不倫なんてしてないよ。ないない、冗談だろ」
僕は吐き捨てた。
「マジっすかぁ、結構みんなが知っている噂なんですけどねぇ」
大江は入社3年目の若手であり、チーム内で唯一の男性正社員だ。
飲みの席ではフランクに会話することが多い。
酔いが回ってきたのか、もはや上司部下ではなく、体育会系の先輩後輩間のノリだ。
「おいおい、大江、お前飲み過ぎだよ」
僕は笑いながら、内心では怯えていた。
今後、何かとてつもなく悪いことが起こる胸騒ぎがしていた。
 
週が明けての月曜日。
始業から愛川さんの姿を目で追ってしまう。
愛川さんは僕のチームに所属してるので、朝の打ち合わせを含めて顔を合わすことは多い。
僕は噂があることを知ってしまったがゆえ、平静を取り繕うとする。
それが逆に意識してしまうという矛盾を腹立たしく感じていた。
しかし、なぜ愛川さんと僕が不倫しているなどと噂が出てしまったのだろうか?
いまの僕には全く想像もつかない。
 
その週の水曜日だった。
夕方、大江が声をかけてきた。
「課長、今日この後で軽くどうですか?」
そう言ってグラスをあおるジェスチャーをした。
「おう、分かった。9時過ぎでいい?」
僕は「きたな」と思った。
僕と愛川さんが不倫しているという噂に関して、新しい情報が入ったら逐一教えるように頼んでいたのだ。
普段はメールで教えてくれるようになっていたのに、こうやって仕事終わりに話があるということは大きな動きがあったに違いない。
21時15分に2人で会社を出た。
男2人同士でやましいことはないが、念には念を入れて隣駅の居酒屋を選ぶ。
「で、何かあったのか?」
「あったどころじゃないですよ、課長」
「なに?」
僕はとりあえずの生中を口に含みながら真剣に聞き入る。
「不倫の噂は店内の中ではほとんど皆が知っているくらい広まっています。しかも、驚いたことに昨日、京橋支店の僕の同期から『お前の支店の課長、不倫してるらしいやん』と言われました」
「はぁ?」
「課長、やばいですよ。本当に不倫してないんですよね? 他の支店にまで広まってます。ここまできたら、オレは庇いきれませんよ」
「だから、不倫どころか、店内でも仕事のこと以外で話したことほとんどないよ」
愛川さんは半年に一度の割合で開催される支店全体の飲み会にも数回に一度しか参加しないため、その行動パターンは計り知れない。
そんな愛川さんと僕が親しくなる機会はない。
「これは、マジでやばいな」
僕は心底、焦りを感じた。
僕の勤める会社では「不倫」が発覚すると双方、または一方が飛ばされるのが常だ。
過去にそういう先輩らの話を聞いていたし、実際に見てきたこともある。
僕は課長になってまだ1年。
キャリアに傷がつくことは確実だ。
それだけは何としても避けたい。
「課長、どうするんですか? おそらく支店長もこの噂をすでに知っているんじゃないんですかね」
「分かった……」
悔しいが、噂を流した人間が上手だ。
どういう意図があるのかは現時点では分からないが、僕と愛川さんにとっては圧倒的に不利な状況になった。
「大江、このままじゃいかん。これからも協力してくれ」
「はい、分かりました。しかし、怖いですね。こんな下らない噂で一人の人間が潰されるんですよ」
「おいおい、潰されるって」
そう言いながら、破顔して3杯目のビールに口をつけた。
 
このままじゃダメだ。
僕から行動を起こさないと取り返しのつかないことになる。
さっそく翌週の月曜日、僕はチーム内で個別面談と称して部下の8名と10分ずつ応接室で面談を行った。
愛川さん以外はカモフラージュだった。
大江のときに「課長、隣のチームの佐藤さんが愛川さんと仲が悪いって情報を掴みました」と新しい情報をくれたため、僕の中ではこのデマは佐藤さんが広めたのかもしれないと言う推理が出来あがっていた。
佐藤さんは愛川さんより1つ上、つまり僕より3歳上の女性だ。
結婚はしているが、とにかくプライドが高く後輩たちにも厳しい。
その佐藤さんが愛川さんと衝突した。
支店内の地位を保つため、愛川さんを陥れるために根も葉もない噂話を意図して流した。
そして僕はその相手として使われたのだ。
 
愛川さんが応接室に入ってきた。
「お疲れさまです。ちょっと数字が芳しくないのはご存知のとおりですが、チームの皆さんに気がついた点があれば教えてもらいたいなと思ってお呼びしました」
僕は全員にもっともらしい理由を話していた。
ただし、この愛川さんには数分でこの話を終わらせて、本題に入ることが目的だ。
「話は変わりますが、愛川さん、噂があるの知ってますか?」
「え? 噂ですか?」
愛川さんは僕の眼を真っすぐに見据えた。
本当にこの人は美しい人だ。
肌艶もキレイで40歳という年齢を感じさせない。
「その、僕と愛川さんが不倫しているっていう噂です」
「え? わたしが課長とですか?」
愛川さん右手を口元に当てて、笑いをこらえる素振りをした。
「ですよね?」
僕も苦笑した。
「いや、すいません。その、ある意味うれしいなと」
愛川さんは真面目な顔でそう言う。
「は?」
「あ、いや、変な意味じゃなくて」
僕はその後、噂が広まった理由について大江から聞いた情報をもとに考えた推理を披露した。もちろん佐藤さんの個人名は出していない。
愛川さんも「もしかしたら……思い当たる節はあります」と言った。
愛川さんとの認識合わせはうまくいったが、広まってしまった噂を消すことはできない。
これが最も難しい問題だった。
「わたくし和久田は、愛川さんと不倫しているという噂があるようですが、断じてそのようなことはありません」
そう店内の全体朝礼で発表できたらどんなに楽か。
悔しいが、犯人は情報操作に長けている。
面白半分にデマを流すのではなく、ちゃんと相手が追い詰められていくように仕組んでいるのだ。
「課長の奥さんが、愛川さんと課長が不倫しているのを知って、昼食時に愛川さんを外に呼び出し、慰謝料を請求したって噂になってます」
 
なんてバカげた話だ。
どこまでエスカレートするのか。
こんなつまらない冗談を皆は本気で信じるのか。
「正直、みんな信じきっています。これがデマだなんて思ってません。もちろん、僕は否定したんですが……」
大江は良いヤツだ。
こいつがいなかったら僕はどうなってしまっただろうかと、考えたらゾッとする。
こうなったら見えない敵と、とことん戦うしかない。
 
それからまず僕は隣のチームの豊島課長と二人で話す機会をつくった。
噂の根源とされる佐藤さんは豊島課長が率いるチームにいる。
ここまでの経緯、噂の否定を隠すことなくストレートに伝えた。
「そうだったのか。正直、噂を知ってからワクダくんと愛川さんのことを注意してみるようになったんだけど、時々二人が眼で合図しているように思ってしまってね」
「なに言ってるんですか、ハハハ。そんなことあるワケないじゃないですか」
「ハハハ、そうだよね。しかし、怖いなぁ。噂とはいえ、完全に信じ切っていたよ」
 
豊島課長の誤解はこれで解けた。
もともと陽気で豪快な性格の先輩だ。
仕事中はお互いを「課長」と役職名を付けて呼び合うが、二人きりになるとフランクに話す。
「ワクダくん、支店長にも話しておいたほうがいいよ」
「そのつもりでした」
「オレも何か、援護できることがあればさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
 
翌日、上原支店長と応接室に入った。
「何かあったの?」
僕はさっそく切り出した。
「支店長、僕の噂って知ってますか?」
 
僕は支店長と直接会話することにより、不倫の事実はないことを理解してもらった。
支店は全員で30人ほどいる。
全員の誤解を解く気はさらさらない。
しかるべき人がきちんと理解してくれればそれでいい。
もともと管理職とは、部下たちとの間に大きな壁がある立場にいるのだ。
部下たちに好かれようと媚びる必要はない。
僕の役目はいかに部下たちがモチベーション高く業務に取り組めるかの雰囲気作りと、的確な指示を出すことだ。
 
今回の経験で分かったのは「会社」という狭い世界では、たかが「デマ」が絶大な力を持つということだ。
どんなにベテランで偉かろうが、たった1つの「デマ」で潰されることもある。
その「デマ」がたとえ真実ではないとしても。
そしてその情報を操るのは、たった一人の女性だったりする。
正社員だとか、派遣社員だとかは関係ない。
あらゆる情報がネットに溢れているこのご時世では、「情報」を操作したほうが勝者なのだ。
人は他人のゴシップを好む。
それを利用して拡散したのだ。
なんと恐ろしいことか。
僕はこのデマで、あやうくこの先の会社人生が大きく狂ってしまうところだった。
それを流した犯人が佐藤さんなのかどうかは分からない。
今となっては特定するのが困難だ。
悔しいが、これ以上は気にしてもしょうがない。
 
それから1カ月が経った。
「ワクダ課長、そういえば最近は不倫の噂、聞かなくなりましたよ」
大江は僕に近づき、小さな声でそう言う。
「おそらく、もうこの話題は消えたと思うよ」
「え、そうなんですか?」
デマを流すときは、まずは身近な人間にあたかも自分が目撃したかのように話す。
しかも仲良い4人くらいのグループでいるときが効果的だ。
「あのね、わたし見ちゃったんだよね」
「え、え、え、なになに?」
「誰にも言わないでよ。不倫現場」
誰にも言わないでよ、は「皆に拡散してね」に変換される。
そしてこの話を聞いた他の3人はそれぞれが宣伝隊になるのだ。
これがいつの間にか「既成事実」になってしまう。
こうやってデマは広がり、取り返しのつかないところまできてしまうのだ。
仮に本人が知って、全力で否定しようとも周りからは本人が「認めた」と見えてしまう。
 
僕の場合は運がよかったとしか言いようがない。
おそらくは犯人の目的がデマを支店長の耳に入れて、僕か愛川さんをこの支店から飛ばす(左遷とも言う)のが目的だったのだろう。
支店長を味方につけてからは、どこかの場でデマを鎮静化させる働きかけがあったのか、あっという間に収まってしまった感がある。
支店内の情報通である大江もこの速さに驚いていた。
「いろいろありがとうな、大江」
「いいえ、とんでもないっす。今度、奢ってください」
大江はかわいいヤツだ。
 
ようやく決着がついた、そう思えた夜だった。
たった1カ月半前、デマによって自分が潰されるのではないかと恐れたが、自ら行動することによってこの危機を回避したのだ。
 
会社から出た僕は、最寄り駅まで歩きながら電話をかけた。
2コールで相手が出る。
「ようやく、終わったよ。これでもう心配ない」
「本当に? 良かった。ちょっと心配したわよ」
「オレもどうなることかと心底、焦ったよ。ま、大江が上手く動いて情報を掴んでくれたおかげかな。あいつには感謝しなきゃ」
「そうね、良かった」
駅のホームが見える。
「じゃあ、いつものところで」
「うん、私はもう先に入ってるわ」
「何号室?」
「201」
「りょーかい!」
僕は帰宅するのとは反対車線の電車に乗り込んだ。
 
※本内容は事実をベースにしたフィクションです。
 
 
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2017-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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