強引に勧誘されて始めた吹奏楽は、スルメみたいなものだった
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記事:高浜 裕太郎(ライティング・ゼミ平日コース)
「おい、お前吹奏楽なんかやってんの?」
「オタクじゃねぇーか。ワハハ」
これは私が言われた言葉ではない。中学校の時の、同じクラスの男子が言われていた言葉だ。彼の名前はY君という。Y君は、吹奏楽部唯一の男子部員だった。私は、彼が度々このような暴言を吐かれているのを聞いていた。私自身も「吹奏楽は女子がやるもの」なんて偏見を抱いていた。だから、吹奏楽部に所属している男子に対しても、「なんであんなものをやってるんだろう」と少なからず思っていた。
この時の私は、高校生の私が何部に入っているかなんて想像もしていなかった。
私は、15歳まで過ごした熊本を離れ、福岡の高校に進学した。そこは私立高校で、運動部に力を入れていた。私が中学校までやっていたサッカーも、例外ではなかった。特待生をたくさん取り、部員も数十人単位でいた。私が入っていた田舎の学校のサッカー部とは次元が違った。だから私は、サッカー部に入ることをスッパリ諦めた。きつい練習はしたくないと思った。
その頃、許斐剛さんの『テニスの王子様』にはまってた時期でもあったから、テニス部に入ってみようかなとも思った。テニス部は、特待生もほとんどおらず、やっていける気がしたからだ。けれども、顧問の先生とのそりが合いそうになかったので、これも止めた。
けれども、帰宅部だけは嫌だった。そもそも友達をつくるのが苦手な私は、部活に入って仲間と同じ時間を過ごさないと、友達ができないと思っていた。だから、何部でもいいから入ろうと思った。
その時だった。やたらと体格のいい人が、私に話しかけてきた。知らない人だ。
「ねぇ、ちょっと今時間いい?」
「え、はい。いいですよ」
校章を見る限り、上級生なのは確かだった。おそらく3年生だろう。部活動の勧誘だろうか。
「吹奏楽部なんやけどさ、見学だけでもいいけん来てくれん?」
彼は私に懇願した。今もそうだが、私は頼まれると断れないタイプなのだ。
「え、いいですよ」
すると彼の顔は明るくなり、「うおー! ありがとう! とりあえず部室に行こう!」と言って、自分についてくるように言った。私は承諾したものの、吹奏楽に対してはかなりの偏見があったので、適当に見学だけして帰ろうかと思っていた。
そして部室に入った時、私は出会ってしまった。現在まで続けることになる「打楽器」という存在に。
その学校は、マーチングに力を入れている学校だった。マーチングの打楽器は、とにかくカッコいい。叩くだけではなく、バチを投げたり、回したりする。それを、いとも簡単そうにやってのけるのだ。
その光景は、私にとって衝撃だった。同時に、「これが出来たらカッコいいやろうなぁ!」と思った。そして気付いたら、入部届を書いてしまっていた。
そんな衝動買いのような形で始めてしまった吹奏楽を、結局大学でも社会に出ても続けてしまい、吹奏楽歴は9年目に突入した。9年も吹奏楽をやっていると、吹奏楽に対して色々な思いが芽生える。その思いについて、少し話したい。
吹奏楽は、言ってしまえばスルメみたいなものである。大前提として、音楽に正解はない。上手い下手はあるだろうが、基本的に芸術なので、どんな音楽も認められるべきである。
そして、正解がないからこそ、やり込み甲斐があるのだ。自分が演奏する立場になった時には、「こういう叩き方をすれば、もっと良い音色が出るんじゃないか」とか「ここは違った叩き方の方がいいな」とか思ったりする。その思いは、吹奏楽をやり込めばやり込むほど、強くなる。自分が上手になって、表現の幅が広がれば広がるほど、やりたい音楽が見えてくる。
要するに、やり込めばやり込むほど、魅力が出てくるのだ。それは、スルメに似ている。
スルメだって、噛めば噛むほど味が出てきて、美味しくなるのだ。その意味で、吹奏楽はスルメなのだ。
中学校まではバカにしていたのに、高校になって始めてしまった吹奏楽。私は今でも、吹奏楽の魅力の虜になっている。
あなたがもし、オーケストラや吹奏楽を聞く機会があるのならば、奏者の「こだわり」に注目してもらいたい。その「こだわり」はきっと、音楽が持つ、スルメのような魅力から生み出されているものだと思うから。
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