メディアグランプリ

どん底から救ってくれたのは、海鈴さんだった


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記事:能勢ゆき(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
 私と私の家族が背負った、人生最大の後悔。
 それは、あーちゃんの死に目にあえなかったことである。
 あーちゃんの死は突然、何の前触れもなく訪れた。
 

あーちゃんとは、私が約22年間共に暮らした祖母の愛称だ。あーちゃんは共働きの両親に代わって、私と妹の世話を一手に引き受けた。よって幼いころの思い出の大半を“あーちゃん”が占めている。

朝は、あーちゃんの歌声で目が覚める。保育園へ行く時間になると、自転車の前後に私と妹を乗せて送ってくれる。保育園が終わり、私たち姉妹を迎えに来るのもやっぱりあーちゃんで。帰り道の途中にある小さな公園に寄り、三人でよく一緒に遊んだ。家に帰れば、大好きなあーちゃんの手料理が待っている。

高校生になり、朝早く家を出るようになってもあーちゃんは一番に起きてお弁当を用意してくれていた。決して文句も言わず、自分のことは後回しにして、いつも家族の幸せを最優先に考えているような人だった。
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そんな神様みたいな人だったから、自分の最期を家族に見せたくなかったのかもしれない。あーちゃんは、たった一人でそっと旅立ったのである。

突然の別れは、私たちをどん底に突き落とした。
「ただいま」と家に帰れば、「お帰り」と温かく迎えてくれる。そんな優しい日常が突如、消えてしまった。誰かがいるぬくもりが感じられた家の中は、真っ暗で冷たかった。

家族一人一人が深い傷を抱えていたが、それでも明日はやってくる。いつまでも落ち込んではいられない。私と母と妹は、努めて明るく過ごした。たとえ空元気であったとしても、家族以外の人たちにいらない心配をかけたくは、なかったから。何より、明るくしていないと悲しみの闇に囚われそうだったから。

だが、父はそれができなかった。あまりみも深く傷を負ってしまっていたのだ。

あーちゃんは、父方の祖母だった。母親を亡くし、しかも死に目に会えなかったそのことが父を大変、苦しめた。当時、父はまだみんなが寝静まっている時間帯に家を出て、夜中に帰ってくるというめちゃくちゃな働き方をしていた。そのため、あーちゃんとゆっくり話す機会がほとんどなかったのだ。

父は、ひどく沈み込んだ。夜は眠れず、ついには会社にも行けなくなった。もともと気分に波がある人だったため、あーちゃんが亡くなってからは、とことん落ち込み、笑わなくなった。

私たちは何とか父を励まそうと色々と試みてみたが、上手くいかなかった。その場では、少し笑顔を見せても気がつけば、暗い目をする。その寂しげな表情がたまらなかった。

そんなある日、思いがけない出会いが父を救うことになる。

六月に誕生日を迎えた母を祝うため、久しぶりに母と出掛けた父。出掛け先は、京都だった。

「京都に行くならさ、天狼院寄ってきなよ!」

私のお気に入りのお店を二人に紹介する。「あ、そこいつもあんたが話してるところやろ?一回行きたいおもててん。ちょっと覗いてみるわ。ね、パパ」

そして二人は、その日初めて天狼院書店に足を踏み入れた。その時、救世主となって父の前に現れたのが何とスタッフの山本 海鈴さんなのである。

何かおすすめの本がないか尋ねた父に、海鈴さんが紹介したのが川口さんの『コーヒーが冷めないうちに』であった。

実は、父は小説を全く読まない。父が読む本と言えば、専ら専門書やビジネス書の類だ。父は小説に対して、「現実離れしているもの」だという偏見をずっと持ち続けていたのである。

だがこの時、海鈴さんはこの本がいかに良い本であるのかということを父に力説したのである。その熱心さに心を動かされた父は、初めて自ら小説を購入するのであった。

その次の日、小説を真剣な顔で読んでいる父の姿を目にした私は、仰天した。さらに驚いたことに父は、購入したばかりの小説を僅か数日で読み終わったのだ。

「すごいよかった。こんなにええもんならもっと早く、読んどきゃよかったな」

『コーヒーが冷めないうちに』が、何かしら後悔を残した登場人物たちが過去に戻って、奮闘する物語が、母を亡くした自分に重なったことも相まって、余計に感動したのだろう。

そのことがきっかけで父は、小説を読むようになった。それに伴い、家族の中に今まではなかった文脈の会話が生まれるようになったのだ。小説が話題の中心となって、弾む会話。

あーちゃんがいなくなって失ったものもあるけれど、その後の出会いがまた新たなものを与えてくれる。

生きていれば辛いこともあるけれど、楽しいこともたくさんある。
新しい出会いのきっかけを提供してくれた海鈴さんは、私たち家族のヒーローなんだ。

 
 
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2017-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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