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臆病者の極みだった私を変えたのは、女子サッカー部だった


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記事:山田あゆみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「自信がなさそうにするの、やめればいいのに」
大学時代、女子サッカー部の同級生が、私の目を見てはっきりと言った。日の沈んだグラウンドには、私と彼女以外に誰もいない。部活の練習は1時間も前に終わっていた。私たちはいつも、自主練と称して夜遅くまでグラウンドに残って、ボールを蹴っていた。その日も、2人で足当てと呼ばれる基礎練習をしているところだった。
「こんなに練習してる。頑張ってるじゃん。なんでそんなに自信なさげなのっていつも思ってた。あゆみは、出来るよ。もっと出来る。」
 
18歳の春、女子サッカー部に入った。これまで運動部未経験で、中学、高校の体育の持久走では、最下位グループの常連だった。そんな私が一念発起して練習がハードな運動部に入ったのだ。当然のように、練習はきつく、試合には出られず、先輩に叱られてばかりだった。そもそも体力がなく、センスもなく、週に4回の練習についていくのもやっとの状態だった。練習が終わる度に全身筋肉痛になった。いつもくたくたになるので、授業中も眠くてたまらなかった。それでも自主練は、やめなかった。下手なままでずっといるなんて嫌だった。憧れの先輩達のようになりたかった。ただただ試合に出たかったし、勝ってみんなと喜びたかった。でも、いつまで経っても全然上手にならなかった。やってもやっても上達しなかった。
 
パスもトラップも、ミスばかりした。ディフェンスでは、相手の前に飛び込みすぎて、抜かれまくった。それでも部活の練習に出続けて、その後は自主練をしていた。少しでも長く、ボールを蹴り続ければ、きっといつの日か出来るようになるだろうと思っていた。その日、同級生の彼女に自信の無さを指摘される前までは。
 
自信がないことを見抜かれていたことに動揺したわけではない。自信がないに決まっていた。こんなにも下手なのだから。誰がどう見てもサッカーという競技に向いていないし、出来ないし、申し訳なさそうにしていて当たり前じゃないかと思った。コーチにもチームにも、私が練習の妨げになっているようで、不甲斐ないと思っていた。
 
彼女の発言が衝撃的だったのは、失敗に対しての予防線として、意図的に「自信のない自分」であり続けていることに、初めて気が付いたからだった。ちっぽけなプライドを守る為に、
「私、自信ないんです」
と、まわりのみんなと、自分自身に態度で示して、失敗する度に、
「ほら、やっぱり出来ないでしょ。自分でわかっているし、身の程をちゃんとわきまえていますよ」
と、声に出さずに言い訳をしていた。失敗で生じる心への衝撃を和らげるためだけに、かなりの労力を費やしていた。なんてかっこ悪いんだろう。ただ下手なだけより、何十倍も何百倍もかっこ悪い。きっと一緒に練習をしているみんなも、不快だったに違いない。私以外の全員は、前を向いて、真っ直ぐに、ただ上手になるために、そして試合で勝つために、練習をしていた。私だけが「出来ない自分」から目をそらし、ただ下手な言い訳ばかりして、自分の心に傷をつけないことばかりに気を配っていたのだ。そしてそんな状態に自分が陥っていることにさえ、気が付いてもいなかったのだ。私は、自分に心底呆れ果て、とてつもなく嫌気がさした。自分が恥ずかしかった。でも、同時にここで絶望したところで、結局同じ事の繰り返しになることは、わかっていた。それだけは、避けようと思った。これ以上自分を嫌いになりたくなかった。
 
その日から、ただ闇雲に練習するのはやめた。自分は何が出来ていて、何が出来ていないのかを、まずじっくりと分析するようにした。どうしてパスをミスするのか。蹴り方がおかしいのか、パスをする相手やスペースを見ることが出来ていないのか。蹴り方が間違えているのなら、どうしたら出来るようになるのか。練習は出来ないことを、出来るようにする為のものなのだ。だから何が出来ないのか、どのくらい出来ないのかを把握することから始めるべきであることに、やっと思い至った。心が脆くて弱い私は、「出来ない自分」に直面することを極端に恐れて、ただ闇雲にボールを蹴る時間を長くすることで、努力した気になっていただけだった。私は本当にプライドばかりが異常に高い、臆病者の極みだった。とても辛くて苦しかったけれど、そんな自分に真っ直ぐ向き合う以外に、道はもうなかった。
 
それからサッカーは、少しずつ徐々に上達し、自分に出来ることが以前と比べると、格段に増えた。練習が楽しくなった。もう自信のない私は消えていた。失敗は相変わらず多かったし、その度にへこんだけれど、それさえもステップアップするための糧だと捉えられるようになっていった。
 
今でも言いにくいはずであっただろうことを、ぼかすことなく、そのまま伝えてくれた彼女に、とても感謝している。彼女の言葉がなかったら、きっと私はいつまでも臆病者のまま、課題や困難に本当の意味で立ち向かうことなく、逃げ続ける人生になってしまっていたに違いない。
 
何かがうまくいかない時、いつも彼女の言葉と、サッカーに明け暮れた4年間を思い出す。そして自問自答する。ちゃんと問題を真正面から捉えられているか? 言い訳をして逃げていないか? 卑屈になることなく、真っ直ぐに問題に向き合うことが出来たなら、それがどんなに難しいものであっても、いずれは必ず乗り越えられると、今はもう知っている。
 
 
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2017-08-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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