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田舎暮らしは海外留学。刺激的で新しく、驚きに溢れた豊かな体験


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記事:石田葵(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
わたしは大阪の市内で生まれ育ちました。
遊び場は京橋や梅田、難波などの繁華街。
母は自営業で忙しいうえ、アウトドアは趣味じゃなく、野山をかけるとか、海や川で遊ぶというのは小中学校の林間合宿のときくらい。それも子どもの宿泊先に選ばれるくらいの場所なので、人工の中の自然、「疑似自然」とでも言いましょうか。祖父母も自転車で10分程度の場所に住んでいて、自然の中の暮らし、というのを経験したことがありませんでした。
 
どれくらい都会っ子だったかというと・・・・・・
大学生のとき、京都丹波篠山にある大学の合宿所に行ったときのこと。宿の脇、真っ直ぐな緑の草が畑の中ににょきにょきと、腰の高さくらいまで生えていたんです。それを見たわたしは、
 
「なんやろこれ? おっきなニラみたいやな」
 
と言いました。すると、隣を歩いていた友だちが
 
「これ、稲だよ葵ちゃん」
 
心底呆れたような顔で言いました。
 
稲? じゃあこれは、畑じゃなくて田んぼなのか・・・・・・?
 
稲と言えば、秋の黄色に色づいた稲穂の状態しか知らなかったんですね。
お米が育つ過程を見たことがなかった。稲穂の前の状態がどんなものかを気にしたこともなかったんです。
 
そんなわたしが就職したのは、福岡のコンサルティング会社でした。
事業内容は農村漁村の活性化、いわゆる「地域おこし」「村おこし」と呼ばれるもの。
依頼主は市町村の役所が多く、地域の資源を発掘したり、ツアーを組み立てたり、特産品を作ったり農村漁村民泊を立ち上げたり。わたしはコンサルアシスタントとして「田舎」というもの、「自然の中での暮らし」の文化に初めて関わることになりました。
 
それからの毎日は、驚きの連続でした。
 
熊本県人吉市の、ある郷土料理レストランを訪ねた時は、「ようきたね。今日はちょうど草刈りの日よ」といきなり鎌を渡されました。人材マッチングの現地アテンドが今日の業務と聞いていたわたしは、胸元が開いたノースリーブのトップスに細身のスキニーパンツ、それににパールのロングネックレスを重ね付け。ヒールが10cmはあろうかというミュールを履いたイケイケスタイル。「あんた、そんなんじゃヤブ蚊にやられるよ」とアームカバーをはめられノリ面に追い立てられて、真夏の炎天下、夕方までひたすら草を刈り続けたり・・・・・・。
 
長崎県野母崎で漁師さん宅にお邪魔したときは「亀の手食べてみい。うまいから」と、緑の爪がついたまま塩ゆでされた「亀の手」をどんぶりにドンッと出され、しかし仕事先で断るわけにもいかず断腸の思いで食べたところ、後日それが「亀の手」と呼ばれる「貝」ということが分かったり・・・・・・(その場では誰も教えてくれなかった。なぜ)。
 
大分県安心院の農家民泊に止まった時は、食事中、正面の壁をムカデが這い回り悲鳴をあげ、カバンに手をいれたらムカデが腕を這い上がってきて悲鳴をあげ・・・・・・。
 
ああ、福岡の田川で田んぼに降りたら、草を踏んだ瞬間ヘビが足をぞろりと抜けて腰を抜かしたこともあったっけ・・・・・・(みんな笑ってたなぁ)。
 
もう、とにもかくにも考えられないことばかり。
なにもかもが刺激的で新しく、目が覚めるような驚きに溢れていました。
そしてその驚きは、ものの見方を変えるきっかけとなり、今まではとは違う価値観をもたらしてくれたのです。
 
それは、大学時代の海外留学経験を思い出させました。
 
ことば、食べるもの、文化、景色、そこにいる生きものたち。
わたしを形作ってきたものとは違うものたち。
 
テレビや雑誌で「情報優位」に立ったようなつもりになっていたわたし。
実際に体験していなくても、わかったつもりになっていたわたし。
 
そんな小さくてちっぽけな世界は鮮やかに塗り替えられて、
 
(ああ、こんなにも世界は豊かなんだ)
 
本当にわくわくしました。すごく風通しが良くなって、意識まで軽くなって嬉しくて。
 
それは、海外だからだと思っていました。
国が違うのだから、人種が違うのだから、歴史が違うのだからなんだ、って。
 
違いました。
豊かな世界は、こんなに近い場所にもありました。
 
わたしの上司は、「7つの風」という言い方をしていました。
 
風土
風景
風習
風俗
風格
風味
風情
 
その土地に根ざした独自の風があり、それが魅力なのだと。
なにものにも代えがたい地域のタカラなのだ、と。
 
仕事で九州中を巡らせてもらいました。
九州7県の風を感じ、そのたびに自分の小さな世界に穴が空いて、ふうっと風が通り抜けるあの喜びを味わいました。
 
都会生まれといえども、わたしほど無知な人もそうそういないとは思います。
稲が元々青いのなんて知ってるよと、ここまで読んでくださった方もきっと苦笑されたことでしょう。
あなたみたいなギャップの大きさはなかなかないよ、と。
 
でもきっと、知っているのと体験するのとでは全く違う。
 
もう、わたしは声を大にして言いたい。
ここに、こんなに素晴らしい異文化があるんですよ!
ほんとうに「ちゃんと」知っていますか!
 
いつもより少しだけ遠くに、少しだけ知らない場所に、少しだけ深く入ってみれば、そこは知らない風が吹く場所かもしれません。
 
それはきっと、刺激的で新しく、目が覚めるような驚きに溢れた場所。
そこを訪れた後は、世界が少し豊かで美しく見える場所。
そんな場所は、意外と身近にあるのだと今のわたしは知っています。
 
今年もまた、稲が黄色に色づく季節がやってきますね。
わたしもまた、新しい風を探しにでかけてみようと思っています。
 
 
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2017-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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