就活で100社以上落とされた私にとって会社で働くということ
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記事:上田光俊(ライティング・ゼミ日曜コース)
「またダメだったか」
これで何通目になるのだろう。
僕の自宅の郵便受けにはエントリーしていた企業からの不採用通知が届いていた。僕は焦っていた。大学を卒業してから半年も経とうとしているのに、僕はまだニートを続けていた。いつまでもこんなことを続けているわけにはいかない。僕は早く就職しなければならないと焦っていた。別に就職するために大学に進学したわけではないけれど、1年間浪人して大学に入ったのだから、卒業と同時に就職して両親を安心させたかったし、あまり負担をかけたくはないとも思っていた。
大学時代の同級生たちはちゃんと就職して、そろそろ研修期間も終わりを迎え、実際の業務に移ろうとしていた。僕と同様、まだ就職できずに就活を続けている同級生もいるにはいたが、それほど真剣に就活しているというわけではなく、何度も何度も不採用通知が届くのは僕だけだった。
「慎重に選考を重ねました結果、まことに残念ながら今回についてはご期待に添えない結果となりました」
何度、この文言を見たことだろう。まるでこれ以外の文言はこの世には存在しないかのようにさえ思われた。最近では、企業からの封書を手にしただけで封を開ける前に、その薄さから不採用だということがわかるようにまでなっていた。
僕は大学進学とともに地元を離れ、京都で一人暮らしをしている。勿論、アルバイトはしていたが、就活に専念するため、決まったところで週何日という勤務形態ではなく、肉体労働の日雇いのアルバイトをしていた。就活時の適性検査や筆記試験、個別面接などの日程を調整しやすいというのがその理由だ。しかし、そんな状態ではアルバイト代だけで生活していけるはずもなく、生活費の大部分を親からの仕送りに頼っていた。大学を卒業してニートになった頃は、こんなに長く就職先が決まらないとは思ってもみなかった。
僕は必死だった。
もがき続けた。
落ちた企業は軽く100社は超えていたと思う。
それからも相変わらず何度も何度も不採用通知が届く毎日だったが、その半年後、とうとう僕は念願の採用通知を勝ち取ることができた。
僕は嬉しかった。
1年近くニートを続けてきてからのやっとの思いで勝ち取った正社員採用だった。もうここまでくると、会社に所属できて毎日働ける場所があるということだけでありがたく、仕事内容のハードさなんてほとんど気にならない。僕は嬉々として仕事に励んだ。勿論、嫌になることも何度もあったし、理不尽なこともたくさんあった。それでも、僕は毎日働ける場所があって、安心して仕事ができるということにこの上ない喜びを感じていた。
僕が採用通知を受け取ってから16年もの時間が流れたけれど、今もその思いは変わってはいない。1年近くもの間、不採用通知を受け取り続けたあの日々は、本当にしんどかった。しかし、あの期間があったからこそ、僕は毎日の単調な仕事でさえも喜びを感じながら日々の業務を続けて来られたと思っている。僕にとっては、毎日働ける場所があって、安心して仕事ができるということは決して当たり前のことではなく、本当にありがたいことだった。そのありがたさは言ってみれば、断食後の真っ白なご飯を食べた時のような絶妙な美味しさに似ている。
断食といっても、医師の指導の下、特別な施設や医療機関でやる本格的な断食でなくてもいい。週末だけのプチ断食でもいい。断食中は飲み物だけで固形物はできるだけ口にしないようにするから、その間は個人差があるとはいえ、かなりしんどいものになるかもしれない。しんどさのピーク時には食事のこと以外考えられなくなるだろうと思う。だからこそ、日々当たり前のように口にしている真っ白なご飯のありがたさや美味しさが体感としてわかるのではないだろうか。
普段から僕たちは当たり前のように食事をしている。今の日本で普通に生活していれば、食べるということに困ることなんてほとんどない。食料があるということ自体が当たり前になっていて、毎日食事ができるということからありがたさが感じられなくなっていき、日々口にする真っ白なご飯の美味しさでさえもわからなくなってしまう。しかし、毎日食事ができるということは、実は当たり前のことではないし、真っ白なご飯は本当はとても美味しいのだ。
今に始まったことではないかもしれないが、会社が嫌だからという理由だけで簡単に会社を辞めてしまう人が後を絶たない。キャリアアップのためや、他になりたい職業があるからというのなら、転職しても全然かまわない。世の中にはブラック企業なるものも存在するらしいから、パワハラやいじめが横行しているような職場からはできるだけ早く去った方がいいと思うし、会社を辞めるということ自体を否定しているわけでもない。はっきり言って、好きにしたらいいと思う。しかし、そういった明確な理由があるわけでもなく、日々がつまらないからという漠然とした理由で会社を辞めてしまうというのは実にもったいないことだと僕は思う。
毎日働ける場所があって、安心して仕事ができるということは、決して当たり前のことではない。それは、僕たちの心をとても穏やかにしてくれるありがたいものであり、断食後に初めて食べる真っ白なご飯のように、そこには絶妙な美味しさが存在しているのだ。
最後に、僕はその16年間務めた会社がなくなってしまったおかげで、そのありがたさと美味しさを、身をもって体感している最中であるということを付け加えておきたいと思う。
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