メディアグランプリ

味塩コショウを、人生に。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小濱江里子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
あれは、東京を離れる直前の3月だった。
東京の進んだ看護を勉強したい、と上京して3年、理想と現実のギャップやどこにいても満員電車のように人の多い暮らしに息がつまりそうになっていた。
「一度看護師を離れてみるのもアリかもしれない」
そう思って、仕事を辞めて、本当は何がしたいのか考えてみよう、と3年過ごした東京を離れることになっていた。その頃、新宿ルミネの本屋さんで、目に止まったのがトイカメラコーナーだった。
「え? 何これ……。ふつうのどこにでもあるような風景じゃん……」
並べられた本やそこに載っている写真が目に入り、息を飲んだ。
だって、これって、ふつうに暮らしてると素通りしてしまうような景色が、そこにはどこかの物語の一場面みたいに素敵に写し出されていたのだから。
プラスチックレンズやチープな素材でできたトイカメラと言われるおもちゃのカメラで撮られたその写真たちは、あたりまえの日常の中にこんなに素敵な一瞬がいっぱいあるよ、と言っているようだった。
このトイカメラとの出会いがきっかけで、フィルムカメラが大好きになってしまったのだ。
そもそも、デジタルが主流になりつつある時代に、フィルムカメラなんて周りで使っている人はほとんどいなかったし、フィルムを使ってると言うと、へぇすごいね、という言葉と裏腹に距離が開くのを感じた。
実際、フィルム代は高かったしどんどん値上がりしている。フィルム1本買うにも、今ではランチ代くらいするものもある。しかもかかるお金はそれだけではない。フィルムカメラで撮影した後、そのフィルムは現像に出してプリントしてもらって初めてどんな写真が撮れたかがわかるのだ。撮影だって、ご近所でできればいいけれど、せっかくなら景色のいい場所や好きな場所で撮影したい。となると、撮影するにも交通費がかかるし、動物園でも行こうものなら入場料、さらにランチをすればランチ代、と、フィルムカメラで撮影してその写真が手元に届くまでには、時間もお金も半端なくかかる。しかも、何と言ってもフィルムには撮れる枚数というのがあって、36枚撮りのフィルムを使って撮影したら、それを撮り終わらないことには現像に出す、というステップに進めないのだ。
それだけの手間暇かけて撮影して、いつでも満足のいく写真が撮れるのかといえば、そうではない。36枚撮りのフィルムをようやく撮り終えて、出来上がったプリントを見て、「よっしゃ!」と思えるものはほんの数枚なのだ。
ウキウキしながら、現像に出したプリントを受け取りに行って、プリントを見てみると「あれ……。思った色と違う……。」ということはよくある。というより、写真屋さんによっても色が全然違うのだ。撮りたいイメージに合わせて写真を仕上げてくれる写真屋さんを探すことが、実は一番大変かもしれない。
それだけの時間とお金をかけたところで、満足のいく写真が撮れるのはほんの数枚程度なのだ。
だけど。
フィルムの良さは効率ではない。
コストパフォーマンスでもない。
フィルムは、タイムマシンなのだ。
その場で写真が見れてしまうデジタルカメラとは違って、フィルムカメラはどんな写真が撮れているのかその時にはわからない。わからないからこそ、デジタルカメラで撮ったら消してしまうような写真だって、プリントされて形となって出来上がってしまう。
学生の頃、友達とカラオケボックスでマイクを持って撮った写真も、今見ると「なんで撮ったんだろう?」と苦笑いしたくなるけど、デジタルなら消してしまって今はないかもしれないその写真も、フィルムで撮ったからこそ残っていて、その時のみんなで過ごした時間の楽しさも含めて思い出させてくれるのだ。
そして、手間暇かけて出来上がった写真は、デジタルにはない風味がある。フィルムによって色の雰囲気が違うし、写真屋さんが現像して色を仕上げる過程でも撮影者の意図を考えながら仕上げてくれるプリントは加工してできあがるデジタルの色とは全く違うなんとも言えないあたたかさがある。何気ない毎日を切り取った写真は、それがどれだけ貴重なのかを教えてくれる。フィルムだからこそ出る味わいは、突然余命宣告を受ける映画を観たあとのように、あたりまえの日常がこんなに貴重で奇跡だったのかと感じるほどに、目の前の景色を変えてくれるのだ。
その変化を一度体験してしまうと、日常の些細な場面やいつも見ている景色さえも、まるで調味料がかかったかのように、味が変わっておいしく感じるようになる。白いご飯から出る湯気も、少し焦げたサンマに添えた大根も、見上げた空に浮かぶまあるい月も、葉っぱから滴るいくつもの水滴も、そのどれもがこんなに素敵な世界に住んでいるよ、と教えてくれる。
そうだ、撮り終えたフィルムが3本あった。明日はあれを現像に出しに行こう。どんな景色が写っているんだろう。
 
 
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2017-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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