美人がコンパに来る理由。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:近藤裕也(ライティング・ゼミ日曜日コース)
「絵里ちゃんって超美人やんね! ここにおるのが不思議やわ!」
お酒が入って陽気な涼介は、ケタケタと笑いながら目の前の絵里ちゃんにそう伝え、持っていたジョッキのビールを一気に飲み干した。
そんな涼介を見ながら絵里ちゃんは苦笑いし、消えるような声で「ありがとう」と伝えた。
その表情から見て、全く嬉しそうには感じられないのは、言うまでもない。
僕はそんな涼介を見て、「なんて浅はかな男なんだ」と呆れていた。
僕はこの日、大学時代からの友人である涼介に招かれたコンパに参加していた。
形式は4対4。涼介が以前参加した街コンで知り合った女性の希望で、今回の会が開催された。
正直に言うと、男性陣は冴えないメンバーだった。しかし、女性陣は違う。
職業は「看護師」「クリニック受付」「秘書」「保育士」と、「男性が付き合いたい職業の女性ランキング」の上位を網羅したようなメンバーで、少し申し訳なくなるくらいだ。
その中でも秘書の絵里ちゃんは、とびっきりの美人だった。
モデルに引けを取らない整った顔つき。握りこぶしほどしかない小さな顔。搔き上げた前髪。
タイトなワンピースから覗かせるスラッと細く長い脚に、僕たち哀れな男性陣は、叶うはずもない今宵の夢を重ねている。
冒頭のセリフは、そんな絵里ちゃんに心を奪われた涼介が放った、精一杯の褒め言葉だ。
彼は昔からドがつくほど不器用で、こんな言葉でしか好意を伝えられない。
そんな涼介の想いとは裏腹に、結果的には絵里ちゃんの心を、自分からさらに遠い場所に離すことになった。
彼がそれに気づいているかどうかは、わからないけれど。
ただ彼が言うように、「美人がコンパに来るのは不思議」という考えを持つ男性は多くいる。
何ならその後には、「何か性格的に難があるのではないか?」という余計な疑いの言葉が続く。
女性からすれば、非常に迷惑な話だろう。だけどそれは、「美人はモテるから、勝手に恋人ができる」という固定概念が、男性に根付いているからなのだ。
実際に僕が幼稚園時代に初恋をしたあの子も、小学校時代の6年間を費やして想いを募らせたあの子も、中学時代に恥ずかしいフラれ方をしたあの子も、ひっきりなしに男性のアプローチを受けていた。
そして彼女たちは中学生、高校生と思春期になるにつれて、周りにいる男性の多くを虜にし、隣にはいつも選りすぐりの男性がいたことを覚えている。
「学生時代はさ、めっちゃモテてたんやろ?」
涼介の言葉に白けた顔をしていた絵里ちゃんに、僕はそう尋ねてみた。
絵里ちゃんは学生時代を振り返り、思い出に浸ったような遠い目をしながら、そうだねと一言呟いた。
そりゃそうだ。彼女のような美人は、きっと学生時代も校内一の美女だったに違いない。
そんな女性を、誰が放っておくだろう。きっと校内一イケメンと言われるほどの男性が、彼女の隣にいたはずだ。
だけど今、そんな彼女の隣には、男性の影はない。
これは偶然なのだろうか。いや、僕はこれを必然だと思った。
「でもさ、社会人になった途端、そんなアプローチってパッタリなくなったやない?」
「そう! 寂しいよね。学生時代はモテたのに、今は誰も言い寄ってくれないんだもん」
僕の言葉に、絵里ちゃんは浸っていた思い出から急に現実世界へ戻り、ため息混じりで、その胸の内を漏らした。
僕が「彼女の隣に男性の影を感じないのは偶然ではなく必然」だと思ったのは、理由があった。
それはある種、「企業のマーケティング活動」と、重なるものを感じたからだ。
例えば仮に、誰もが知る有名な企業が、世間の常識を変える商品を開発したとする。
そしてそれを、多くの消費者が待ち望んでいたとしよう。
さて、この会社はそんな商品を開発した「だけ」で、それを消費者に販売できるだろうか。
答えは「×」だ。そんなに簡単で、単純なことではない。
企業は開発した商品を売るために、情報を発信し、商品のプロモーションを行うだろう。
そしてニュースがその商品の存在を取り上げ、見込み客である消費者がその商品の存在を知って初めて、消費者が商品を購入するかどうかを検討するステージに立つことができる。
どれだけ良いと言われる商品も、買ってもらうためのマーケティング活動をしなければ、実際に売ることはできないのだ。
それは、恋愛における美人の立場であっても同じだ。
学生時代は自然と周りに男性がいて、自然にアプローチされる環境があった。
だから、特に出会いを求める活動をしなくとも、男性の方から「付き合ってください!」と言い寄ってきてくれた。
そんな「インバウンド型の恋愛」でも、十分ことが足りていたのだ。
しかし、彼女たちの自然な恋愛需要は、幼さの残る美女から、大人の美人に切り替わる20代前半を境に、徐々に終わりを迎えることになる。理由は簡単。社会に進出するからだ。
どんな美人でも、ひとたび社会に出てしまえば、今までにあった「インバウンド型の恋愛」が機能する環境に、身を置くことはできない。恋愛を目的に会社に集まる男性はいないのだ。
そんな状況の中で恋愛をするには、「自分から出会いの場に行く」必要がある。
ほとんどの美人は、今までのインバウンド型の恋愛に慣れてしまい、社会に出た途端に出会いがないことを言い訳にして、幸せになることを放棄している。
でも彼女、絵里ちゃんは違う。幸せになるために何が必要なのかを考え、実際に「コンパに行く」という行動にまで落とし込んでいるのだ。
このコンパでは、求める相手と出会えなかったかもしれない。でもそれは時間の問題だ。
彼女はきっと、いつの日か出会う最高のパートナーと共に、最高の幸せを感じる瞬間を、その手で掴むことができるだろう。
時計を見ると、時刻は22:00を回ろうとしていた。
幹事の涼介が少し大きな声で、この会の締めの言葉を話している。
少し飲み過ぎていたのか、ろれつがあまりうまく回っていない。
「あの人、明日になったら私の顔も忘れてそうだね」と、絵里ちゃんは苦笑いした。
そしてその後、「今日は楽しかったよ、ありがとう」とニッコリ笑い、席を立った。
「絵里ちゃん、めっちゃ可愛いやん。なんで彼氏おらんのやろ」
おっと。僕もまだまだ、考えが浅はかだったようだ。
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