メディアグランプリ

袋に包んだら言えた言葉


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
記事:小高理子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
スマホが光った。メッセージが浮かび上がる。
 
「사랑해요」
え。
一瞬、手が止まった。
この言葉は韓国語で、愛してるよ、という意味。誰からだろう。
 
スマホを手に取り、メッセージを確認する。送り主は韓国の友達だった。
この友達は、韓国に留学している私を気にかけ、こうしてメッセージをくれる。メッセージをくれることはもちろん嬉しい。でも困った。
 
愛してるよ、ってなんだ?
おかしなことを言ったかな。自分の送ったメッセージを見てみても、特におかしなところはない。
 
愛してるよときたら、なんて返したらいいんだろう。「ありがとう」かな。これだとそっけないか。せめて「好きだよ」くらいは。うーん。でもやっぱり、「愛してるよ」? 
いやいやいやいや。愛してるよなんて、そもそも生まれてから使った覚えがない。無理無理。頭の上で言葉がぐるぐる。ありがとう? 好きだよ? 愛してるよ? 
 
そもそも사랑해요って、本当に愛してるよ、って意味なのか?
もしかしたら、勝手に勘違いして困っているだけ、という可能性もある。
そこで私は、사랑해요を検索してみた。
사랑해요
読み方: サランヘヨ
日本語訳: 愛してるよ
 
結局この文字が、サランヘヨと読むこと。愛してるよ、という意味であることは、紛れもない事実のようだ。
頭の上でぐるぐる回る言葉を選ぶことができず、最終的に私は、「♡」を送った。愛してるよ、とは言えなかった。
 
次の日、普段通り学校に行き、普段通り家に向かって歩いていた。
外国に1週間もいると、その国の言葉に慣れていく。慣れると、周りの声が耳に入ってくる。
 
「また明日ね。愛してるよ」なかなか別れようとしない恋人たちの声。
「ほんとに愛してる~」真ん中の子に抱きつく、男の子たちの声。
「お母さん、愛してるよ~」お菓子を貰って喜ぶ、子供の声。
 
愛してるよ、ってなんだ?
私の耳に、何回も何回も入ってくる。
耳を塞ぎたい。怖い。早く家に帰りたい。歩く速度が速くなる。
早く早く。家の鍵を開け、勢いよくドアを閉めた。
 
ふーっと息を吸い込む。落ち着こうとスマホを手に取ったその時、
「사랑해요」という文字が見えた。
 
私は、この言葉に恐怖を感じ始めていた。愛してるよ、という言葉を聞くことも見ることも、怖くなっていた。
でもここにいる以上、耳も目も塞げない。よし、正面から向き合ってみるか。
 
改めて考えてみると、日本人は愛してるよ、という言葉を使わない。恋人であってもここぞ、という時だけ。頻繁に使うとチャラ男呼ばわりで、むしろ逆効果。夫婦であればもっとひどく、気持ち悪がられる可能性だってある。つまりリスクが高い。リスクが高いから、日常的には使わない。だから日本人は、愛してるよ、に対する免疫がない。
私も、その日本人の中の1人。
愛してるよを聞くことも見ることも怖く、重く感じた。
 
それから1か月。不思議とあの頃の怖さは消えていた。友達からの愛してるよのメッセージを見ることも、少しづつ慣れてきた。
 
あれ? 今日は愛してるよがない……
何かあったのかな。いや私が悪いことをしたかな。不安になる。
友達が遠くに行ってしまう。今すぐ何か伝えなければいけない気がした。何を伝えたら……。大好きだよ? ありがとう? 伝えたい言葉はたくさんある。でもどうやって伝えよう……。
 
人は、好きだという気持ちや感謝の気持ちを伝える時、プレゼントをする。手作りで何かをつくったり、高価なものを買ったり。最後に手紙を添えたりもする。伝えたい気持ちをものや手紙にして、1つの袋に包む。プレゼントは、渡す人ももらう人も、何だか幸せになる。
 
今伝えたい気持ちを、1つにして渡せたらどんなにいいだろう。
そんなことを思いながら、私は夢中で手を動かしていた。
 
「愛してるよ」
初めて言えた。
すぐに既読が付く。返事は、
「愛してるよ」
 
友達には、特に深い意味はなく、たまたま送らなかっただけかもしれない。私の考えすぎだったのかもしれない。でも愛してるよを伝えた時、今まで感じたことがない程幸せを感じた。隣で友人が微笑んでくれた気がした。
 
好きという気持ち。ありがとうという気持ち。たくさんの気持ちを1つにしたら、愛してるよ、になる。韓国人にとっての愛してるよにはたぶん、検索しても出てこない、日本語に訳せない意味があるのだと思う。
 
私は今日本にいる。愛してるよを聞くことや見ることは少なくなった。少し寂しい。
それでも大事な人に伝えたい気持ちは、毎日溢れてくる。毎日プレゼントを渡したいくらい。
 
プレゼントは毎日送れない。
ただ、この言葉は毎日送れる。
好き。ありがとう。たくさんの気持ちを1つの袋に包んで。
 
愛してるよ。
 
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜選べる特別講座2講座(90分×2コマ)《11/5まで早期特典有り!》

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2017-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事