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やおよろずの神様が集う


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しんごうゆいか(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「お米にはね、一粒に七人の神様がいるんだよ。残すとばちが当たるんだよ」
「だいじょうぶだよ、まま! ぼく、ちゃんとぜんぶたべれるよ!」
 
その日、僕は週末を利用して福岡まで一人旅に出ていた。本当は同行者がいる予定だったのだが、ある事情で一人旅になってしまった。そんな旅先でふらっと入った小さな定食屋は、お昼時だというのに、客は僕とあの親子しかいない。5歳くらいだろうか、可愛らしい男の子が自分の顔と同じくらいのお椀を掴んで必死にかき込んでいる。それを、隣に座っている母親が本当に愛しそうに見つめていた。
 
「米一粒に七人の神様、かあ」
誰もが幼いころに耳にしたことがあるであろうこの文句には、七人の神様が登場する。その他にも、ここ日本には八百万(やおよろず)の神様が存在するといわれている。その全ての神様を知っている人なんているのだろうか。いたとしても、その道の研究者か、相当な信仰心の持ち主、あるいはただの物好きか。ちなみに僕はほとんど知らない。そもそも、神様という本当に存在するのかもわからないものは信用しない性質だ。わかっても数人くらいだろう。
 
「まま! みて!」
「わあ! 凄い! 偉いねえ!」
どうやら先ほどの男の子がきれいにご飯を完食したようだ。お椀をかかげて誇らしげな顔をしている。
なごむなあ、とその親子を眺めながら、自分も注文した餃子定食に手を付けた。
「いやあ、やっぱり子供は可愛らしいですねえ」
突然話しかけられ、危うく口に入れた餃子を吹き出しそうになった。自分とあの親子以外に客はいないものと思っていたが、いつのまにか隣のテーブルに一人の男が座っていた。グレーのパーカーにジーンズというラフな格好をしたその男は、そんな僕を見てカカカと笑った。
「驚かせてしまったようですね。すいません」
「あ、いえ、まぁ……」
「いやあ私ね、よく友人と食べに来るんですよ。今日も後から友人が来る予定でね」
謝るものの、悪びれた様子のない男はそう言うと、お品書きを手に取り、あれもいいこれもいい、と独り言を呟いている。 
「餃子もいい。だが唐揚げも捨て難し……」
変な人に絡まれたものだ、と思いながら、僕はまた餃子を口に入れた。
「あれ、そういえばお連れの女の人はどうしたんです?」
お品書きを眺めながら言った男の言葉に、再び餃子を吹きそうになった。一体何なんだ。
「……いや、僕は一人客ですが」
「え、そうなんですか? てっきり女性と一緒かと思っていたもので」
僕は少し気味が悪くなった。確かに、この旅に同行するはずだった人物は女性である。
しかし、どうしてこの男がそのことを知っている? 今日、偶然、定食屋で隣になっただけの、この男が。
相変わらず男はお品書きをみてうんうん唸っている。僕は隣のテーブルに座っている男の顔をじっと見た。もしかして、僕が覚えていないだけで、どこかで会ったことがあるのではないか。
「……そんなに見つめられても、私はその手の趣味は持っていませんよ」
男は心配そうにお品書きから顔を覗かせた。
「違いますよ! ただ、もしかしてどこかでお会いしたことがあるのかと思って」
「……下手なナンパですか?」
「だから違いますよ!!!」
本当に何なんだ、この男。
男はまたカカカと笑い、いやいや失礼、と言った。これもまた、全く悪びれた様子のないものだった。
「冗談ですよ。正解です、一カ月ほど前にお会いしていますよ。いや、正確にはお見かけしたというべきかな。……あ、すいません! 餃子定食ひとつ!」
男はやっとお品書きを手放して、僕のほうに向きなおった。
「お兄さん、一カ月前に喫茶店でデートしてましたでしょ。私、その時も隣のテーブルに座っていたんですよ」
「喫茶店……」
確かに、僕は一カ月前に喫茶店に彼女と行った。まさに、この旅が一人旅になってしまった原因の彼女だ。喫茶店では、二人で旅行の計画を立てていたのだ。数日後、僕はフラれてしまうのだが……。おかげで楽しみにしていた二人旅行は、こうして一人旅になってしまったというわけだ。
僕はここまで思い出して、ふと不思議に思った。彼女と行ったのは地元の喫茶店で、ここは旅先の小さな定食屋だ。そんな偶然、あり得るのだろうか。
「全くの偶然ですよ、これも何かの縁ですかねえ」
僕は思わずパッと口元を抑えた。声に出してしまっていたのか……。
「いいえ、そんなことありませんよ。……おっ、餃子定食のおでましだ」
ぎょっとした。少し変わった男だとは思っていたが、少しどころの騒ぎではない。どうやらこの男は、僕の考えていることがわかるようだ。完全に普通ではない。
僕の隣に座って、ハフハフと美味しそうに餃子を食べているこの男、一体何者なのか。
「私ですか? 私はスガワラというものです」
念のために言うが、僕は声を出していない。
「心を読むのはやめてくれませんか……」
「あら、そうですか? 良かれと思ったのですが、失礼失礼」
例によって、悪びれた様子はない。僕は、思い切ってこの正体不明の男に質問してみることにした。
「あの、スガワラさん。あなた、一体何者なんですか? どうして心が読めるんですか?」
僕は男が餃子を飲み込むのを待った。
「……だから、スガワラですよ。心が読めるのは、私が神様だからです」
さも当然のようにそう答えた男に、僕は少し腹が立った。
「ふざけないでください」
「失礼な。ふざけてなんかいませんよ。私は、ここの近所にある太宰府天満宮の菅原道真と呼ばれているものです」
……いやいやいや。そんな馬鹿なことがあってたまるか。菅原道真なんて、神様を信じていない僕ですら知っているような人物だ。そんなお方がこんな所に、こんな格好でいるわけがないじゃないか。そもそも現代にいるわけがない。
そう思う一方で、信じてしまいそうになる自分もいた。先ほど心を読まれたことといい、独特の雰囲気といい、もしかしたら、と思わざるを得ないものを男が持っていることは事実であったからだ。
「……神様というのは、そんなラフな格好をして、定食屋にくるものなんですか?」
「いけませんか? 神様がラフな格好をして、定食屋で食事をしては」
「いえ、そういうわけでは……」
僕に言わせれば、神様というのは往々にして、立派な格好をして、自分が祀られている場所で、お供え物を口にし、参拝者の願いを叶えながら時を過ごすものだ。多くの人がそのように思っているのではないだろうか。
「まぁ確かに、多くの方の我々へのイメージがどのようなものなのか、大体は知っています。しかし、神様というのも完璧なわけではありませんのでねえ……。ラフな格好もしますし、定食屋で食事もします。もちろん部下もいますし、休暇もあります。それに、願いそのものを叶えることは、いくら神様といえど不可能です」
「え、そうなんですか?」
「私たちにできるのは、その願いを叶えるための環境づくりだけなんですよ。例えば、私は勉学に関することが担当なので、試験当日の天気や体調を整えたり、ちょっとした閃きの機会を与えたり。そういったことです。サポートはできますが、願いが叶うかどうかは、本人次第ということになるんですよ」
この時の僕はもう、目の前の菅原という男が神様であるということを受け入れてしまっていた。それほどまでに、男の話にはそう思わせられる何かがあった。
「それに、先ほども言ったように私たちは完璧ではありませんので、全員の願いのサポートもできません。時間がかかりすぎますから。だからこうやって、普通に生活しながら皆さんの様子を見てまわって、サポートする人を選別しているわけです。皆さん、思ってもいないところで神様と出くわしていたりするんですよ」
妙に説得力のある男の話に、僕は思わず聞き入ってしまっていた。案外、身近にいるものなのかもしれない、神様というやつは。
 
そんな風に思っていると、定食屋のドアが開き、でっぷりとした一人の男が入ってきた。その男は店内を見渡し、こちらに気づくと、ニコニコしながら向かってきた。なんとなく親近感のある笑顔のその男は、菅原さんの向かいの席に座った。
「いやあ、菅原君、待たせっちゃってごめんね」
「本当ですよ、エビスさん。待ちきれなくってもういただいちゃってますよ」
その名前を聞いて、思わず大きな声がでそうになった。
「えっ、あの、菅原さん、こちらの方、今、エビスさんって……」
でっぷりとした体型、親近感を覚える柔らかい笑顔。もし、僕の予想があっているなら、このエビスと呼ばれた人物は……。
「あ、紹介しますね。この人は、七福神の一人である恵比寿さんです。ほら、さっき私が友人と待ち合わせしてるって、お話しましたでしょ。彼がそうですよ」
紹介された当人は、これはこれは、と僕のほうを向いた。
「菅原君のお友達だったのかい? それは挨拶もなしに悪かったね、お邪魔するよ」
恵比寿さんにぺこりと頭を下げられ、僕も慌てて頭を下げた。
神様は身近にいるものなのかもしれないとは思ったが、こんな大物までいるのかよ……。
「恵比寿さんは今休暇中らしくてね。お兄さんと同じく、旅行で福岡にいらっしゃってるんです」
「あ、そうなんですね……。神様同士の食事って、もっと豪華なものかと思っていましたよ」
身近にいるものだとしても、やはり違和感を拭えない。
なぜ、この小さな定食屋なのか。かの有名な菅原道真や、七福神の恵比寿ともあろう人物が。
「ここには私たちだけじゃなくて、他にも多くの神様がいらっしゃいますよ」
「ここは我々の行きつけですからねえ」
目の前にいるこの二人の神様の他にも、多くの神様が訪れる定食屋なんて、ますます気になるじゃないか。
「あの、どうして、この定食屋なんですか? なにか秘密が……?」
「そりゃあ、お兄さん、ここの店名でわかるでしょう」
「あんな店名ですから、我々来ずにはいられませんよ」
ねえ?と顔を見合わせる二人の神様だが、正直僕にはさっぱりだった。
「すいません、ここの店名ってなんでしたっけ? ふらっと入っただけなので、知らないんです」
「え? お兄さん知らずに入ったんですか? そりゃあ、私たちに驚くわけだ!」
そう言って、菅原さんは店先を指さした。
「……あ」
 
そこには、『定食屋 やおよろず』と書かれた黄色の看板がポツンと立っていた。
 
***

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2017-11-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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