メディアグランプリ

育児ノイローゼの私を救ったのは山手線ゲームだった


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記事:山下斉子(ライティング・ゼミ 平日コース)

 
あれは娘が1歳だったか、それとも2歳の頃のことだったか。
年単位で記憶がごちゃまぜになるくらいのカオスと暗闇。
でも、あの瞬間のことはくっきりと覚えている。
私を救ってくれた、あのなんでもない日の夕方のことを。
 
 
娘は寝ない子だった。そして、とにかくよく泣く子だった。
日中は常に抱っこで、少しでもおろすと泣いてしまうのでトイレも抱いていった。
そうしないと激しく泣きすぎて吐いてしまうのだ。
夜は夜で2~3時間おきに起きて何をやっても30分は泣き続ける。
 
いちばん困ったのが食事の支度だった。
洗濯と掃除は娘を抱っこしながらでもなんとかなったが、料理だけはそうはいかない。両手をあけようとおんぶするものの、私の顔が見えないからか大泣きして背中で反り返って暴れるので危ない。
 
仕方なく、娘の細切れうたたねの隙に作るので、我が家のキッチンには包丁とまな板、途中で放り出された食材が出しっぱなしになっているのが常だった。
 
 
なにひとつ思った通りに進まない。
みんなが普通にやっていることが私にはできていない。
なんでうちの子だけこんなにずっと泣いてるんだろう。
私の育て方が悪いのかな。
 
 
いろんな思いがいつも表面張力ギリギリで、娘が泣くとダムが決壊するように私も一緒にわんわん泣いていた。
なによりも、世界で一番愛しい存在なのに、娘のことをかわいいと思えなくなっていることが悲しくて恐ろしかった。
このままだといつか娘を叩いてしまうかもしれない。
もう逃げ出したい。でも逃げられるわけない。
私は完全に育児ノイローゼだった。
 
 
その日の夕方も、泣く娘を抱っこで揺らしていた。
もうこんな時間なのにまだご飯ができていない……どうしよう。散らかったキッチンをちらりとみて泣きそうになった。
その時、つけっぱなしになっていた情報番組の音がふいに大きく耳に入ってきた。
 
あるメーカーが、無農薬の野菜や国産の安心素材を使用した健康志向のレトルトおかずを開発して人気が出ている、という話題だった。
街頭インタビューが映る。
30代くらいの女性が試食をもぐもぐ食べながらコメントしていた。
 
「おいしいです! おいしくて、栄養があって、安くて、簡単で、それで安全な材料だったらもう言うことないんじゃないですかねー」 
 
突然、ぽーんと目の前が開けた気がした。
 
「……ほんとだ! そのとおりだよ!!」
わたしは思わず大声で言った。
 
「おいしくて、栄養があって、簡単で、安全! 言うことない!」
 
なんで出産前と同じように何品ものメニューを作らないといけないって思い込んでいたんだろう。
家族のための食事作りで大切にしたいことは、「おいしくて栄養があって安全である」ということ。そこに「わたしがラクにできる」が加われば最高だ!
 
その条件を満たすならなんでもいいってことは……。
 
 
あれだ! 山手線ゲーム!
 
お題が決めてあって、その条件に合うものを手拍子とともに順番にテンポよく答えていくゲーム。飲み会でよくやったそれが唐突に、ノリノリのテンションで脳内再生された。
 
「山手線ゲーム! イエーイ! サバンナにいる動物!」
パン、パン!
「ハイエナ!」
パン、パン!
「キリン!」
 
あれと同じだ。
 
「山手線ゲーム! イエーイ! おいしくて栄養があって安全でラクチンなメニュー!」
パン、パン!
「カレー!」
パン、パン!
「親子丼!」
 
いくらでもメニューが浮かんでくる。
 
そうだ! ラーメンにしよう。
野菜たっぷりの、ほかほかラーメン。確か無添加の袋麺があった。
それなら10分でできる!
 
 
インスタントラーメンはあっという間にできあがった。
 
娘は歓声をあげて、一口食べるごとに
「ちゅるちゅるー! おいちー、ねっ?」
と、小さな手をほっぺたにあてて満面の笑みで言った。
その笑顔があんまりかわいくて、思わずきゅっと抱きしめた。
 
「うん、うん、おいしー、ね!」
何度もそう言いながら涙がポロポロ出てくる。
 
 
私、今日一度でもこの子を笑顔で抱っこしたかな。
この子がここにいる喜びを抱きしめたのはいつのことだったかな。
 
そんなこともわからなくなるくらい頑張っていた。
完璧なお母さんにならないと、ちゃんと育てられないと思って。
間違えたらどうしようって不安だったんだ。
 
 
山手線ゲームの正解は一つじゃない。
本当に大切にしたい条件をクリアしたら、あとはなんだって正解なのだ。
いくらでも答えはある。
 
育児だってきっとそうだ。
泣きながら作った完璧な献立よりも、インスタントラーメンをふうふう食べて笑いあった時、私も娘も幸せだった。
だからこれが私たち親子にとっての正解なんだ。
そうやって、ひとつずつ私らしい育児を見つけていけばいい。
私と娘が笑顔になる方角に歩いていけば、きっと大丈夫。
 
 
今では娘はもう抱っこできないくらい大きくなった。
それでも育児で悩み迷うことはしょっちゅうだ。
 
学校に行きたくないと泣く娘を前に、私は心の中で今一番大切なことを握って山手線ゲームをする。
 
「山手線ゲーム! イエーイ! この子が笑顔で健やかで、生きていることが嬉しくなること!」
パン、パン!
「ハーグ!」
 
私は笑顔で娘を思い切り抱きしめた。
 
***

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2017-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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