プロフェッショナル・ゼミ

原作に負けぬ濃密度《映画『月と雷』×天狼院書店コラボ企画》


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記事:山田THX将治(天狼院ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース)

 

角田光代さんの小説は、描写が複雑でたった一言の台詞を説明するのに、数ページを要することも有る。映画なら、僅か数秒のワンカットだろう。

 

これまで角田さん原作の映画化と言えば、宮沢りえさん主演で話題となった『紙の月』や、永作博美さんの名演が光った日本アカデミー賞受賞作『八日目の蝉』が有名だ。そのどちらもが、思い余って反社会的な行動をとってしまう、独特の女性心理を、細かく丁寧に表現していた。

小説においては、その角田光代さんの丁寧な著述の世界が、読者それぞれのペースと世界観で各自それぞれに展開される。また、そのことにより、角田さんの作品が何かの話題となると、他に類も見ない広がりとなる。そう、角田光代さんの小説は、各自の捉え方によってそれぞれ違ってくるので、話が尽きなくなることが多い。

これは、感想によってコンセンサスを取ろうとする小説が多い中で、各自の感性によって様々な感想を生む、独特の作風ともいえる。

そう、角田光代さんの小説は、大変読み易く、読者の感性を試す様でもある。

 

映画という表現は、映像が有る分、小説の様な文字情報より格段の情報量が有る。時に、情報過多な映画に出会う事がある。原作の細部までも表現しようとして、過剰な表現となり、観客が‘お腹一杯’となってしまうことだ。
こういった映画は、思いの外カット毎が間延びして観えるものだ。こんな映画を見せられると、観客はたまった物ではない。原作の魅力を、台無しにされてしまうからだ。

その点、映画『月と雷』は、原作のエキスをとてもうまく抽出している。原作が角田光代さんの手によるものなので、繊細な心理描写を文字通り描こうとすると、情報過多で何の事か理解不能に観客を陥れてしまう。本作は巧みに、それらを避けている。それでいて、理解出来なければ理解出来なかったで、観客の感性を眠りから覚まさせてくれている。

元々、小説は読み手の感性を選ぶもので、これは映画も同じだが、観客はすべからく自分の感性に添って感じ方を変える。原作もの映画の情報過多は、観客の感性を強制してしまう。愚作な映画は、観客に妙な閉塞感を与える。

『月と雷』に関して言えば、観賞後に一切の閉塞感が無かった。

これは、制作陣の高度な‘省略’が功を奏していたからだろう。
角田光代さんの世界を、脚色の段階で主人公の一人である泰子に集中させ、敢えて周りの登場人物の背景を、大きく省略していた。これにより、映像からの情報のみで、観客に原作の世界を想像させることに成功している。

例えば、原作に多く語られていた智の幼い頃のエピソードは、殆ど描かれていない。もし描いてしまっていたら、映画の主軸が振れ、主人公が泰子なのか智なのかが鮮明に成らず、観客の感想が漠然としたものになる恐れがあったからだ。

そして、演者達も制作意図を十分に理解し、過剰な演技や表情で、映画における角田光代さんの世界を、壊す様なことも無かった。

特に、初音映莉子さん、高良健吾さん、草刈民代さんの3名は、今回の演技は“自”で演じているのではと思わせる程だった。お見事と、いうしかない。
映画『月と雷』の効果は、こればかりではない。

角田光代さんの世界を、無理に映像化するととによって起こるであろう、感想の一律化を避けた辺りは、白眉と称賛しても足りない。これは、制作陣にとってかなり勇気の要ることだと思うのである。

何故なら、コンテンツメーカーの性分は、往々にして自らの感想を表立って言いたくなるものだからだ。“自分は原作をこう読み解きました”的なものである。

こうすることで、制作陣の主張として置き換えられ易いからだ。しかし、主張が前面に出てしまうと、どうしても‘上から目線’となる。この‘上から目線’が観客にとっては、窮屈だったりする。

この、一番やって仕舞いがちな盲点を、十分に理解している辺り、制作陣の大人な対応と言えよう。そして、‘大人な対応’こそが、昨今の日本映画が忘れて来てしまった、大きな間違いだったような気がしてならない。言い換えれば、そうした間違いに気付かせてくれる映画だと、この『月と雷』は言えるような気がする。
映画『月と雷』は、観客の感性を試してくれます。鈍感さを叱ってくれます。

無駄な装飾無しに、観客の心を自由に反応させます。

原作者の角田光代さんをリスペクトし、その世界を観客に届けます。

 

是非、原作未完読でも映画館で御覧になって下さい。

十分に期待に応えてくれます。
 
 
『月と雷』
出演:初音映莉子、高良健吾 、草刈民代 / 原作:角田光代 / 監督:安藤尋
10月7日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー!
http://tsukitokaminari.com
(C)2012 角田光代/中央公論新社 (C) 2017 「月と雷」製作委員会

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