メディアグランプリ

死にたがり君、海に出る。


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記事:永井聖司(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

 

時折、思い出すことがある。

シャーペンの先を掌に突き刺していた、学生時代のことを。

イジメられていたんだったか誰かとケンカしたんだったか、原因は何だったのか忘れてしまったけれど。

涙を堪えながら僕は、このシャーペンの先が手の甲まで貫通して、血が噴き出して死んでしまえば良い。なんてことを、僕は割りかし真剣に考えていた。

 

こんな風に僕は良く、死にたがる人間だった。

『死んでしまいたい』という考えはまるでカビのように、いつでも僕の頭の中に潜んでいて、何かのきっかけがあると一気に膨らんで、頭の中を覆い尽くしてしまうことがしばしばあった。

実家の2階から。東京で住んでいたマンションの3階から。そして今住んでいる8階のベランダから。僕は何度も、飛び降りしてしまおうかと思ったことがある。友達関係が上手く行かなかったり、仕事がうまくいかったり、理由は様々だけれど。手すりに腰掛けたことも、何度かある。

 

なのに。

「私、長生きしたくないんですよねー」

ぼやく後輩の言葉を聞きながら、僕はとても不思議な感覚を味わっていた。

後輩の言葉に、全く共感ができない。一時期はあんなに、ある種のクセのように、死にたがっていたはずなのに。

「長生きしても良いことないし、元気なうちに死にたいな、と思ってるんですよー」

少し前の僕なら間違いなく、『わかる、わかる!』と、心の底から同調していただろうに、そういった気持ちが、まるで沸き上がってこない。

なんでだろう?

後輩の主張をテキトーに聞き流しつつ、僕は考えていた。

いつから僕は、死にたがるのをやめたんだっけ? それは一体、いつごろのことだったっけ?

 

 

そんな風に考えてみて浮かんできたのは、驚くべきことにウチの社長の顔だった。

「社内で、『誰にも負けないと言えるもの』を作れ」

若手の時に、社内研修の中で言われた言葉だった。

そしてその言葉を間に受けた僕は、「『アート』を勉強しなければいけない」と思ったんだ。

理由は単純。大学時代に勉強していたのに、就職後になんにも生かせていなかったからだ。就活当時は、「アートに関わる仕事に就きたいです」なんて、言っていたのに。

それから僕は、美術館に作品を見に行くのは勿論、月に最低1冊のペースで、美術書を読んだ。何の確証もないけれど、この勉強を続ければ僕の人生は何かが拓けるんだと、馬鹿みたいに信じて。

 

そうしているとその内、美術館に行く度に、『繋がった』と、まるで、難事件のトリックを解き明かした名探偵のように、絵を見て感じることが増えてきた。

それは単純に、美術書に載っていた絵を見ることが出来て、美術書の中のイメージと実物が繋がった、ということもある。

またそれとは別に、美術書で読んだ解説の内容を、実物を見て理解できた、ということで嬉しく感じることもあった。時代背景であったり、政治や経済、文化の状況であったり。解説書の中で言葉だけ並べ立てられてもわからなかったことが、作品を見て一気に解決してしまう瞬間というものを、その快感を、時折感じてしまうのだった。

更にその感覚が研ぎますされていくと、絵が描かれた当時に繋がるような感覚さえ、感じることがあった。展示ケースの中に置かれているただの作品ではなくて、その作品の周りに、当時の町並みや、作品を描いている作者や、観客までもが見えてきてしまうような……まるでタイムスリップして当時とつながってしまったような、そんな感覚に陥る感覚もあった。

 

そして、そんな感覚を覚えるようになった僕の目の前には、大きな大きな、『アートの海』が広がったような気さえした。

水平線の向こうまで続く、多分一生かかっても見ることの出来ない『アートの海』が、この世界にはあるのだと、僕には思えた。ただただ風に揺られて、ちらりとみるの良いけれど、勉強して、じっくりと近づいてみるのも、それはそれで良い。進み方は、人それぞれだ。

そして一つ一つのアートを見ていけば、まるで航路で世界が繋がるように、僕の知識も考え方も広がって、もっともっと色々な見方を、考え方をすることが出来るんだと、僕は確信した。

一方で、勉強していけばいくほど、この『アートの海』の深さも奥行きも感じることが出来るし、同時に、『先人』について感じることもある。テレビに出ているような、どんな質問にも軽々と答えてしまう、知識の持ち主たち。まるでポセイドンのように『アートの海』に潜むそんな人達を見る度、『アートの海』の広さや奥深さを改めて感じることが出来たような気がして、僕は楽しくもあった。

 

そして、そんな風にして世界を見ていたらいつの間にか僕は、『死ぬ』なんてことを、まるで考えなくなってしまったんだと、気づいたのだ。

死ぬまでに、本気を出しても見きれない、勉強しきれないほどの量のアートがあるのに、楽しみがあるのに、どうして死ななきゃいけないのだろう。

 

僕はもう、シャーペンを突き刺していた掌を見つめるだけの、小さな世界に収まってはいられないのだ。

僕の前には大きな大きな、光り輝く世界があって、そう考えるだけで、ワクワクする。

 

 

『僕は、長生きしたいなー』

いくらなんでも後輩の話の流れを遮るのは失礼かと思ったので口には出さなかったけれど、ぼやく後輩の横で、僕は力強く、そう思っていた。

 

 

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2017-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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