プロフェッショナル・ゼミ

ものを売るならエンターテイメントを極めろ《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Shinji(ライティング・ゼミプロフェッショナルコース)

「このCM打ち切ります」

幾度となく耳にした大嫌いなフレーズである。
10年前テレビ番組制作を辞めてテレビ通販の会社に入った。これからのテレビはもっと透明性が必要になってくる。CMの効果を視聴率という曖昧な数字でごまかせる時代はきっと終わる。もっと広告に対する費用対効果をはっきりさせることを企業は望み出すはずだ。このままではテレビはいつかインターネットに取って代わられる。とは言え、テレビ業界は50年以上同じビジネスモデルでその既得権の上に成り立っている。テレビ局や広告代理店を含め、このブラックBOXを開ける会社など放送業界にはない。
そこで僕が思いついたのはテレビ通販会社。彼らはきっと1回毎の採算性を計算しているはずだ。「そのノウハウを知りたい!」と思っての転職だった。

ずっとテレビの世界で生きていた僕はいわば映像のプロだった。通販という形にはなれど、同じ映像制作。自信を持っていた。しかしその自信は脆くも崩れ去ることとなる。

テレビ通販番組には大きく分けて3種類ある。
1つ目は「キャラバンスタイル」と呼ばれるもの。
お客さんの前で実際にデモンストレーションをしながら商品の良さを説明する。この形式で威力が発揮されるのは包丁やフライパンなどキッチン用品が多い。デパートなどでたまに見かける実演販売をテレビでする形だ。

二つ目は「ライブショッピング」、まさに生放送で商品を紹介する。視聴者にも商品の売れ行きが伝わったり、その場で実際にお客さんと電話で話したり、ライブ感が醍醐味だ。また売り切れ商品も即座にお伝えできるため、サイズやカラーなどバリエーションが多いアパレル関連のモノに威力を発揮する。

三つ目は「インフォマーシャル」と言われる、主に30分の長いCM形式のもの。
海外のものが吹き替えしたり、実際の愛用者の感想などを織り交ぜて商品を紹介する。時間をかけて制作できるため、劇的なビフォーとアフターを見せることができる。ダイエット商品などに最も威力を発揮する。

僕が入社したのはこの「インフォマーシャル」を得意とするテレビ通販会社だった。
入社当日から担当商品をあてがわれ、早々にCMを制作した。そして数日後僕の自信を持った作品がいよいよ放映された。
結果は?? 

注文数、1個。
全く売れなかった。

放映毎の採算を徹底管理しているので、反応が薄かったCMは次第に放映されなくなっていく。僕のデビュー作はその中でも「即刻打ち切り」が決まるほどの燦々たる結果だった。
これには流石に落ち込んだ。商品の説明はキチンとできているはずなのに、まるでお客さんが反応してくれない。その理由がわからなかった。
今まで積み重ねてきたものが全て否定された気分になり、自信をなくした。
堕落し始めた人間のメンタルは弱いもので、全くやる気の出ない日々が続いた。
いくつかCMをリリースしたが、そんなメンタルの元で製作されたものが人の心を動かせるはずもない。負のスパイラルはさらに拍車がかかり、再び転職を考え出して3ヶ月がすぎた頃、僕のやる気スイッチが入る出来事が起こった。

季節は年末。会社の忘年会の1ヶ月前に遡る。
当時販売していた商品で、ミスユニバースのコーチを務める女性が「1ヶ月間で素敵な女性に生まれ変わる方法」をメンタル面、フィジカル面、食事面などの観点から教えるDVDセットがあった。
その年、会社挙げての忘年会の目玉企画は、本部長5名が1ヶ月そのDVDセットを実践し、どれだけ魅力的に変身できるかを競い合うコーナーになった。チャレンジする本部長5名がサポートメンバーを社員から1人ずつ指名し、指名されたサポーターが担当の本部長をプロデュースするという内容だった。当時の本部長5名は全員男性。そのうちの1人に僕は呼び出された。
「年末の出し物、俺のプロデュースはお前に任せたから、よろしくな」
もう会社を辞めようと思っていた僕は断るつもりだったが、一応理由を尋ねた。すると、
「出場するからには勝ちたいんだ。そう考えるとお前しかいないだろ?」
そう言われると悪い気はしない。どうせ辞めるつもりだから最後に暴れてやろうと思い、
「本部長、勝つだけでは足りないですよ。圧勝しましょう」
と引き受けた。
とりあえず方向性を考え、コンセプトを「全力で勘違いする!」にした。
他のメンバーは必ず本部長をできるだけ格好の良い男性に見せることに徹するはずだ。しかし、教材とするDVDは元々女性向けのもの。
僕は担当する本部長を女装させることに決めた。しかも、単なるコスプレレベルではなく、本格的な玉三郎さながらの「おやま」にしてしまう。DVDの通りに実践すると素敵な女性が出来上がりました体で行くことにした。
まず日本舞踊の教室を探し、プロの歌舞伎メイクができる人を探し、花魁の着物を貸してくれる衣装屋を探し、カツラを用意してくれる「床山」を探して、全て予約した。そして本部長に報告にいった。
「本部長、全力で勘違いしましょう」

それを聞いた本部長は
「お前が言うなら仕方ない。やろう」
と受け入れてくれた。ただ1つ、コストが結構かかることは言い出せなかった。

とりあえず最後までやりきろうと思い、日本舞踊の教室に週1回通ってもらった。もちろん完璧に踊れるようにはなれないが、ここは雰囲気さえ出せれば十分だ。
続いて衣装合わせとカツラ合わせだ。映画の撮影が主戦場であるその床山さんは僕たちの悪ノリに大いに賛同してくれて、ちゃんと頭のサイズにピッタリあうカツラをわざわざ作ってもらえることになった。
羽二重をつけて頭のサイズを測る。それまであまり乗り気でなかった本部長も羽二重姿で鏡に映る自分を見ると気分がよくなってきて、顔つきが変わってきた。大河ドラマにでも出演する気持ちになったのだろうか? 僕はそんな本部長を見ながら心の中で呟いた。
「ただ、あなたがこれからつけるのは女型のカツラですけどね」

準備が整いいよいよ本番の日を迎えた。
メイクと着付けのため、本番の2時間前に準備に入った。まず巨漢の本部長の顔と背中と腕が白く塗られて行く。まつげもつけて目元口元のメイクが済み、羽二重姿で花魁の衣装を身にまとった姿が目の前に出現した。ここからいよいよ最後の仕上げ、カツラの装着である。取り出されたカツラは数日前にサイズ合わせした後に作られたものなので、ジャストフィットしていた。
驚いたのは、その時点ではまだ長い黒髪が垂れたままだったこと。頭に装着してから顔の大きさに会うように髪を結うのだ。1時間後、見事な髪型が出来上がり、女性ではあり得ないほど体格が良い、その割には美しい花魁姿の「おやま」が完成した。
会場にはステージが用意されている。後は社員総勢700人の前で。用意した「夢芝居」に合わせて登場し、舞ってもらうだけである。

本番が始まり他のメンバーの発表が始まった。僕たちの出番は5番目。つまり最後である。ダンスする者、歌を歌う者、楽器を弾く者など、他のメンバーは全員が格好良さをアピールしていた。思い通りだ。もはや僕たちのネタフリにしか思えなかった。
そして出番が回ってきて、舞台袖の本部長に最後の演出を伝えた。
「音楽が始まったら、できる限りためて出てください。ためればためるほどウケます」
それを聞いていた衣装さんが「これ使ったほうが良いですよ」と言いながら和傘を渡してくれた。衣装さんに感謝し、
「傘で顔を隠して出てきてください」
と付け加えて観客席に回り、登場を待った。
やがて「夢芝居」のイントロが始まり、スポットライトが点灯された。
まだ本部長は出てこない。
ようやく歌に入る頃、傘で顔を隠した本部長がしなりしなりと歩み出てきて、ステージ中央に到着し、傘を下ろしたその瞬間、会場が揺れた。
最初は最前列から笑いが後部へ向かって一旦波が引くように伝わっていく。次の瞬間、笑いと歓声が大きな波となって一気にステージに襲いかかって来た。
初めての経験だった。同じような表現を耳にしたことはあったが、実際に体験してみると本当に波のようだった。そしてその波は第2波、第3波と静まることなくずっと続いた。
その時の感覚は、今思い出しても鳥肌が立つほど気持ちの良いものだった。

結果的に宣言通り優勝し、次々に社員に写真をせがまれる本部長を見ながら、なぜか僕は少し自信を取り戻していた。

全てが終わり、楽屋でずっと言い出せなかった請求書を本部長に渡した。
「高っけー! なんだこれは?」
と怒鳴られた。が、続いて
「ま、ウケたから良いか。その代わり一つ約束してくれ。会社を辞めるな」
と言い残して本部長は会場に戻っていった。
完全に見破られていた。やる気をなくしていたことも、自信をなくしていたことも、会社を辞めようと思っていたことも。

ともかくこの忘年会での大勘違い選手権により、ようやく僕のやる気スイッチが入った。自分のCMには何が足りないのかを見つけるために、今まで成功したCMを全て見て分析し、また失敗したCMも全て見て分析した。すると、ある法則が見つかった。
「人は、ある3つの条件が重なった時、つい買ってしまう」
ということである。
そのことに気づいてからは、売り上げの大小はあるが、即刻打ち切りになるようなことはなくなった。日本中を巻き込んでブームとなった商品も生み出した。その3つの条件とは? 

通販の世界にCTAという言葉がある。「Call To Action」の略で、購買を迷っている人の最後の背中を押してあげることである。あくまで最後の一押しなので、それまでに商品の良さを十分に表現し、視聴者に「あ〜、これ良いなぁ、欲しいかも」と思わせていることが大前提であり、この状態に至っていないものは、いくらCTAがよくても売れることはない。その条件が満たされている場合のみこの威力が発動される。
例えばこんな表現を耳にしたことはないだろうか?
「ここだけでしか買えないこの商品、通常10,000円のところを、今から30分以内にお電話いただいた方に限り、50%オフの5,000円でお届けします。数量が限られています! お早めのご注文を!」」
テレビ通販でよく使われるこのCTAに3つの条件が隠れている。
「希少性、おトク感、緊急性」の3つである。
「ここでしか買えない」で感じる希少性。
「50%オフ」で感じるおトク感。
「今から30分以内」で感じる緊急性。
どうやらこの3つの条件が揃うと人は心を動かされるらしい。
表現方法はいつも異なるが、この3つの要素を入れるとじゃんじゃん電話が鳴る。自分が何かを買う時、この法則に背中を押されていないか検証して見て欲しい。限定商品や割引商品や残りわずかという文句に心動かされてないだろうか?

とここまで書いて来て、ふと思いついた。この3要素はエンターテイメントででも活用されているのではないだろうか?
例えば映画などではどうだろう。
類まれな才能を持った人物や類まれな体験をする人物がよく主人公となっている場合が多い。これは希少性である。
時限爆弾の赤い線を切るか? 青い線を切るか? タイマーの残り時間はわずか。車のエンジンがかからないなど予期せぬアクシデントが起き、本番の時間が近づいてくる。これは緊急性に当たる。緊急性はハラハラドキドキ感を演出するのに都合が良い。
そして苦難を乗り越えてめでたくハッピーエンド。これが「あー見てよかった」というおトク感を観客に与える。

この全てが搭載されている映画は何だろう。いくつもありそうだが、最初に思いつくのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」だ。もう古い映画なので、知らない方も多いかもしれない。観た事ない方も、もう何度も観た方もぜひ緊急性、希少性、おトク感の観点で一度シリーズを見て欲しい。この「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、今ならなんと! NETFLIXで見放題です。

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