食べることは生きること 〜生まれる前のわが子が教えてくれたこと〜
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:テラダサオリ(ライティング・ゼミ日曜コース)
2017年、私の中でもっとも大きなできごとは、間違いなく「初めての出産」であった。
出産に“絶対”はない。
あなたも私も、この世に存在するすべての命は、いくつもの奇跡が重なり、無事にこの世に生を受ける。
このことを、私は身をもって体験した。
ちょうど一年前、私は、毎朝、大きなおなかを抱えて満員電車に乗り込んでいた。 「ワーキング妊婦」ってやつだ。 出版物の制作を生業としている私は、ギリギリまで残業をこなし日々を忙しく過ごしていた。 もちろん、周りの上司や同僚にも体調に考慮していただき、重身の体に無理のない範囲ではあるが。
産前の最終出社日も、私は、一眼レフカメラを担いで東京駅にいた。 一通りの仕事の引き継ぎと、社内外での挨拶回りを滞りなく終えたその日。 後ろ髪を引かれる思いもありつつ、何とか一つの区切りをつけられた安堵感とともに私は産前休業へと入っていった。
産休に突入して、初めての妊婦健診の日。
おなかの赤ん坊は、今日も元気いっぱいに動いている。 子宮の壁を蹴る足の動きは、日に日に強さを増して痛いくらいだった。 エコーでもその様子は確認でき、経過は順調。 難なくその日の診察を終えた。
問題はその3日後に起きた。
正産期まであともう一息というときだった。
数日前から足のむくみがひどく、こむら返りで目が覚める日が続いていたが、普段からむくみ体質だったこともあって「妊娠中はよくあること」と、そこまで気を留めていなかった。
ただ、その日は少し違った。 アキレス腱は見る影もなく象のようになった自分の足を見て、何となく病院に行った方が良い気がして、午前中の診療が終わる間際に、予約もなく外来に滑り込んだ。
「診察で不安を解消して、またすぐ家に戻って来よう」
縫いかけていたよだれかけをリビングの机の上に置いたまま、軽い気持ちで家を出た。
産婦人科の受付で母子手帳を渡し、いつものように体重・血圧測定、尿検査を終え、待合室で診察の順番を待つ。
名前が呼ばれて診察室に入ると、そこには、いつもとは明らかに違う神妙な面持ちの主治医が座っていた。
診断は「妊娠高血圧症候群」。
有無を言わさず、私は、その日のうちに入院となった。
妊娠高血圧症候群は、母子のいのちを危険にさらすさまざまな合併症を引き起こすリスクがある。 主治医が言うところによれば、はっきりとした原因は分かっていないらしい。 しかし、「食生活」と「ストレス」が多少なりとも関係しているそうだ。
私は、食生活に関しては、少しでも健康的なものを取り入れたいと思う方である。 雑誌や本で「体に良いらしい」という情報を目にすれば試してみたくなる、どちらかと言うと「健康オタク」な側面もあった。
それでも、残業が長引いて予定より帰宅時間が遅くなった日は、会社の最寄り駅の構内にある惣菜コーナーに頼ったり、お弁当を買って帰ったりした日もあった。 今思えば、主に台所を預かる身としても、妊婦としても、“らしからぬ”食生活を送っていたのかもしれない。
そんなふうに、絶対安静を言いつけられた病院のベッドの上で、しばらく、これまでの生活を省みていたが
「今は、おなかのなかの子を無事に、外の世界に出すことが先決」
だと思い直した。
出産予定日までまだ20日以上ある。 長期戦になることを覚悟した。
入院して一週間が過ぎたある夜のこと。
一時的に血圧が上昇し、翌日に緊急の帝王切開手術の予定となった。 降圧剤を点滴しながら、いよいよ我が子に会える喜びと手術に対する心の準備もままならないまま、一夜を過ごした。
翌朝、手術着に着替え、手術の順番を待つための個室のベッドに移動する。 腕には30分に一度、自動で血圧を測定する機械が装着され、その時を待った。
前日とは打って変わって、その日は朝から正常値を上回ることなく、血圧が安定。
手術予定時間1時間前になって、その日の手術は急遽キャンセルとなった。
その後も徹底的に管理された食事をするうち、臨月だというのにみるみるうちに体重は減少。 血圧も安定していたため、通常分娩で無事にわが子を出産することができた。
「3.15(最高)の日」に生まれてきたわが子。 親バカと言われてしまうかもしれないが、本当に空気の読める子だと思った。
出産の感動の余韻に浸る暇もないほど、初めての育児に四苦八苦するなか、ある料理本を手に取った。
載っているのは、旬の食材を取り入れて、日本の伝統調味料や発酵を取り入れた料理の数々。
その本によれば、私たちの体にある“幸せホルモン”とも呼ばれる「セロトニン」は、その90%が「脳」ではなく「腸」で作られているそうだ。 極論を言えば、腸内環境を整えれば、腸がさらにセロトニンを分泌し幸福感が増すのだ。
「私たちの身体は、食べたものでできている」
入院生活中、このことを痛いほど実感した。
「食べること」と「生きること」は同義である。
今は、食卓が変われば人生が変わる、とさえ思う。
そのことを、私は、生まれる前のわが子に教えてもらった。
これからは自らの手で、食卓から、大切な人たちのいのちを守ることのできる人になりたいと思う。
私自身が母になった今だから、言える。
言葉では言い尽くせないほどの大変な思いで自分を産んでくれた母への、感謝の気持ちも込めて。
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