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プロフェッショナル・ゼミ

カモメを夢見るシーラカンス。《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小濱 江里子(ライティング・ゼミ プロフェッショナル)

 なんでこんなところに来てしまったんだろうか……。
 わたしは、本気で後悔している。こんなところに来るべきじゃなかった。少なくとも、興味本位で来ていい場所じゃなかった。怖い、とうっすら聞いてはいたものの、ここまでだとは思っていなかった。見通しが甘かったのだ。
 天狼院書店のライティング・ゼミに通い始めて、もうすぐ半年が経とうとしている。ライティング・ゼミを受講し始めた頃は、そのおもしろさに興奮したし、わくわくした。せっかく始めたのなら、その上の段階の、プロフェッショナル・ゼミも受けたい! そう思ってしまったのだ。プロフェッショナル・ゼミは、本気でプロのライターを目指すひとたちが学ぶ場所。わたしは、ライターになりたいなんて思ったことは一度もない。だけど、書くことが好きで、もっともっとうまく書けるようになりたいと思った。そして、ほんのちょっとだけ、書くことが仕事になったりしたら、人生がおもしろくなるかもしれない、なんて夢を見た。もしかして、書くことが仕事になったりしたら、実家の両親に何かあったとしてもそこに戻って仕事ができるかもしれない、なんて夢を膨らませてしまった。そんな頭の中にお花畑を広げた状態で、プロフェッショナル・ゼミの受講を決めてしまったのだ。
 そんな夢見る夢子ちゃんが、うまくいくわけはなかった。ちょっと冒険に出てみたはずが、ふと気がつくと、真っ暗な海の上にひとりぽつんと浮かんでいた。月も出ていなければ灯台もない。見渡す限り水平線で、どこに向かえばいいかもわからない状態になっていた。
「書けない……。書けない……」
 毎日書こう! と意気込みだけは十分で、毎日パソコンを持ち歩き、仕事が終わってカフェに直行してパソコンを開いても、パソコンを前に頭の中に浮かぶ言葉は「書けない」の4文字だった。
 何について書こう? ネタは何にしよう? 書きたいこと……? 目的は……?
考えれば考えるほど、頭の中は「か」「け」「な」「い」の4文字で埋め尽くされてしまって、もはや書きたい内容や出来事などを思い浮かべるスペースが、完全に失われてしまっていた。
 書けない、書けない、とパソコンに向かい、ネタを探すべくスマホを握りしめ、気づいたらホットカーペットの上で寝てしまう。そんな生活になっていた。気づいた時には声が出なくなっていた。毎日のようにホットカーペットで寝ていたわたしは、案の定風邪をひいた。  
 ああ、もう文章を書くことは諦めて、さっさと寝たほうがいいんじゃなかろうか。そうだよね、体調を戻す方が先な気がする。いやいやだけど、1日早く寝たくらいじゃ良くなるわけがない。体を休めるべきか、文章を書くべきか。そんなの考えなくたってわかっている。あったかくして早く寝た方が体力が回復するに決まっている。わかってる。
 ……だけど、どうしても諦めきれなかった。週に1回の締め切りに向けて、どうしても何回かは文章を書いておきたかった。1回で提出できる文章が書けるなんて思えなかったし、そもそもまだスタートラインにさえ立てていない状況だった。ただでさえ遅れているのに、さらに遅れるようなことなんてしたくなかった。
 どうにかこうにか1週間に1本は文章を書き、なんとか提出はするものの、いつも合格ラインには届かなかった。前回指摘されたところを意識し、5000字の感動量を目指して書いた文章は、誰が見ても読みにくかった。ちょうどその頃、プロフェッショナル・ゼミの入試で書いた文章のフェードバックが返ってきた。その中にも、読みにくい、という指摘があった。読みやすい文章を書く、というのは、ライティング・ゼミで教わる内容だ。そんなこともできていないで、プロフェッショナル・ゼミに来たの? と言われているような気がして、ものすごく恥ずかしくなって、自分の体がみるみるうちに小さくなっていくのがわかった。基礎ができていなかった。
 もう一度、基本に戻ろう。
 そう思って、よりシンプルを目指してみた。複雑に考えすぎていたのかもしれない。複雑に考えるのはわたしの得意分野だし。シンプルに、読みやすい文章を書こう。シンプルに……、シンプルに……。
 そうして書いた文章は、5000字の感動量はないという理由でまたもや不合格となった。
 シンプルに、しすぎてしまった。……というより、5000字分の内容ではなかったのだ。
 真っ暗な太平洋のど真ん中に浮かんでいると思っていたけれど、オンボロ船の底には穴が空き、海の底へ沈んでしまった。もうだめだ……。本当に、どうしていいかわからない。
 「書くだけです」
 三浦さんは、何度も何度もそう言っていたけれど、パソコンに向かえば固まってしまうし、5000字を書こうと思っても力尽きてしまう。月の光も灯台も見えない真っ暗闇の中で、もうもがく力さえも残っていなかった。
 こんなことって、あっただろうか。
 センター試験だって、何度も何度も教科書や参考書で勉強して、模試や問題集を解いては解説を読んで復習してきた。解説を読んでもう一度勉強してから問題を解いてみると、前回間違えた問題が解けるようになっていて、レベルアップしたのを感じて「よっしゃ!」と達成感を感じられた。そうやって、繰り返していくうちにできるようになっていった。
 なのに、書くことときたら、何度やっても最初のステージがクリアできない。みんなが簡単にクリアできているステージを、わたしはどうやってもクリアできないでいるのだ。
 プロフェッショナル・ゼミの2回目の講義は、全く行く気になれなかった。わくわくしながら向かった第1回と打って変わって、気持ちも体も重かった。みんなおもしろい文章を書けている。そんな彼らとは比べ物にならないちっぽけなわたし。優等生として生きてきたはずが、生まれて初めて「落ちこぼれ」てしまった。
 「まだ一度も掲載されてない人?」
 なんて質問されたらどうしよう……。たった一人で手を挙げなくちゃいけないのだろうか……。みんなが見るなか、一人で手を挙げる場面を思い浮かべて、恥ずかしくて死にたくなる。笑ってごまかす? 笑うしかないか……。こういう時、どうしたらいいのだろう。情けなくて惨めでみっともなくて、そんな自分がたまらなく恥ずかしい。
 そんな恐怖に恐れおののいてはいたけれど、そんな場面が現実になることはなかった。
 だけど、みんな書けている。おもしろい文章を書けている人たちの中にいる「書けてない自分」は、とてつもなく居心地が悪くて、いっその事辞めてしまいたいと思った。
 だけど……。
 そんな居心地の悪い場所だけど、書くことを諦めます、とはどうしても思えなかった。書けるようになりたい、ただそれだけだった。書けなくて、苦しくても、やっぱり書くことが好きだった。
 講義の中で、とあるライティングスキルについて取り上げられた。一度挑戦はしたものの、うまくいかずに不合格となったスキルだった。それを知った時から、もっと詳しく知りたいと思っていたスキルだった。
 そして、そのスキルを使ったと思われる文章で、振り子のように心が揺さぶられた文章があったのを思い出した。そうだ、あの文章、ちゃんと研究してみよう。5000字で書いてある文章を読んでみても、どう参考にしたらいいのかわからなかったので、あまり読まなくなっていた。それに、読んだら真似してしまうような気がしていた。だけど、どういう風に書かれてあるのか、好きな文章は研究してみよう、そう思った。スマホにその文章を表示させて、引き続き講義を聞いていた。
 その時だった。
「木村さん、書けるー? 書ける人いるよって言っとくねー」
 え? 
「確かにいい文章書くねってー。書ける?」
 えええ! 何が起こってるの?
 目の前で起こっていることについていけずに、吸った息を吐くことを忘れていた。
 あの文章を、研究しようと思って表示させたあの文章を書いた本人に、目の前でライターとしての仕事の依頼が入ったのだ。
 振り子のように心を揺さぶられた文章を書いたのは、木村さんというスタッフさんだった。元アイドルが書いた本も、木村さんが書いた文章を読んで、思わずレジに持って行った。木村さんが書いた文章を読んでいると、これは読まねば! と思ってしまうのだ。
「私もみなさんと同じ、お客さんでした」
 そう書いていた木村さんの文章を思い出す。同じ、お客さんとして書いていた。そこからたくさん書いて、軽やかに人の心を動かす文章を書く人になったのだ。
 海底に沈んだシーラカンスのようなわたしには、軽やかにおもしろい文章を書く木村さんは、はるか高い空を飛ぶカモメのように見えた。海の底に沈んでいるわたしからみると、別世界の生き物だ。
 ああ、わたしもあんな風に飛んでみたい。
 優雅に大空を飛ぶカモメは、太陽の光と重なって眩しくてため息が出る。
 家に帰るとすぐに、木村さんの書いた記事をいくつかプリントアウトした。おもしろい、で終わらせない。研究しよう、そう思ったはずだった。
 「ああ、やばい……」
 たまたまプリントアウトした記事の一つを読んで、からだ全体に力が入るのを抑えきれなかった。そこには、優雅に空を飛ぶ前の木村さんの姿があった。
 最初から優雅に大空を飛んでいたわけではなかった。いや、飛んでいたかもしれないけれど、軽やかに飛ぶために自分を磨いている木村さんが、確かにそこにいたのだ。
「仕事とかそっちのけで、書いてたらしいですよ」
 東京天狼院に行った時、レジのスタッフの女の子が言っていた。木村さんの文章を読んでレジに持って行ったことを伝えると、そんな風に言っていたのだ。
「仕事とかそっちのけで、書いてたらしいですよ」
 そうだ。あんなに心揺さぶる文章を書く木村さんは、三浦さんが言うように、しっかり書いていたのだ。書くための勉強に没頭した木村さんが、その文章の中にいた。木村さんも、努力していた。書くために、勉強して、本や映画に触れて、インプットしてはアウトプットを繰り返していた。

 書いて、書いて、書くことを繰り返して、そして、書くことが仕事になっていた。

 そんな木村さんの姿は、深海の海の底で死んだようになっていたわたしにとっては、ようやく届いた一寸の光だった。
 もしかしたら。
 もしかしたら、わたしもあんな風に飛べる日が来るかもしれない。まだまだ海の底に沈んだままで、水面すら見えていないけれど、もがいていればいつか飛べるようになるかもしれない。そんな光がぼんやりと見えた。
 この海の底から抜け出せる気は、全然しない。わたしもいつかあんな風に飛べる日が来るかもしれないという光だって、ぼんやりとしていて今にも消えてしまいそうなくらいだ。
 今は落ちこぼれていて、先は全然見えないし、どうすればこの状況を打開できるかなんてさっぱりわからない。
 だけど、やっぱり書けるようになりたい。
 ただその思いをしっかりと握りしめて、書くしかない。
 いつかわたしも空を飛ぶのだ。

***

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