メディアグランプリ

もう社会は急に変わらない


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記事:守本陽一(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
うーん。難しいなあ。
 
思わず声が漏れる。医師国家試験まであと1ヶ月に迫り、僕は昨年度の国家試験の問題を解きながら、頭をひねる。
 
医師国家試験は9割が受かる試験なので、世間では、簡単だと思われている。でも、実は、思っている以上に医師国家試験は難しい。医師国家試験の受験資格は医学部の卒業生のみなので、医学部6年間の試験地獄を経て、生き残った勇者しかいない。つまり、国家試験に受かる可能性の低い学生は大学が卒業させないので、受かりそうな学生しか国家試験を受験しない。また、バブル崩壊後に生まれた世代の僕たちの世代では、安定的な収入が得られる医師は人気だ。医学部の倍率も高止まりしていて、年々医学部生の学力は上がっている。高校時代には偏差値70近くあった人の1割以上が落ちる試験。そう考えると、なかなか厳しい戦いだったりする。
 
社会に合わせるように、医師国家試験の問題も変わってきている。昔は、重箱の隅をつつくような問題が多かった。「そんなこと絶対、医療現場では使わないよー」とため息をつくような問題も少なくなかった。医師人生を送っていて1度出会うか出会わないかといった病気の珍しい症状を聞かれたり、細胞レベルの細かい話を聞かれたりしていた。ただ、今はより医療現場で使うような実践的な問題が増えている。
 
「この中で使う器具はどれだ」
 
「胸が痛いと言ってきた患者さんに行う検査はどれか」
 
「心筋梗塞でも珍しい症状はなんだ」
 
簡単に言うとこういう問題だ。医療器具は医療現場に出て、絶対使うことになるから、覚えておいた方がいい。胸が痛いと言ってきた患者さんは医師になった初日に出会う可能性もあるので、対応方法は知っておいた方がいい。心筋梗塞の珍しい症状と言われると、一見重箱の隅をつつくようだけど、稀な病気のありふれた症状より、ありふれた病気の稀な症状の方が目にする可能性は圧倒的に高い。そう考えると、実践的な問題だ。
 
僕たちは、医師になるために医師国家試験を受けるのではない。医師になって患者さんの人生を救うために医師国家試験を受ける。だから、医療現場で使う問題を多く出すことには大賛成だ。
 
じゃあ、すぐにでもすべて医療現場で使う問題に変えるべきか。
 
答えはそんなに単純じゃないと思う。
 
僕は医師になってから役立つことを勉強してきた。だから医療現場で使う問題を出してくれると解きやすい。でも今年、急に問題を変わったら多分落ちると思う。
 
なぜか。
 
ここ半年以上はずっとこれまでの医師国家試験の傾向を踏まえて、重点的に勉強してきたからだ。急に半年以上前に見ていた手術のやり方を聞かれても解答に困る。医療現場には選択肢が目の前に提示されているわけではないからと、マークシートが記述式に変わっていても、英語の病名の綴りを間違えると思う。そうして、多くの学生が優劣に関係なく、国家試験に落ちてしまうだろう。
 
これは他の試験でも同じで、センター試験で突如、外国人との英会話を求められたり、自動車免許の試験で正しいガソリンの入れ方を求められたりしても、多分多くの人が落ちるだろう。社会に出てから必要な知識のはずなのに。
 
そう、人はそんな簡単に変化に対応できないのだ。
 
 
人の歴史も同じだ。
 
フランス革命、ナポレオン戦争、アメリカ独立戦争、戊辰戦争。どの戦争も歴史のターニングポイントである。前後で急激に歴史が変わった。そして、たくさんの犠牲が出た。歴史においても、急に大きく変えようとすると多くの犠牲が出る。急激な変化に対応できない人が排除され、それに反発して争いが起こってしまうからだろう。
「たしかに社会は変わるべきだけど、これまでの俺たちの努力はなんだったんだ! 」
「未来より、今の私たちの生活の方が大切よ! 」
現状に不満を持ち、未来をよくするために社会を変えようと行動を起こしたことが、今を大切にしている人たちにとっては日常の破壊に見える。彼らにとって、突如現れた革命者は、ただの破壊者に過ぎないのかもしれない。歴史を変えるには痛みがつきものだというのは、きっと急に社会を変えようとしているからだと思う。
 
 
ゆっくり社会を変えていく方法もある。全会一致で合意形成していく方法だ。たしかに全員で合意形成しようとすると、ものすごく時間がかかる。一人一人丁寧に説明していかなければならない。ある事柄で学問ができ、それを元に産業が発展し、それが文化に定着するまでにはどれほどの時間がかかるだろうか、計り知れない。ただ、そうすることで、排除される人も反発する人もなく、社会はゆるやかに、犠牲なく変わっていくはずだ。
 
LGBTの権利も、ワクチンも、社会を変えるにはすごく時間がかかる。諦めずに、ゆっくりやっていくことが最も犠牲のないやり方なのかもしれない。
 
そう、世界をゆるやかに変えていくんだ。
 
今の日本は成熟した現代社会。たくさんのものが溢れ、ほぼすべての人が衣食住に満足している。となると、現状への不満から急激に社会を変える人は現れない。今ある幸せに満足し、ゆるやかに社会を変えていくはずだ。これまでの過程を大切にして、その上に積み上げていきたいと思うのだろう。それは、急激な変化は排除と争いを生むことが潜在的にわかっているからかもしれない。
 
(もしかしたら、もう急激に社会が変わることはないのかもしれないな……)
 
僕はそう思った。
 

目の前にある医師国家試験の過去問に再び目を落とす。苦手な精神科の問題だ。
 
思考途絶は統合失調症、思考制止はうつ病、観念奔逸は躁うつ病、自生思考は統合失調症の初期、カタレプシーは緊張病症候群、カタプレキシーはナルコレプシー。
 
医療現場では使うことが少ないかもしれない医学用語を僕は念仏のように唱える。
 
医師国家試験が急に問題が変わることはないはずだ。
 
ゆるやかに世界は変わっていくんだから。
 
そう信じて、僕はあと1ヶ月過去問と戦う。

 
 
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2018-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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