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メディアグランプリ

感情の無い子どもだった


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記事:柴田香名(ライティング・ゼミ ライトコース)

 
 
両親が離婚した。
 
中学2年生の頃だ。その4年前から父は別居していた。会計事務所を畳み、副業だった仕事に本格的に取り組んでいた。だから東京で一人暮らしするのだと聞かされていたが、どうやら別の理由があったらしい。離婚を聞かされたときは驚いたが、もっと驚いたことがある。
 
自分に何の感情も湧かなかったことだ。
 
小説やドラマの世界では、子どもは両親が離婚を切り出すと何らかの反応を見せていた。泣き喚いて止めようとあがく。親を想って大きなショックを押し殺す。もしくは、嫌な親から離れられることに喜ぶ。どの感情も私の中には湧かなかった。へえ。ふーん。そうなんだ。思ったのはその程度だった。
 
生活環境が変わらなかったからかもしれない。親権は母が獲得したから、住む家も住む人も別居していた4年間と変わらなかった。幸運なことに、生活に困らないくらいの慰謝料も貰えたそうだ。苗字も変わらなかったし、転校することもなかった。私の日常は何も変わらず、父との法的繋がりが消えただけだった。
 
それでもやっぱり、感情が無さすぎた。死ぬ思いをして産んでくれて、2人できちんと育ててくれた両親が離れることについて何も感じないなんて、嘘だと思いたかった。冷たいどころの騒ぎじゃない。少しは泣き喚いたりしたかった。私の感情はどこへ消えてしまったのだろうか。離婚後すぐ父親が再婚したが、その時も何も感じなかった。
 
思えば反抗期も無い子どもだった。普通は中学生の時に来ると聞く。妹も中学2年生の頃から母親と衝突し始めた。しかし私は、中学を卒業しても親への反抗心が湧かなかった。勉強や服装について説教しない親だったからかもしれない。それでも、親の言動に疑問を持たず、常に勤勉に勉強に取り組み、決められた校則から逸脱せず優等生を保ち続けるのは異様だと思う。枠から飛び出してこそ、反抗期や思春期を経験してこそ大人になれると信じていたのに、どんなに願っても反抗期は来なかった。
 
高校の部活でも冷めた選手だった。高校2年生時の県大会はライバル校に怪我人が多く、団体でインターハイに出場できる唯一のチャンスだった。一緒に出場した仲間からも、応援してくれた部員からも期待と熱気が伝わってくる試合だった。みんな必死に戦ったが惜しくも届かず、報告会では悔しくて誰もが泣いていた。しかし私だけ涙が出ず、必死に悲しそうな顔と涙声を作ったことを覚えている。
 
しかしある日を境に、感情が大きく負に揺れると感じるようになった。
 
例えば、母が年上の男性と付き合い出した時だ。なぜか嫌悪感を覚え、嫌だと主張し、相手と会うことを拒んだ。性格の悪い人だったわけではない。先に相手と会った妹は、素直で優しい人だと言っていた。それでもダメだった。まるで駄々を捏ねる幼児のようだった。離婚も父の再婚も何も感じなかったのに、この時だけ心が拒絶した。
 
願っていた反抗期も始まった。母親の言動がいちいち気に食わなくなってしまった。話すと常にイライラしたし、返事はぞんざいになりがちだった。
 
大学ではボロボロ泣くほど悔しい経験をした。学園運営サークルに入っていたが、他のサークルとも掛け持ちした結果、やることなすこと中途半端で貢献できたとは言い難かった。あまりの不甲斐なさに打ち上げで涙が出て、来年は頑張ろうと心に誓った。
 
まさか今になって感情が戻ってきたのだろうか。いや、そうではない。
きっと、期待するようになったからだ。
 
愛情の反対は、憎悪ではなく無関心だという。ゼロからは何の感情も生まれない。でも愛は憎しみに変わる。それと同じように、期待すれば裏切られたときの落胆も大きい。
 
昔は期待なんてしてなかったのだ。人は人。自分は自分。自分が働きかけたからって人が変わるわけではない。特にスポーツは欲が出ると不思議と勝てなかった。なるようにしかならないのだ。スポーツだけでなく人間関係も、そう割り切ってしまっていた。両親の離婚も、私にはどうにもできないと最初から諦めてしまっていた。
 
今は違う。大学に入り、様々な人と出会い、欲が出た。自分が動くことで周囲も変わることを知ってしまった。期待のハードルが上がってしまった。母親は無条件に私を愛してくれていると期待してしまったから、別の男性の存在がチラついた時に拒絶反応を示した。いくら仕事を増やしても自分なら完璧にこなせると期待してしまったから、現実の自分の能力の無さに気づいて狂おしいほど悔しかった。
 
それでも私は、感情に揺れる今の私を気に入っている。強烈に感情が負に揺れることは、震えるほどの正の感情に満たされる可能性を秘めている証拠だと知ったからだ。きっと、その方が生きていて面白い。勘違いでもいいから、高望みでもいいから、もっと人生に期待していこうじゃないか。
 
 
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2018-02-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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