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断捨離してはいけないもの


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記事:保科ゆみ子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ゆうちゃんのサーブが入った!」
そう言って友人に泣かれたことがある。試合には負けた。でも、最後は感動の嵐で、よくやったよねとみんなで称え合い、感動の一幕だった。高校3年生の球技大会、クラスタ対抗バレーボールの初戦でのことだった。知らない人が見たら決勝戦なのかと思っただろう。
 
球技大会まで、1ヶ月、近所の公園で円陣を組んで練習、時には公共の体育館を借りてみんなで練習した。トスを上げる腕は内出血で赤い斑点だらけになった。体育館が使えるときはサーブの練習、試合形式での練習をした。私のサーブはいつもネットに引っかかって入らない。みんなと同じように構えて打っているつもりである。何度やっても入らない。10回打って1回入るかどうか。みんなは難なくこなしているのに。ほとほと嫌になってくる。
 
練習をサボっていた訳ではない。人と同じことをしていてもできるようにならない。要は運動神経が悪いのだ。サーブが入っただけでも友人を感動させられるくらいに。
 
そんな私でも唯一できるスポーツがある。スキーである。北国生まれなので、一番近くのスキー場までは車で30分だった。幼馴染のお父さんがスキーの指導員資格を持っていて、仲良し5人で幼稚園から英才教育を受けていた。
 
初めの頃は平坦なコースでターンの練習、板をㇵの字にして滑れるようになったら、板を平行にしても滑れるように、一つずつ大きくターンする練習。その後はスピードを上げて、小さくターンできるように。基礎練習はターン1回ずつをを重点的に繰り返し繰り返し練習した。右ターンができたら、次は左ターン。一人ずつ並んで順番を待ち、指導を受ける。足の踏み込み方、重心のかけ方、腕の構え、ストックのつき方、一人ひとりに細かく指導が入った。
 
スキーシーズンは11月末から大体3月まである。練習は週に3、4回、幼稚園から小学6年生まで毎シーズン休むことはなかった。学校から帰って夕方には車でスキー場に向かう、夕ご飯を食堂で食べて18時から20時か20時半までみっちり練習。夜のスキー場は氷点下10度を下回ることもあった。吹雪になる日もある。それでも寒さに耐えながら滑り続けた。寒さに厳しい指導が加わって子どもたちの笑顔が消える。スポコンアニメも顔負けの厳しい練習であった。
 
そんな訳で小学校6年になる頃には5人全員が相当な腕前になっていた。小学校に上がって、自分に運動神経が無いことはよくわかるようになっていたけれど、スキーだけはクラスの誰よりもうまかった。運動神経を越えるくらい練習し続けた成果だった。
 
中学に入り、幼馴染が引っ越してしまい、学校が離れて勉強も忙しくなってスキー場通いは終わってしまったけれど、練習の成果は残った。憂鬱な体育も3学期のスキー授業だけは巻き返しができた。スキーがあったおかげで体育を嫌いにならずに済んだ。私には救世主のようなものだった。
 
大人になって運動しなくても生活できるようになり、10年以上も東京に暮らしていると雪山のことなどすっかり忘れていた。
 
ところが先日、何年かぶりにスキーに行くことになり、初めて本州のスキー場というものに行ってきた。長野オリンピックが開かれた志賀高原。30名近くの団体旅行だった。ウエアもスキーも一式レンタルできて、身軽に行ける。
 
久しぶりのスキーは楽しかった。本州の雪なんてそんなに良くないだろうし、もうスキーに行くことも無いだろう、そんな考えを撤回することになった。
 
滑りだしたら体がきちんと反応してくれる。風を切るゴーゴーという音が耳に懐かしい。氷点下の引き締まる寒さも顔に当たる雪もなんのその。女性陣が早々にリタイアする中、男性陣に交じって滑った。スキーうまいね、やるね、と声をかけられて普段の自分とは違う人になったようだった。東京ではどんなに厚いコートを着ていても寒い寒いと言っているのに、スキー場だと吹雪でも平気なことに自分でも驚いた。スキーウエアを着るとスイッチが入るらしい。
 
厳しい練習の日々があったことも久しぶりに思い出した。スキーがあったから救われたことが何度もあったことも。それなのにウエアも板も全部捨ててしまったことを後悔した。レンタルだからガバガバに大きく、デザインが気に入らなくてテンションが下がる。私にとってのスキーグッズはヒーローに変身するための道具のようなもので、平凡な会社員が大活躍する物語が始まるのだ。その想像にはいかにもふさわしくないガバガバのウエア。
 
断捨離ブームに乗って2年使わなかったものは捨てましょう、なんてスキーウエアまで捨てるんじゃなかった。ウエアと一緒にスキーをすることまで捨ててしまったことを後悔した。時々しか使わないかもしれないけれど、それでも無駄なんかじゃない。へっぽこの私をヒーローにしてくれるものを大事にしなくては。
 
来年は素敵なウエアを探して、またみんなと山に行こう。そう思ったら力が湧いてくるようだった。
 
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2018-03-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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