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メディアグランプリ

親友に秘密を打ち明けたら。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:8☆(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「うちの、お父さん難しい病気にかかってんだよね。
 治らないみたい」
 
中学三年になったばかりの私が、この深刻な事実を初めて伝えたのは、クラス替えで離れ離れになったアヤにだった。
アヤとは同じバレー部だったが、仲良くなったのは中学二年になってから。私立の女子中学では、同級生のほとんどが部活の先輩、アイドル、アニメキャラのどれかに夢中になっていたが、アヤも私もそういうものにあんまり興味がわかなかった。二人でいるともっぱら、どうやって部活を上手にサボるかとか、弟が飼い始めたタニシの不思議とか、教師の観察・分析とか、そんな他愛もない話を延々と繰り広げ、笑い転げたり、熱くなったりしてた。
 
やっと自分のことを理解してくれる友達ができた! そう確信した私は「父の病」という誰にも話してこなかった秘密を、アヤに打ち明けたのだった。
 
 
 
父親が重病だと分かったのは、半年前のことだった。
 
「なんか腕の調子がわるい」
 
四十肩かなんかでしょ、と思っていた。しかし鍼灸や整体に通ったがなかなか調子は戻らず、病院でいくつもの検査をした。そして、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という筋肉がどんどん失われていってしまう病、数万人に一人しかかからない、治療方法も不明の病にかかっていることが分かった。
 
不治なうえに、進行していく病気。
 
父親の体は一日一日と衰え、会社に通えなくなり、歩いてトイレに行けなくなり、座ってご飯が食べられなくなり、寝たきりになった。
 
それと共に、24時間の看病と家事に母親の心身の疲労も深刻になっていった。
家族のことが大好きだったが、私にとって両親が大変な状況にある家は、心休まるところではなかった。
重い何かがどっしりと心にのしかかっていた。
 
この辛さは誰にも理解してもらえない……裕福な家で不自由なく育った同級生たちが楽しそうに過ごす様子を見ながら、私はずっとそう思っていた。
だからアヤと仲良くなり、色んな話をするようになり、アヤなら分かってくれる、そう思って、ずっと誰にも話さずにいた“秘密”を打ち明けたのだった。
 
「そう、なんだ……大変だね」
 
しばらくの沈黙の後、アヤは言葉を詰まらせながら、やっと答えた。
 
ふわり。
胸につかえを共有できて、私の心は軽くなった。
 
それからも、アヤとは日々のアレコレに笑い転げた。
 
……という日は長くは続かなかった。
 
中学3年が終わる頃、アヤとはすっかり疎遠になっていた。
喧嘩したとか、何かあったわけじゃない。けれど、何となく避けられているかな、という感じ。じゃあ話しかけないでおこう、と私も遠慮するようになり、気まずさがふんわりとたちこめて、疎遠になった。
 
やっぱり誰も私のことは理解してくれないんだ。
 
中高一貫校なので、アヤと私は一緒に同じ高校にあがったが、高一の時の父の死、高二の時のブラジル留学、という私の人生の重要な場面にアヤが登場することはなかった。そして、別々の大学へと進んでいった。
 
アヤと再会したのは二十九歳の時。
会社員生活、海外ボランティア活動を経て、教師になろう、と決めた私が、教育実習で母校に戻ってきた時だ。アヤは母校で英語教師をしていた。
 
「久しぶり、元気にしてた? ゴハン行こ!」
 
私たちは再会を驚き喜んだ。十数年前の気まずさは互いにすっかり忘れていた。
 
アヤとのゴハンの日の午前中、私が中学の頃からいる物理の先生・ノグチの授業見学にいった。昔から変わらない板書は一切なしの説明。
 
懐かしい声に、中学生の頃の私がよみがえってきた。
 
ノグチは力学の説明をすすめた。
 
……あれ、これって?
 
 
 
夜、アヤと本格派のインドカレーのお店で、互いに10数年分の報告をした後、私は切り出した。
 
「アヤと私さー、仲良かったのに中3くらいでなんか気まずくなったの覚えてる?」
 
そうだっけ?という顔をしながら、アヤはタンドリーチキンを切るナイフをとめた。
 
「そういえば……高校の頃はあんまり一緒に遊ばなかったっけ?」
 
目をぱちくりさせながら、あの頃を思い出そうとするアヤに私は続ける。
 
「お父さんの病気のこと話してからだと思うんだよね」
 
あっ……ごめんなさい…… と困った顔をみせるアヤに私は続けた。
 
「今日、ノグチの授業見学にいったらさ、力とバランスの話、してたんだ。
 軽い球のやりとりしかしてないところに、急に重い球投げても受け取れられないよって。
 それ聞いて思い出したの。
 中学の時、私たちずっと軽い球を投げあって、じゃれてたんだよなーって。
 なのに私が急に重いの投げちゃったんだよな、そりゃアヤ受け止められなかったよなーって」
 
ふわり。
長い間忘れていた私の胸につかえが、解き放たれていく。
 
「軽い球……重い球……」
 
ナイフとフォークを置き、アヤは私の話をゆっくりと反芻する。
 
「そう、重かった。
 マリのこと受け止めたいな、受け止めなきゃ、って思ったけど、重かった。
 どうしていいか分からなくて……ごめんなさい」
 
「ううん、違うの、むしろ私はずっとアヤに悪いことした、ごめん、って思ってた。
 でも今日のノグチの話でさ、どっちかが悪いとか、謝るとかじゃなくてさ、あの時はお互いに未熟で、まっすぐで、だから適当に流したりできなくてああなったんだなぁ、って。
 どちらかを責めるとか悔いるじゃなく、すっきりと理解できたからさ、アヤに共有しときたくってさ」
 
 
ふわりふわり。
私たちの間に長らく眠っていた気まずさが、解き放たれていった。
 
 
 
実習後もアヤとは時々会っている。
 
アヤはクラスの全校生徒への朝礼の時に、この話をしたそうだ。
ノグチは、私のことだとピンときたそうで、朝礼後アヤのとこまでわざわざ指摘にきたそうだ。
「マジ? そこわざわざ確かめるとこ? そっとしとくもんだよね~」
まっすぐで不器用なあの時から一五年、いろんなことに慣れ、神経が太くなってきたおばちゃんな私たちは、再び一緒に笑い転げる時間を取り戻している。

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2018-03-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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