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海外旅行で役に立つ4つの言葉


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:羽田さえ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
外国語は苦手なのに、海外旅行が好きで時おり出かける。
 
片言の英語と笑顔があれば、たいてい何とかなる。
スーツケースをひいてホテルへ入って行けば、泊まりたいのだろうと思ってもらえるし、レストランならば何か食べたいのだろうという前提で接してくれる。
最低限のやりたいことを進めるだけなら、なめらかに話せなくてもそれほど困らないのだ。
 
ナイトマーケットの商品を値切りたい時は、店の人の電卓に希望の数字を打つ。店主も数字を打ち返してくる。お互いに何度も数字を打ち合っていくうちに、落としどころが決まる。
ものすごく体調が悪いとか、カバンをひったくられたというような緊急時には、ガイドブックや旅行会話アプリに載っている文章をそのまま見せるのが確実だ。焦った状態で下手な現地語を話そうとするより、ずっと早くて正確なはずである。
 
とは言え、そんな調子で過ごす中でも、コミュニケーションを円滑に進めるために知っておくと良い現地語がいくつかある。
 
海外旅行に行き始めた頃からずっと続けているのが、現地の言葉で「こんにちは」「ありがとう」「おいしい」の3つを覚えていくことだ。
 
店に入る時や何かをたずねる時には、こんにちは、から始める。
最初に現地語でこんにちはと言っておくと、場の空気がなごむ。その後に現地語が話せなくても、何となく許してもらえる下地ができたりするのだ。
日本ではすみませんと言いがちな局面でも、こんにちは、を使うようにしている。
 
ありがとう、も有用だ。サンキューという単語が通じる相手だとしても、どんなにひどい発音でも、現地語でありがとう、と言えば決まって笑顔になってくれる。むしろ下手であればあるほど、くすっと笑ってもらえたりもする。相手の目を見て、ほほえみながら言うのがコツだ。
 
おいしい、の現地語は、安くて地元らしいものを食べる時ほど役に立つ。
屋台のローカルフードを食べながら、料理人のおじさんに向かっておいしい! と言ってみる。そうだろうという感じでドヤ顔をきめたおじさんは、上機嫌で派手に鍋を振る。次の日にまた行くと、頼んでもいないのに大盛りにしてくれたり、謎のトッピングを追加してくれたりすることもある。
 
こんにちは、ありがとう、おいしい。
ずっとその3つだけで旅をしてきた。ある時までは。
 
転機は、マレーシアのペナンという島に出かけた時だった。
ちょっと奮発して、海辺のリゾートホテルを予約した。ホテル内は外国人観光客が多いので、おもに英語が使われている。しかし本来のペナンは多民族の島で、マレー語や福建語、タミル語などが飛びかっている。いつものように、マレー語でこんにちは、ありがとう、おいしい、だけは覚えて行った。
 
そのホテルの客室係の女性に、何だかとても心ひかれた。
小柄な体には似つかわしくない大きなワゴンを押して、彼女は客室の清掃にやってくる。
マレー系で、いつも頭にスカーフを巻いていた。ムスリムの女性が身につける、ヒジャブというやつだろう。もの静かで、広い室内の清掃作業をてきぱきと進めていく。目が合うと控えめにほほえむ様子が何ともかわいらしい。
 
滞在中に何度も顔を合わせるうちにお互いに顔を覚えて、ちょっとしたあいさつを交わすようになった。マレー語でこんにちは、ありがとう、などと言ってみる。
 
彼女はちょっといたずらっぽく笑って、ウェルカムフルーツのランブータンを少し多めに置いていってくれたりした。色あざやかな花を手渡してくれることもあった。
 
そんなやり取りを楽しみながらも、あいさつ以上のマレー語は知らない。
お互いに英語は片言で、深い話はできない。でも何だかものすごく、彼女に心ひかれた。もし同じクラスにいたら、親友になれそうな気がする。勝手にそんなことを思った。
 
楽しい時間はあっという間に過ぎて、ペナンを発つ日の朝がやって来た。
客室の清掃に彼女が来るかどうかは分からなかったが、メッセージを残すことにした。
日本に戻るのが嫌で、ちょっとセンチメンタルな気分だったのかもしれない。
 
清掃が入る時間も日によって変わるようなので、朝食に出かける前に準備しておいた。
サイドテーブルに少し多めにチップを置き、メッセージを書いたメモ用紙を添える。
 
Thank you for your good service.
隣に自分の名前を書いておいた。
ちょっと味気ないけれど、彼女以外の人が目にしてもおかしくないような文面となると、こんなものだろう。
 
ホテルのレストランで最後の朝食をとって、庭を散歩した後で客室に戻った。部屋の中はすっかりきれいになっていた。シーツやタオルもすべて交換されている。廊下に出て周囲を見回してみたが、客室係と思われる人たちの姿はない。今日に限って、ずいぶん早くに清掃が入ったようだ。
部屋に戻ってサイドテーブルを見ると、自分が置いたものとは違う小さな紙が残されている。彼女からの返事だった。
 
THANK YOU. SAYONARA.
隣には、彼女の名前が書かれていた。
 
サンキュー、サヨナラ。
 
その短い手紙に、胸がいっぱいになった。
私はずっと「こんにちは」「ありがとう」「おいしい」だけで旅をしてきた。
「さよなら」を言ったことはなかったのだ。
別れの言葉なんて、淋しすぎて使いたくなかったのかもしれない。
 
さよならって、こんなに美しくて切ない言葉だったかしら。
淋しいのに、不思議なほど心地よい響きを持っている。彼女がそんな日本語を知っていることにも驚いた。私もマレー語の「さよなら」を覚えて、書いておけば良かった。
 
この時以来、海外旅行に行く時には、その土地の言葉を4つ覚えていくようにしている。
こんにちは、ありがとう、おいしい。そして、さよなら。
どれも本当に役に立つ。覚えておいて損はない。
さよならだけはいつも、ちょっと淋しいのだけれど。
 
 
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2018-04-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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