プロフェッショナル・ゼミ

最期まで笑顔で食べ続けた友人が教えてくれたこと《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松尾英理子(ライティング・ゼミ プロフェッショナルコース)

「ビーフジャーキーが食べたいな。それと、オールフリーも」
2月下旬、入院している友人のお見舞いに行く前に、差し入れの希望を聞いたら、こんな返信がかえってきた。
その友人のFacebookには、見舞い客からの差し入れを、満面の笑顔でほおばる姿を自撮りした写真が毎日のようにアップされていた。萩の月、阿闍梨餅、赤福など地方の銘菓に、柿の葉寿司や笹かまぼこ、豆腐屋ジョニー。そして、ミスタードーナツにモスやマックなどのファストフードまで。
見舞い客にいろいろなものを差し入れしてもらい、入院生活を楽しんでいるように見えた。病人なのに、こんなにも堂々と病院食以外のもの食べていることがなんだか愉快で、毎日「いいね!」を押すのが習慣になっていた。

でも、この楽しそうな投稿とは裏腹に、友人の病状は軽くなかった。
2月中旬のFacebookの投稿を見て、私は、すぐに友人に会いに行かねばと思った。

昨夜、主治医から大事な話がありました。
肺がんにかかって、脳転移してから4年超。
脳腫瘍の脳転移数が多すぎて、ついに治せなくなったらしいです。
皆さんにはこれまで、たくさんの声援やお見舞いをありがとうございました。
この先いつまで生きられるか分かりませんが1日でも長く充実した日を過ごしたいです。
残り少ない日々もよろしくお願いします!

投稿を読み、すぐさまメッセンジャーで連絡を取ったら、
「来てくれるなら、差し入れ楽しみにしています!」と、シンプルな返信がかえってきた。そこで差し入れのリクエストを聞いたら、先の言葉が返ってきたのだった。

友人との出会いは、15年前くらいだろうか。勤めている会社で配属となったチューハイ・カクテルの開発チームで一緒になった。友人も私も転職組。私は営業からの異動だったが、友人は一貫して開発畑を歩んできていた。前の会社では「桃の天然水」の開発に関わり、転職後もビール部門に配属となり新製品開発を担当。こだわり派でストイック。職場ではほとんど笑顔を見せることもなく、仕事以外ではなかなか腹を割って話すことはなかった。

部署を異動した数年後、休日のディズニーシーで、奥さんとお嬢さんと家族三人でパークに訪れていた友人に偶然会った。いつも一匹狼で黙々と仕事をしているイメージの強い友人が、可愛いお嬢さんと手をつなぎ、それまで見たことのないくらい笑顔全開だったのが新鮮だった。

その後、共通する仕事の流れで飲みに行く機会があった。
お互い、子どもが一人娘なこと。
もともと、オーガニックや農業に興味があること。
仕事を通じて、志ある農家さんと知り合いになり、親交を続けていること。
その農家さんたちをつなぎ、もっと日本の農業を盛り上げるきっかけが作れたらいいなと思っていること。
共通点がたくさんあった。共通の知り合いもびっくりするくらいたくさんいた。
気付いたら、ライフワークや夢について語り合っていた。

その後、私はそんな夢とは縁遠い毎日を送っていたが、友人は着実にその夢の実現に近づいていった。会社のCSR部門に異動になり、たくさんの農家さん、産地のよさを引き出し、会社の企業理念に基づいた活動へとつなぐ仕事をしていることを、風の噂で知った。
正直、うらやましかった。

そして昨年の3月、以前一緒だった部署の上司を囲む会で、久しぶりに会った。
変わらず元気だったけれど、ニット帽をかぶっていた。
なんとなく嫌な予感がした。
帽子を外し、薄くなった髪の毛を見せて、友人は言った。

4年前に肺がんになっちゃって。いきなりステージ4。
人間ドックも毎年受けていたのに、タバコだって吸ってないのにさ。
いつ死んじゃうかわからないと思ってね。
やりたいことさせてください。必ずいい仕事しますからって会社に頼み込んだんだよ。
だから、今は毎日本当に充実してる。
やりたかったこと、自分だからこそできる仕事だからね。

そういうことだったのか。
彼の仕事を少し羨んだ自分が恥ずかしくなった。
皆で再会を約束して、解散した。

そして夏に近づいた頃、焼鳥屋で美味しいお酒を飲みながら、友人の夢を聞いた。
月2回の抗がん剤治療はかなり大変そうだったが、会社は通常勤務、出張も週1でこなしていた。鳥取や熊本での自治体や農家さんとの取組は、前回聞いた話よりも更に進化していた。プライベートでは、秋に念願のインド旅行をするという。

ステージ4と宣告されて4年も経ってるからね。
すぐ死ぬのかと思ったら、意外にも病状があまり進行せずにいてくれて。
このままいったら、まだまだ結構生き延びられるかもね。

うん、私もそう思う。絶対に、まだまだいけるに決まってる。

そう言って、笑顔で別れた。

でも、さすがに昨年末から少し体調がよろしくないようだった。
会社も休職し、入院生活に入ったとの報告がFacebookにあがっていた。

がんばれ!!
もう、それしかなかった。

でも、入院生活に入ってからも相変わらず前向きで、毎日、見舞い客からの差し入れを楽しむ報告を、アップし続けていた。

私の差し入れも、アップしてくれるかな。
そう思いながら、ビーフジャーキーとオールフリー、追加リクエストの入ったデカビタCを買い、以前一緒だった職場の上司と一緒にお見舞いに出かけた。

差し入れを喜んでくれて、1時間以上楽しく話ができた。
友人は、今年絶対に果たしたい「夢」を私達に語った。

僕ね、誕生日が7月7日なんですよね。
今年の誕生日に、どうしてもやりたいことがあって。
この日って世の中的には、年に1回の出会いの日じゃないですか。
その日に、僕が知っている、全国の有名農家さんをつなげたいんですよ。
すごい人達がたくさんいるのに、個人事業主の農家さんはお互いを知らないことが多くて。
彼らを、僕の人脈でつなぐことができれば、未来の農業につながるきっかけを作れるんじゃないかって思うんです。
だから、7月7日に、僕が知ってる農家さん達が一同に介する場を作って、皆で喧々諤々、美味しいお酒を飲みながら夢を語り合うフォーラムをやりたいんですよね。
だから、それまでは絶対生きてやるんだって思ってる。

それ、すごくいいと思う。その際は、私も手伝いたいです。
だから、絶対に生き続けてください。
大丈夫。がんばって!

そう言って、病院を後にした。

お見舞いに行った直後、3月11日を境に投稿がなくなった。
毎日、今日の差し入れは何だろうって楽しみにしてたのに。
それと同時に、すごく嫌な予感がした。

4月9日、会社のイントラネット上で、友人の死を知った。
享年50歳だった。
覚悟していたとは言え、ショックだった。

ガンという病気に対し、これほどまでに前向きに取り組んだことを尊敬してやまない。
その立場になっていない以上、軽率なことは言えないけれど、笑顔でいることだけでも、並大抵の精神力ではない。
昨年9月に訪れたインド旅行後のFacebookには、こんなことが書いてあった。

人間、やっぱり思い立ったが吉日。
人生いつまで続くかわかりません。
あまり深く考えずに、思い切ってやってみることも大事ですね。

そのポリシーを曲げることなく、最期まで前向きに生き抜いた友人に合掌した。

人生100年時代と言われる中、その半分の50年の人生。
太く短いながら、毎日、食べることの幸せを追求し、食と農を通じてたくさんの人をつなぎ、大好きな仕事をし続け、最期まで夢を語った素敵な人生。
彼を知る多くの人たちの脳裏には、最期まで美味しく食べ物をほおばる笑顔が残るはず。

そして友人は、私達に改めて教えてくれた。
「美味しいものを食べること」は気持ちを幸せにし、時には私達を強くしてくれることを。そして「生きる糧」となり、私達の人生を彩り豊かなものしてくれることを。

友人のおかげで、かつての上司と一緒にお見舞いに行くことができ、久しぶりにいろいろと話すことができた。
更に、今の仕事でとてもお世話になっている方が、偶然にも友人と共通の知り合いだったことが分かり、それまで以上にたくさん助けてもらうことができている。

農家さんだけじゃなく、私もご縁をつないでもらいました。
本当にありがとう。
そして、ガンとの長い長い戦い、ご苦労様でした。
天国でも美味しいものたくさん飲んで食べて、
毎日笑顔で幸せに過ごすことができていますように。

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