メディアグランプリ

「偏見がある」方が、「偏見がない」よりも大切なのではないかということ


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記事:金澤 鮎香(ライティング・ゼミ朝コース)

 
 
自分は、偏見などない。
 
そういう風に思いこんでいた時期があった。というかここ最近までというか数か月前まで、そう思っていた。「偏見がある」ことがまるで恐ろしい事のように思えていた。
自分が理想とする人間像は、偏見がなくどのようなモノゴトに対してもフラットに見ることが出来る。そんな人間像だったからというのもある。
 
小さい頃から発展途上国によく行っていたことや、学生時代にバックパッカ―で世界一周をしたこと、LGBTの知り合いもいたこと。そういった経験も相まっていわゆる偏見を持ちそうな事(海外は怖い、LGBTは変な人など)に関しては、世間一般よりは耐性がある自信があった。逆にそういったものに偏見を持っている人が嫌いで、「インドって怖くないの? 大丈夫?」といった質問に対して過敏に反応してしまったり、偏見を持っている人に対して「なんて人間が出来ていないんだろう……」といった感情を抱いていた。偏見を持っている人に偏見を持っていたのだと思う。今思えば。
 
そんな私の考えが根本から覆される出来事があった。
 
数ヶ月前、いきなりラインで写真が届いた。送ってきたのは、自分が主宰するイベントに数回参加してくれた中年男性で、仲良くさせて頂いている人だった。送られてきたのは女性の写真。そして「この子のことどう思う?」という質問つき。
 
いきなりなんだろう? ……ん?
 
何か違和感を感じて、しっかり写真を見た。やっぱりそうだ。
 
あ、これこの人の女装写真だ。
 
きもっ。
 
えっ。
まて、ちょっと待って。私、今なんて思った??
 
愕然とした。
 
私が一番忌み嫌っていた「偏見」を自分が持っていたこと。感じてしまったこと。その事実に気づいてしまった。
私は、これまでLGBT含め女装趣味の人に対して偏見なんて持っていなかった。人の趣味に対してとやかく言うなんてナンセンスだし、人に迷惑かけなければ、女装も男装も別にいいじゃないかと思っていた。
 
でも、私は今知り合いのおじさんが女装をしている写真を見て、しかもそれに感想を求められた今、気持ち悪いと感じている。
 
これは一体どういうことなのだろう。
 
何日間か自分でも理解ができないこの感情を整理するために悩みに悩んだ。そこで1つ気付いたことがあった。
 
それは、「他人ごとが自分ごとになった」ということだった。
 
私は、これまで「偏見がない」と思っていたが、それは自分とは直接関わりのない人たちが何をしていようが、別に構わないというだけだった。要するに他人ごとだったのだ。
 
例えば、トルコもパレスチナもヨルダンも行ったからイスラム教の人は怖いという偏見はない。でもそれは自分の拠点が日本で単なる観光客として行った感想に過ぎない。実際にイスラム教と敵対する国に住んで育ったらどう感じていたのかは分からない。
LGBTの知り合いがいてその子のことを変だとか思ったことは全然ないけれど、もし自分が同性の友達に告白されたらその時私はどう感じるのだろう。友達の友達レベルなら許せることも、もしかしたら何で私なのかと悩むのかもしれない。
 
そう。あくまでも他人事だったから、自分とは直接関係のないできごとでしかない他人事だったから許せていたのだ。「偏見がない」というのは、人にしっかり向き合っていないということだったのだ。
 
人と人としっかり向き合い、それこそ人のアイデンティティに触れるような、もろい大切にしている部分をさらけ出すような、深い話が出来る関係にある人が私の周りにどこまでいることだろう。
そこまでの関係性を自分は持とうともしていなかったのではないか。そこまで自分の身の回りの人に、興味を持たなかったのではないか。
 
「偏見がない」というのは、偏見(を持つほど人に興味)がないというのと同義なのだと気がついた。
 
「偏見」なんてあって当たり前なのだと。たかだか数十年しか生きていない自分が知りうることなんてほんのちょっとだ。そこで見聞きした限られた知識なんて「偏見」に塗れている。寧ろ自分の「偏見」の存在を知り、向き合うことこそが大切なのだと。知らないことが沢山あって偏見だらけだからこそ、興味を持ち、人と向き合う姿勢を忘れてはいけないのだと、感じた。
 
そんな経験を気付きを教えてくれた女装が趣味のおじさんに、今は感謝しているし、もっと彼の事を知りたいと思っている。
 
より他人ごとを自分ごとにする経験を、より多様な人と知り合い、深く語り合うような関係性をゆっくりと築いていきたい。
 
 
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2018-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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