メディアグランプリ

苦手な人という、最高のご馳走


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:射手座右聴き(ライティング・ゼミ朝コース)
 
天敵のような人が、上司になることになった。
 
Aさんというその方は、とにかく頭の回転が早い。
 
大手のクライアントをいくつも抱えている
会社の稼ぎ頭のような存在だった。
 
問題は私との関係だ。
 
若い頃の私のことを、
「あいつは全然ダメだ」 と言っていた。
 
それが原因で私は異動を余儀なくされたほどだ。
 
10年の時を経て、そのAさんが上司になるという。
 
正直、「あいつはダメだから、要りません」 と
言ってくれたらいいのに。
 
と何度も思った。
 
Aさんの部下だった人たちが
「これから大変だね」と心配してくれた。
 
「いくらやっても褒めてくれない。評価も辛口で嫌になるよ」
 
たしかに大変そうだ。
 
あー、どうしよう。
 
もやもやしながら、
仲のいい女子と飲みに行った。
 
好きな細切り豆腐のごま油和えを頼んだ、つもりだった。
 
がしかし、実際は
そこにパクチーがのっていた。
 
パクチー苦手なのに……
 
と思ったけれど、
女子の手前、うだうだ言うのは、かっこ悪いなと思い直し
エイッと食べてみた。
 
大丈夫だった。
 
いや、むしろ、美味い。
 
パクチーの風味がゴマの風味と混ざると
気にならない、というか、むしろ癖になった。
 
案の定、喉はからからになり、
ビールもレモンサワーも焼酎お湯割もどんどん胃に流し込まれていった。
 
翌朝、頭がガンガンする中で
歯を磨きながら思った。
 
パクチーと一緒で、
最初からAさんを大変と決めるのは、どうなんだろうかと。
 
歯ブラシについたパクチーの切れ端が
何かを教えてくれた。
 
苦手な上司? ちゃんと味わったら違うんじゃないの?
 
そんな中、
Aさんとの初めての打ち合わせがあった。
 
ビクビクしながら行ってみたけれど、
怒られることもなく極めて淡々とした感じだった。
 
あれ。この感じ、なんだろう。
 
ひとつめの仕事は、何事もなくスムーズに進んだ。
 
というよりも、無駄がなく、かつ、的確な仕事だった。
 
そして、Aさんの信頼は、絶大だった。
 
「Aさんはどう思うんですか」
「Aさんがそういうなら」
「Aさんのスケジュールに合わせますよ」
 
プロジェクトのすべてがAさんを中心に回っていた。
 
企画を立案する人という枠ではなく、
ビジネスのパートナー的な、
大局の部分で信頼を勝ち取っているのがわかった。
 
お世辞でもなんでもなく、正直に言ってみた。
 
「こんなに信頼されている人をみたことがないです」 と。
 
「そうかな」
 
ぶっきらぼうにAさんは、答えた。
 
それからは、Aさんの素晴らしいところを
盗もう、盗もう、という気持ちで仕事をしてみた。
 
「ここが勉強になりました」 と素直に言ってみた。
 
「そうか?」
 
ぶっきらぼうな答えに、ちょっとニュアンスが入ってきた。
 
「ああいう時の対処の仕方は、思いつきませんでした」
 
などなど、毎日、勉強になったことについて話してみた。
 
「ああいう時はさあ」
 
答えは少しずつ、長くなってきた。
 
私は、Aさんが信頼を得ているのか
考え続け、思ったことを言葉にした。
 
とにかく判断が早く、役割分担をしっかりする人
ということがわかってきた。
 
みんなが、
あまりAさんと折り合いがつかなかった理由もわかってきた。
 
Aさんのようなタイプは珍しく、
どちらかというと、じっくり考え、できるだけ自分でやるタイプが
いいとされていたから。
 
お互いのズレを認め合えなかったんじゃないだろうか。
 
ある日転勤の話がきた。
 
地方にあるAさんのクライアントの
現地対応を任せたい、というのだ。
 
転勤にあたっての条件も整えてくれた。
 
3年後戻るときも
「俺の部署に戻ってこい」と言ってくれた。
 
苦手だ? 気づいたら恩人じゃないか。
 
昔、ダメだと言われていたのに、
なぜ、こんなによくしてもらえたのだろうか。
 
そんなことを聞いても答えてはくれないだろうけれども。
 
ひとつだけ思うことがある。
 
あの夜、細切り豆腐とパクチーのゴマ油和えを食べていなかったら、
ほかの人たちから聞いた情報を鵜呑みにして怖がっていたら、
何も起こらなかっただろうということだ。
 
私がAさんの仕事ぶりに向き合っていったことで
Aさんも、私に向き合ってくれたのではないか。
 
苦手、と決めつけずに長所に学ぼう、と思ったことで
少しは自分も変わったかなあと。
 
この出来事の後、一見苦手な人に出会うと
ワクワクするようになった。
 
向き合っていけばいくほど
こちらの思いもよらない考え方が見えてくる。
その背景や価値観も見えてくる。
 
「知らなかったけれど、こんなご馳走があるんだ」
と教えてもらっているような気持ちになる。
 
あの日の、細切り豆腐とパクチーの胡麻油和えは
私の人生を大きく変えた。
 
一緒に飲み食いしていた女子は今
私の彼女になって、
 
なわけないです。
 
いやむしろ、今「苦手」 と思っている女子の中に
運命の人はいるかもしれない。
 
さあ次は、どんな苦手な人と
仲良くなろうか。
 
もしかしたら、苦手な牛乳を克服したら
どんな新しい発見があるかもしれない。
 
苦手をグルメに変える旅が続く。
 
 
***

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2018-06-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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