メディアグランプリ

爆弾がやってきた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:三木智有(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
僕はこの3年半。爆弾を抱えながら生きている。
それは、わが家にやってきた時にはすでにチクタクとカウントダウンをはじめていた。そして、真夜中に爆発した。
 
それが爆発することは知っていた。たくさんの人から話しは聞いていたし、扱い方の講習だって受けた。
 
「2時間おきにくらいに爆発しますよ」と。
 
だけどそれは2時間おきとは限らなかった。
時に5分で爆発し、うまくいけば2〜3時間ほどは爆発せずにいてくれた。
 
爆発は夜中だけとは限らない。日中、ようやく静まった爆弾をそっと手放し、細心の注意をはらってその場からの離脱を試みる。しかし、床についた途端それは爆発した。
 
これもよく言われていた現象だった。「背中にスイッチがついてますからね!」と。
 
 
僕はこの爆弾がわが家にやってくるとわかったその時から、共に暮らす準備を入念に行ってきたのだ。
夫婦で共に心を込めて、爆弾との暮らしを心待ちにしていた。
 
とは言え、それの爆発力をどこかで侮っていたのは認めざるを得ない。
 
ある夜、ついに僕の方が爆発した。
連日の寝不足が続いてふらふらな中、お決まりの爆発が無常にも3度連発したのだ。それまでつちかって来たあらゆる対策をしてみても効果なし。
僕は歌だって歌った。この爆発が一刻も早く治まりますようにと祈りまで捧げた。でも無意味だった。
爆弾を抱えすぎた僕の腕はもうパンパンで、これ以上は耐えられなかった。
 
そして、ついに僕は爆弾を投げ出した。
 
「近所迷惑だろうか?」「爆弾は壊れてしまわないだろうか?」「爆弾所持者として、果たして大丈夫なのだろうか?」
色んな思いがグルグルと頭の中を駆け巡った。
僕以上に疲れ切っている妻は起きる気配もない。いや、そもそも今は僕が爆弾処理をする番なのだ。妻に爆発の被害が及ぶ前にどうにかしなくてはいけない。
 
この日、この瞬間。僕はひっそりと、でも確実にこの爆弾に憎しみを抱いたのだ。
とんでもなく腹が立ち、イライラしてムカついていた。
 
それは、一晩中飽きることなく爆発を続けた。
爆発することは、爆弾自身の唯一の自己表現だったし、自己主張なのだ。「わたしはここにいる」「わたしには伝えたいことがある」「わたしにはやりたいことがある」「不快だ」「苦しい」「嬉しい」「楽しい」全ての表現が込められている。
 
だけど、その表現は同時に僕の心と身体を蝕んでいった。
 
「もう勘弁してよ。俺の負けだよ」とつぶやき、手放した爆弾を見た時。その爆発力に反比例するかのように、爆弾自身が無力であることを感じた。
そうするしか表現方法がないのなら、それを受け入れてあげるしかないのだ。
 
僕1人で全部を受け止めることはできないけれど、妻と2人でなら倍は受け止められる。そして受け入れられる。
僕は、ぼーっとする頭で「受け入れなきゃ」と何度も繰り返していた。
 
この日はいつの間に眠ったのか、気がつけば朝になってしまっていた。
 
 
そして爆弾との暮らしも2年が過ぎた頃。
幸いにも1年足らずで夜中の爆発はなくなり、僕たち夫婦も穏やかに眠れる生活を手にしていた。
 
ある日電車に乗っていたら、1年前の僕のように爆弾を抱えてそわそわしながら乗っている女性がいた。彼女も自分の抱えている爆弾がいつ爆発するかと気が気でないようだ。
電車の中での爆発は悲惨である。僕たちにはそのつもりはないのに、まるでテロリストのような気持ちになる。
同じような思いを経験したことのある人は、そんな時にどうされたら安心するか知っている。
ニッコリと微笑みかけるだけでいいのだ。
 
「爆弾は、爆発するのが仕事ですからね。大丈夫。そんなに慌てなくても」という風に。
 
僕だって手元には、彼女の爆弾よりも少し大きくなった爆弾を持っている。
 
「後1年もすれば、いつ爆発するかなんてそわそわしながら、電車に乗ることもなくなりますよ」
 
僕は彼女にそう言ってあげたい気持ちになった。
 
しかし、僕は油断していた。
僕の爆弾は1年の時を経て進化をとげ、恐るべき機動力を身に着けていた。
 
なんと、走るのだ!
 
それは地雷ではなく、手榴弾へと変わっていた。
 
電車が駅に到着して扉が開いたその瞬間。油断した僕の手から爆弾がするりと発射されるのがわかった。
ジグザグと不思議な軌道を描きながら、爆弾は数歩先にいたおばあさんの足に当たり、爆発した。
 
 
そして今。爆弾との暮らしも3年が過ぎ、いまではむやみに爆発することもなくなった。
とは言え、手榴弾からミサイルへと進化をとげたそれは、道を歩いていると突然電柱や看板にロックオンして、勢いよく発射されるから、まだまだ油断はできない。
 
爆弾との暮らしの中で、僕の生活スタイルもずいぶん変わった。
今では朝4時に起きて、仕事をしたり、このライティングゼミの文章を書いたりしている。爆弾の起動スイッチが入る6時までの2時間。
この時間が僕にとって、一番心穏やかに作業に集中できる時間なのだ。
 
でも、起動スイッチは必ず6時に入るとは限らない。
朝4時30分。今も2階でスイッチが入ったような気配がした。僕にとってはとても貴重な2時間なのだ。 できれば勘違いであって欲しい。
 
しかし無常にも、ミサイルは僕にロックオンしたようだ。2階から放たれたそれが勢いよく僕めがけて放たれた音が聞こえる。
 
ついにリビングの扉が開いた。
しかたがない、貴重な2時間は今朝はお預けにしておこう。
 
 
僕めがけて一直線に飛び込んで来たミサイルを、僕は両手で抱きしめた。

 
 
***

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2018-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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