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プロフェッショナル・ゼミ

人間は、食べ物のお化けだ。《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大国 沙織(プロフェッショナル・ゼミ)
 
私達の命は、他の植物や動物の命によって支えられている。
食べたものが私達人間の60兆個の細胞の材料となり、血液となり、身体を作っている。
考えてみると至極当たり前のことだけれど、日々それを意識して、食べるものを選んでいる人は果たしてどれぐらいいるだろうか。
 
私がはじめて食事の内容を意識するようになったのは、女子高生のときだった。
中学の頃から不調はたびたび感じていたけれど、少しずつ悪化していた。
毎朝起きてから寝るまで、とにかく体調が悪い。
起き上がれないほどではなかったので、どうにか学校には通っていたけれど、常に身体がだるくて仕方がなく、手足の先まで冷え切っていて、気力が湧かない。
高校生らしく元気いっぱいに過ごしている他の子たちが、うらやましくて仕方がなかった。
冷え性の人には共感してもらえるかもしれないが、身体が冷えている状態がずっと続くのは、かなり辛い。
ひどいと、ときには手や足の感覚がなくなる。
そうなると、試験中にペンを動かすことにも苦労する。
手首に巻くタイプのカイロを使い、それで手を温めながらどうにか頑張っていた。
 
唯一快適に過ごせたのが、夏だ。
田舎の公立校だったのでクーラーなんてなく(私が卒業した直後についたらしい)、汗だくになりながら授業を受けるクラスメイトの中で一人、ちょうどいい気候だなぁと思っていた。
とはいえ真夏でも長袖が手放せず、靴下も重ね履きしていたのだけれど……。
真冬になると、もう地獄だった。
タイツを履いていても冷えて仕方がなく、歩くと足が痛むほどだったので、特別に許可をもらいズボンで通学していた。
カイロ、湯たんぽ、膝かけなどは必須アイテムで、いつも大荷物だった。
 
さらに、ちゃんと食事はしているのにどんどん痩せていく。
しまいには30㎏前半まで体重が落ち、骨と皮だけのガリガリの体型になってしまった。
骨が当たって痛いので、硬い床やイスに直接座れないほどだった。当時の私のあだ名は「ガイコツ」である。
 
もちろん、生理もずっと止まっている。
病院嫌いの私も、さすがにこのままではヤバいと思った。
診断結果は、自律神経失調症だった。
身体が正常に働いていない。出るべきホルモンが出ていない。
直接的な原因は、おそらくストレスだろう。
思えば確かに、学校に行くのがずっと苦痛だった。
小学校の途中までアメリカに住んでいた私は、日本の学校のスタイルになかなか馴染めなかったのだ。
ここでは一人一人の個性や意思を尊重してくれるどころか、何よりも協調性が求められ、出る杭は打たれる。
私は自分を出すことができず、心に麻酔を打つようにして毎日を過ごしていた。
そうでもしないと、まともな精神が保てなかったのだ。
 
自分の体質を根本から改善しなければと思ってはじめて、もしかしたら食事で治せるかもしれないと思った。
というのも、身近に前例があったからだ。
小学校の頃、4つ年下の妹がひどいアトピー性皮膚炎になり、学校へ通えないほど症状が悪化してしまったことがあった。
そんなある日、「玄米菜食でアトピー性皮膚炎が治った」という一つの記事を母が新聞で見つけ、藁をも掴む思いで実践しはじめたのである。
日々の食卓に、肉、魚、卵、乳製品などの動物性食品や砂糖を使った料理がまったく上らなくなった。
ご飯も白米から玄米になり、野菜のおかずばかりが並び、それまでの食事とのあまりの変わり様に、はじめは素直に受け入れることができなかった。
でも、ぼそぼそで食べるのが苦痛だった玄米が、母の勉強と努力の甲斐あって、気付けばふっくらと美味しくなっている。
当初はわびしい雰囲気だった食卓も、味付けや食材の組み合わせなどの工夫により、以前のような華やかで満足感の得られるものになっていった。
 
妹のアトピー性皮膚炎はというと、食事を変えて早くも数ヶ月で大分症状が落ち着き、3年後には完治するまでに至った。
ボロボロと古い皮膚が剥がれ落ち、その下から綺麗なピンク色の新しい皮膚が現れる。
ずっとそばで見てきたその行程が、さながら脱皮のようなダイナミックさで、「食べ物によって身体はこうまで内側から変わるのか……!」と子供心にとても衝撃だった。
それまで、薬や湯治療法などさまざまな治療法を試しても症状が改善される様子はなく、正直あまり期待していなかっただけに、余計である。
外側からどうこうするよりも、食事によって内側から体質を改善する方が、根本的な解決への近道かもしれないと思った。
ちなみに両親は、毎年のように悩まされていた花粉症の症状が、ほとんど出なくなった。
呼吸器内科医である父は、当初は「肉を食べないと力が出ない」などとこぼしていたが、妹の症状の改善を目の当たりにしたことに加え、自身も風邪を引かなくなるなど体調の良い変化があり、食事の及ぼす影響を実感したようだ。
外来の患者さんに食事のアドバイスをし、「動物性食品や甘いものを控えるだけでも喘息の発作が出なくなる人が多くて、患者さんも喜んでいるよ」などと嬉しそうに報告してくれるようになった。
そんなに家族が元気になったのに、あなたの体調は変わらなかったの? と思われるかもしれない。
私はまだこの頃は十分元気だったので、とくに変化を感じられなかったのだ。
 
以前そんな原体験があったこと、そして父から「薬を飲んでも、一時しのぎにしかならないよ」と言われて育ったこともあり、私も食事で自分の病気を治してみようと思った。
大きくなるにつれ、自然と友達の付き合いで外食や買い食いが増えていたが、健康的な内容とは言えなかったので、それも全部辞めた。
周りの人には、「そこまでしなくても……」とか「ストイック過ぎだよ」と言われることが多かったけれど、私はやるなら本気でやりたかったし、最短距離で結果を出したかった。
そこで、東洋医学系の先生の食養相談を受けてみることにした。
ところが出された食事制限は、予想していたよりもずっと厳しいものだった。
肉や魚などの動物性食品はもちろん、植物性のものを含むすべての油、パンや麺類、お菓子などの粉製品、豆腐や湯葉などの大豆製品まで。
一切口にしないようにと言われたものは、実に多岐にわたった。
食べることが好きな私は、絶望した。
明日から、一体何を食べて生きていけばいいのだ。
 
私がそう先生にたずねると、「玄米や雑穀などの全粒穀物、旬の野菜、海藻、味噌や醤油、梅干しなどの発酵食品を中心にしたらいいよ」と教えてくれた。
え、それって、昔から日本人が食べていた伝統食に近いんじゃ……?
高校時代、万葉集や源氏物語が好きでよく読んでいた私は、そこから日本の食文化を垣間見るのが楽しみだった。
1000年も前の人たちが何を食べて生きていたのか、それを知って当時の暮らしぶりを想像することに、ロマンを感じていたのだ。
春の野に出て山菜を摘んだり、山のきのこで雑炊を炊いて、家族や仲間と分け合ったり。
木の実をすり潰して、お餅やお焼きにしたり。
決して裕福でない農民の人たちも、食事の団欒の時間をとても大切にしていた。
食いしん坊の私は「一体どんな味がするんだろう……!」とワクワクしながら、ごく一部しか登場しない食事場面の記述を、食い入るようにして読んだものだ。
 
これって発想の転換をすれば、昔の日本人がしていたような食生活を、追体験する絶好のチャンスではないか。
そう思えると、途端にやる気が湧いてきた。
しかもそれで元気になれるなら、もう言うことない。
かくして私の食生活は一変したのだけれど、嬉しいことに家族も一緒になって付き合ってくれた。
食事の献立を考えるにあたっては、昔の料理書や、精進料理の本が参考になった。
もちろん写真なんてないような、古文調で書かれたような本を解読するのも楽しかった。
このときしみじみ思ったのが、「料理のレシピって、色褪せないんだなぁ」ということだ。
分量などは大体しか記されていなくても、食材同士の組み合わせや薬味の効かせ方など、十分現代でも役に立つ調理の知恵が満載である。
 
食べられる食材だけを使って、いかにバリエーションを広げるかを考えるのは、ゲームのようで意外なほど面白かった。
はじめは和食という発想しかなかったが、工夫次第で中華や洋風の料理も作ることができる。
それまでは未知だった食材との出会いも、たくさんあった。
アワやキビなどの雑穀は、炊いて塩味を付ければ、まるで卵のような味わい。
あらめやふのりなどの海藻類は、煮てもサラダにしても香りが良く、アクセントになって美味しい。
雑穀も海藻も、日本の古代文学に登場する食べ物だったこともあって、私は毎日のように興奮していた。
物語の中でしか触れられなかった憧れの食べ物を、実際に味わう喜び。
限られた食材しか使えないからこそ、私は料理の面白さに目覚めることができたのかもしれない。
 
肝心の私の体調はというと、思ったよりも早いペースでよくなっていった。
まず冷え性が少しずつ改善し、カイロや湯たんぽが必要なくなった。
少し歩いたりするだけで、手足がポカポカしてくる。
全身のどこにも冷えを感じない状態ってこんなに気持ちがいいのか、と感動した。
体重は20㎏ぐらい増えてBMIも正常値になり、ずっと止まっていた生理がちゃんと来るようになった。
常につきまとっていた倦怠感もなくなり、まるで背中に羽が生えて身体が軽くなったように感じた。実際には太ったのに、人体って面白いなぁ。
それまではこまめに休憩が必要だったけれど、走ったりすることも苦ではなくなった。
自由自在に動けるって、素晴らしい。
なんでもできるような気さえしてくる。
元気じゃないと、何をする気も起きない。
健康って、本当に大事だ。
ちなみに、私が元気になれたのは食事によるところが大きいと思うけれど、全裸で寝ること、すなわち「裸眠」もかなりそれに貢献してくれたように思う。
もし興味があれば、過去に書いた記事「ああ、全裸で寝ることの素晴らしさよ。」を読んでみてほしい。
 
仕方ないのかもしれないけれど、忙しい人ほど、どうしても食生活が乱れがちになる。
私も社会人になってからは、何度か食事がおざなりになり、ほどなくして体調を崩した。
でもその度に、食事をととのえることで元気を取り戻している。
「人間は食べ物のお化けだ」と、と昔のある食養家は言ったらしいけれど、私たちは誰一人の例外なく、まぎれもなく食べたものでできている。
食べたものでしか、できていない。
だから、たった一つしかない自分の身体を、食べることを通して、もっと大切にしよう。
薬のように劇的に効くものではないけれど、必ず応えてくれるだろう。
 
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