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結局、そうだったんだ。


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【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ユリ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「実はバイクの免許を持っているんだ」と話すと、「意外!! 誰の影響? 男??」と、たいていそう聞かれる。ほぼ100%の反応。言われ続けて今日に至る。
 
恋愛をすると、その相手に合わせるかのごとく、服装を変えたり髪型を変えたり新しい趣味などを始めたり、まれに、態度やしぐささえ、変わるような人もいる。
 
「自分を変えてまで俺(私)のことを好きになってくれているんだ」
 
好きな人の理想とするタイプに、自身を少しでも近付けようとする行動や努力は、好きになってもらう側にとっては嬉しいし、有難いことだと私は思う。こうも考える。大半の人は多かれ少なかれ、心の中に独占欲や支配欲なる欲望を持っている。「その人を振り向かせたい」という想いは、いわば、「自分だけを好きになってほしい」という、独占欲からくるもの。「自分の好きなタイプに変わってくれる」「自分色に染まってくれる」というものは、支配欲を満たしてくれるもの。恋愛は、支配欲と独占欲の駆け引きだ。それらをきちんと理解し自分をうまく変えられる人が、恋愛上手なのだと私は思う。
 
一方、私は好きな人ができても、自分を変えてまでその人を振り向かせたいとはあまり思えない。「そのままの君が好き!」と言ってくれるような相手ではないと、その人と長く付き合えないと思うし、たとえ好きな人のために変わろうと頑張ったとしても、いつか自分のボロが出てしまいそうで……。ボロが出た時のことを考えると、怖いというか、臆病になるというか、なら恋愛しなくてもいいと思ってしまうというか……だからろくに恋愛をしてこなかったのかも……というのが、恥ずかしながら私の実際のところだ。
 
そんな私なので、好きになった人の影響で何かを始めたりしたことは、今までほとんど無い。もちろん、バイクに乗り始めたわけもない。物心つくころにはすでに私は、「バイクは乗れて当たり前の乗り物」だと思っていた。「高校卒業後の進路が決まった子たちが自動車の免許を取りに教習所へ通い出す」という話はよく聞くけれど、それと同じような感覚で、「そろそろ免許取りにいかなきゃなぁ」と何らためらいもせず、私の場合は二輪車の免許を取りに教習所へ通い出した。本当に自然な流れだった。
 
けれど。あらゆる物事は理由があって起こると言われるのだから、「バイクに乗れて当たり前」「バイクの免許を取らなきゃ」と私が思うようになったのも、きっと何らかの理由があったはず。一体何が、影響していたのだろう……。
今まで深く考えたこともなかったけれど、よくよく考えてみると、一つだけ思い当たる節があった。母方の祖父、「じっちゃん」とのことだ。
 
じっちゃんと私たち家族は遠く離れて暮らしていたため、まともに会えるのは年に一回の、私と姉の夏休み期間中ぐらいだった。新幹線とJRの在来線を乗り継ぎ、何時間もかけて辿り着く、かろうじて有人の小さな駅。改札口を抜け、アーチ型の出入口を抜けると、いつもそこには、じっちゃんの笑顔が待っていた。駅まで自転車で迎えに来てくれることもあったけれど、新聞配達員の人たちがよく乗っているものと同型の「カブ」と呼ばれるバイクで迎えに来てくれることもあり、私はそのカブで来るじっちゃんを、さらに楽しみにしていた。じっちゃんは、ごくごく普通の田舎にいるおじいちゃんだった。けれど、バイクに乗るじっちゃんは、ものすごくかっこよかった。私はその姿が、本当に大好きだった。そして当時の私は、自分もいつかバイクに乗れるものだと疑いもせずに思っていた。
 
実は過去に一度だけ、カブの荷台部分に乗せてもらったことがある。荷台部分にそのまま座ると、金属部分がお尻に当たって痛いので、二つ折りにした座布団をゴムバンドを使ってしっかりと固定し、自宅の敷地内にある田んぼの畔道を、何往復か走ってもらった。ガタガタの畦道とカブのエンジン音二つからなる振動が、私のお尻にダイレクトに届く。座布団を敷いていたのが無意味なほどの痛さが、お尻に何度も響いてきたが、その痛みよりも遥か上に、面白さと心地よさがあった。
 
そうだったんだ。よくよく考えてみると、私は私の祖父の影響でバイクが好きになり、私は結局、「祖父」という「男」の影響で、バイクに乗り始めたのだった。
 
今や私は、じっちゃんのカブよりも遥かに大きい、400ccのバイクに乗っている。わざわざ座布団をゴムバンドで括りつけることなく、程よく柔らかいシートに一人ゆったりと座り、どんなガタガタ道を通ったとしても、お尻にほとんど痛みを感じることなく、バイクに乗っている。じっちゃんのカブは、今や農機具倉庫の奥の方で、ほこりをかぶって眠っている。主人を失ったカブは、もうきっと、動かない。けれど、ジリジリとした太陽が照りつける中、青々とした田んぼの畦道を颯爽と走る、じっちゃんとカブの姿が、今でも私の脳裏に焼き付いている。
 
今年もまた、夏が終わろうとしている。
結局、そうだったんだ。私はその姿に、今でも恋をしているようだ。
 
《終わり》
***

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2018-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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