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プロフェッショナル・ゼミ

「やってみよう」 は誰のため?《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:射手座右聴き(プロフェッショナル・ゼミ)
 
悩むより、まずやってみよう。考えるより、一歩踏み出そう。
ネット記事などを見ると、行動の大切さがいろいろなところで語られている。
何度も失敗して、それでも諦めないで、成功をつかみとる。
そんな起業家のストーリーに熱くなることもある。
 
SNSを駆使したり、クラウドファンディングを成功させることで
普通に考えたら、不可能な物事を実現した人たちも増えてきている。
 
私の知人にも、一歩踏み出してみた人がいた。
 
あれは、去年だった。
 
「最後のお願いに、最後のお願いにまいりました」
10月後半のとある土曜日、私は選挙カーで叫んでいた。
 
私は、政党に属してはいない。政治活動に携わったこともない。
なのに、叫んでいた。知らない土地で、立候補した知人の名前を連呼していた。
 
「母親として、サラリーマンとして、皆様の目線で頑張っていきます。
よろしくお願いします」
 
知人は切々と叫んでいた。沿道のお母さんたちは手を振っている。
 
「ねえねえ、選挙に出ることにしたんだけど、チラシを作ってもらえませんか」
 
突然知人から電話がかかってきたのは、去年の9月30日だった。
衆議院が解散総選挙になり、
かなり高い確率で、某政党から公認がおりそうだ、という。
 
「せっかくのチャンスだから、やってみようと思って」
 
でも、なぜ、私に頼むのだろうか。
なんでも、ボランティアで友人にデザインを頼んだところ、
あまり納得がいかない、というのだ。
 
「途中までのラフだけど、見てくれる?」
 
メールで送られてきた制作途中のチラシは、とにかく読みにくかった。
レイアウトが散漫で、メリハリというものがない。
文字の切れ目もバラバラで読みにくい。そして色使いが派手派手しい。
 
「正直読みにくいですね」 と言うと、ちょっと疲れた声が返ってきた。
 
「私もそう思って、変更をお願いしたんだけど、
色々理屈をつけて変更してくれないのよ」
 
なるほど。こだわりが強すぎる方なのかな。
 
「私も、企業でマーケティング職をしている以上、
自分のチラシは読みやすく、センスのいいものにしてほしいんです。
お金は払います」
 
たしかに知人は、大手企業でマーケティング職についている。従来の政治家や普通の候補者とは違う、というところを見せたいのだという。
 
頼まれることは嬉しいことだ。がしかし、不安満載だった。まず、彼女がどんなものをセンスがいいと感じるのか、わからなかった。なにせ、仕事をしたことがない。でも時間はない。一発で気にいるものを出せる自信がなかった。
 
それ以上に怖かったのは、一度デザイナーの方に動いてもらったら、お金が発生してしまうことだった。仮に気に入るものが出せなかった場合、費用は誰がもつのだろうか。それを考えると、時間がなくても、確認をとりながらしっかりと進められるのか、気になった。
 
「やめよう、にげよう、理由を考えよう」
経験値が全力で、私を止めようとしてきた。でも、好奇心には勝てなかった。
なんだか面白そうだ。知人は、ひとり親で子育てをし、ビジネスマンとしても頑張っている人だった。そんなキャリアの人が選挙に挑戦するのを間近で見てみたい、と思った。運良く当選でもしようものなら、それはそれで実績になる。
 
よこしまな考えだけが広がっていた。
 
「まあ、悩むより、やってみよう」 という思考は、私にもあった。
 
とりあえず、一回原稿を作ってみて、それが気に入ってもらえるようならば、
進めるという条件で話を受けた。
 
2日後、ラフを送ると、すぐに返信のメッセージが来た。
「このまま進めてください」
 
ホッとしたと同時に、沼に一歩を踏み入れた気がした。
 
「あと、もうひとつ相談があるんだけど」
 
メッセンジャーで長文が流れてきた。
 
「政見放送の台本、直してもらえないかしら」
 
なんだか、面白くなってきて、気がつくと、10分でリライトをしていた。
こうやって、まるで、お店をオープンした友だちを手伝うような感覚で
チラシの制作などの広報作業を始めた。
 
が、しかし、私は大きな勘違いをしていたことに気づくのだった。
これは、選挙だった。お店のオープンや起業とはわけが違う話だったのだ。
 
数日後のことだ。
 
「正式に公認が決まりました。相談なんだけど、広報責任者として、党に連絡先教えていいかな」
 
両足が沼に入った。
 
「実名がメディアにでたりするのは、困るけど、大丈夫なのかな」
 
いいとも悪いとも言わない返信を送ってから10分後、
電話が鳴り止まなくなった。
 
「◯○通信社です。N候補(知人)の広報を担当されていると聞きました。
大至急プロフィールを送ってください」
 
プロフィール? 本人じゃなきゃ、わからないよ。
 
「△△新聞の支社です。広報担当の方ですよね。政策に関するアンケートを送ります。至急返信をください」
 
政策? 聞いてないよ。
 
「立候補の記者会見の場所は、どこですか」
 
知らないよ。
 
「タスキの注文を受けている業者ですが」
 
聞いてない!
 
とにかく電話が鳴り止まないのだ。
 
電話を切ると新着メールが10通以上溜まっていた。
そして、本人とは連絡がとれない。
 
途方に暮れて、彼女に公認をだした政党の方に電話してみた。
 
「候補者は忙しいのだから、あなたが自分で決めてください。
それが広報責任者です」
 
さっきまで、ただのチラシ制作を依頼された素人だったのに、
いきなり、広報責任者にされてしまった。
 
開き直って、勝手に決めはじめた。どんどん進めるしかなかった。
プロフィールを書いた。政党の公約を見ながら、政策に関するアンケートを
「たぶん、こうだろう」 と記入した。
 
なるほど。よく政治家の人が言う、「秘書が勝手にやりました」
というのはこういう感じなのか。
 
もちろん、1日のおわりに、確認は仰ぐ。
「うんうん」 と疲れ切った承認は、得る。
 
候補者は、遊んでいるわけではなかった。事務所探しが難航していた。
急に立候補が決まった、いわば落下傘候補。なので、事務所を貸してくれるところがなかなか見つからないのだ。
 
また、選挙カーの手配も時間がかかった。解散、となった瞬間から選挙カーは
一気に押さえられてしまうらしいのだ。全国津々浦々、「選挙カー余ってないっすか?」 という電話が鳴りまくるらしい。
 
次に候補者から電話がかかってきたのは、こんな内容だった。
 
「クルマ、手配できたから、あとは打ち合わせしておいて」
 
デザインは、どうするのか。クルマを選挙区まで、だれが持っていくのか。
クルマを毎日運転するのは誰なのか。どの地域を周っていくのか。
ひとつ何かを決めたら、それを実行するところまで一気に決めなければいけない。あまりに時間がなさすぎた。
 
エントリーの受付である公示は、10月12日。それまでに、すべての準備をしなければ、ならない。
 
「選挙期間に、協力してくれる人はいるの? 広報物は作れるけど、申し訳ないけど、現場までは行けないよ」
 
「友達が3人と親戚が来てくれるから」
 
誰も来ないよりはいいけれど、人数少なすぎないだろうか。
 
さらに追い討ちをかけるように、電話がかかってきた。
 
「明日、選挙管理委員会に来てください。立候補者説明会をします」
 
東京から2時間以上かかるところに、いきなり行けと言われても無理だった。
 
別の人が見つかった。が、書類の受け渡しの段取りを組むのに時間がかかった。
チラシを作るはずが、気がつくと、事務手続きをしている。
 
メールを打ち終わるのが、午後1時。自分の仕事を再開して、寝るのは、3時。
7時には電話で起こされるという生活が始まった。
 
事務手続きもさることながら、チラシの原稿作りも困難を極めた。
 
公職選挙法という法律をご存知だろうか。
 
これをクリアするチラシでないと、選挙違反になってしまうのだ。
公職選挙法という法律には、「あれはダメ」「これはダメ」と書いてあるわけではない。
 
法律の条文の意味から考えて、「これはNG、あれはグレー」というように判断していくのだ。
 
今回の場合は、政党の方がチェックしてくれるので、助かったが、
確認してくれる人によって、OKが変わるのが困った。
 
昨日OKと言われたものが、今日NGと言われる、ということが起こった。
 
安全な表現に変えれば、曖昧になる。踏み込んだ言葉づかいになれば、
法律に違反するリスクがでてくる。
クリエイティブな能力というよりも、調整する能力、そしてめげない心、が
大事になってきた。
 
入稿が終わったら、もう現場の運動はおまかせしよう。
 
そこから先の10日あまり、メッセンジャーのやりとりで
状況を横目に見ながら、他の仕事をしていた。
 
とはいえ、運動期間の最終日だけお手伝いに行った。
事務所では、お手伝いをしている人たちが、へとへとになっていた。
笑顔だったけれど、生気が薄くなっていた。
 
そんなわけで、私も、素人ながら、選挙カーに乗って、候補者の名前を叫ぶことになったのだ。
 
すべての選挙活動が終わったその夜、選挙を取り仕切った男性と話した。
候補の彼女が信頼する友人だ。
 
「使ってなかった今年の有休を、この選挙で使い果たしました」
彼は、仕事を2週間休んでいるという。
 
「もう、毎日思いもよらないことが起こって、ボロボロですよ」
 
いろんな話を聞いた。たとえば、3万枚以上シールを貼った話。
作ったチラシには、証紙と呼ばれるシールを貼らないと違反になるのだが、
それを貼る人手がそもそもいなかったという。
 
ポスターの掲示板は1500箇所以上。これをクルマで貼りにいくのに、また人手がいなかったという。
 
選挙カーを運転しようにも、土地勘のある人がいなかった。クルマ社会である地方都市では、駅前だけで運動すればいいというものでもない、毎日の活動プランを考える助っ人が登場するまで、どれだけ苦労したか、という話。
 
出してあるはずの書類が未提出だったり、書類提出の連絡が行き届いてなかったり、という不可解な事件が起こった話。
 
「やってみよう」 でよかったのかな。
 
ふと私は思った。遠くの土地で立候補して、十数人の人を巻き込んで、長時間つきあわせて、報酬も法律で定められた微々たるものしか出せない。中には途中で倒れた方もいると聞いた。
 
なんでも簡単に「迷ったら、やってみよう」 で済む話なのだろうか。世の中には、「いいやってみよう」 と「あかんやってみよう」 があるのではないか。
 
そう思った。
 
翌日の選挙結果は、惨敗だった。無理もない。現職はずっと地元のために頑張ってこられた方だったのだ。
 
そうだ、他所から急に登場したにわか候補者に投票するはずが、なかったのだ。
 
もしかしたら、自分がわからないことだらけで、困り果てた1週間のものごとは、事前に決めておくべきことだったのではないか。
 
キャッチフレーズ、プロフィール、考え方、見え方、すべては、あの場であたふたすることではなかったのだろう。
 
選挙期間だけ頑張っても、テスト期間だけ毎日一夜漬けをしている学生のようなもので、あまり説得力を感じなかったかもしれない。
 
ギリギリになって、自己分析をしながら、自己PRを書き、会社説明会の最中にエントリーシートを書くという、準備不足も甚だしい就活生のようなものだったかもしれない。
 
自分が関わっていた人だから、頑張ってくれそうに感じたけれど、
ほかの人から見たら「にわかで選挙にでた目立ちたがり屋」 としか映ってなかったのではないか。
 
彼女は演説が上手だった。ひとり親家庭の母親として、ビジネスマンとして、時には情緒的に、時には理性的に演説をしていた。聞く人も時々うなづいていた。が、しかし、人が説得力を感じてくれるのは、言葉だけでなくて、実績や行動、
自分にとって何をしてくれる人なのか。というようなことではないか。
 
この場合の「やってみよう」 は自分が何かを始めることだけではなかった。
誰かのための「やってみよう」 だったのだ。
 
それが、「公の仕事」 ということなのだろう。
 
同時に、自分もチラシを作りながら、そこに気づくべきだったし、指摘するべきだった。指摘したからといって、どうなるものでもなかったと思うけれど。
 
自分の場合は、DJイベントやライティングという分野での話になるけれど、
みんなに、笑顔で応援してもらえる「やってみよう」 を目指したい、と思った。
 
自分のための「やってみよう」 ならすぐやればいい。
 
でも、誰かが関わる「やってみよう」 ならば、きちんと考えたい。
 
巻き込み力、にも責任を持とう。
 
誰もが気軽に「やってみよう」 と言える時代だからこそ。
 
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