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メディアグランプリ

ラジオ体操サバイバル記


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:さわみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
その時私は、人生最大のピンチに立たされていた。
「神様、お願いします。ちゃんといい子になります。だからお願い、助けてください!」
6歳になったばかりの私は、震えながら必死に祈っていた。
 
夏休みの思い出の一つといえば、ラジオ体操。
小学生になったばかりの私は、家から歩いて3分のところにある、大きな公園で行われるラジオ体操が大好きだった。
 
毎朝、ラジオ体操を楽しみにしていた私は、ある朝5時に目が覚めてしまった。
まだ、家族も誰も起きていない静かな家の中。
カーテンを開けると、白く薄ぼんやりと明るい、初めて見る不思議な世界が広がっている。
そんな世界を見ていると、頭の中にステキなアイデアがひらめいた。
私は家にあったカレーパンの袋を手に持つと、そ~っと家を抜け出した。
「ラジオ体操に一番のりして、みんなを驚かせよう! そうだ、大好きなパンを食べながら公園に行こう」
 
道に出ると、早速カレーパンの袋を開けて頬張ってみる。
誰もいない静かな道を、大好きなパンを食べながら一人で公園に向かう。ワクワクしながら歩いていると、ふと背後に気配を感じた。
なんだろうと振り返ると、大きな野良犬が3頭、ヒタヒタとこちらに近づいてきている。
そのうちの一頭と目が合った瞬間「ウ~ッ」という、低いうなり声が聞こえた。
 
ヤバイ! 襲われる!
全身に鳥肌が立つ。
逃げなければ! でも、どうすればいい?
私は、手に持っていた食べかけのカレーパンを野良犬に向かって投げつけると、死にものぐるいで公園に向かって走り出した。
野良犬たちがカレーパンを食べている間に、逃げられるはずだと考えたのだ。
 
人間は、窮地に立たされると驚くべき能力を発揮するらしい。
今、まさに窮地に立たされた私は、一瞬の間に考えを駆け巡らせ、驚くほどの素早さで行動していた。
 
走りながら後ろを振り返ると、予想通り3頭がカレーパンを奪い合っている。
今のうちだ! 早く公園へ!
何とか公園へたどり着いた私は、次の逃げ場を探す。
早く! 早く犬から逃げられる場所を探さないと!
 
人っ子一人いない、静まりかえった朝5時過ぎの公園。
誰も頼れない。自分一人で何とかしなくては。
焦りながら、公園を見回す。
「多分、犬は滑り台にはのぼれない。すり鉢状の大きな滑り台にするか、階段のある小さな滑り台にするか。どっちの方が逃げ切れる?」
頭の中で必死に考える。
 
すり鉢状の滑り台は、すぐにのぼれる階段も無いし高さもある。でも、もしかすると犬は足が速いから、すり鉢を簡単にのぼってきてしまうかもしれない。それに、もしも私がのぼるのに失敗して追いつかれたらどうしよう……
階段のある滑り台は、小さいけれど、滑り台が細くてよく滑る。後ろも急な階段だから、犬はきっとのぼれない。
よし! 小さい滑り台に逃げよう!
 
武器も用意した方がいい。そう考えて、近くに落ちていた石ころや木の枝を拾っていると、遠くから犬の声が聞こえてきた。
ヤバイ! もう、追いかけてきた!
私はひっくり返りそうになりながら、階段をかけのぼった。
 
すぐに、小さな滑り台の周りを、3頭の野良犬が囲むようにグルグルと回り始める。
生きた心地がしない。
「ガウ~ッ」
そのうちの一頭が、滑り台をのぼろうとしてきた。
エイッ! 私は、震える手で石ころを投げつける。
石ころはすぐ手前に落ちて、滑り台をコロコロと転がっていった。
ダメだ、当らない……
泣きそうな私の目に、転がる石ころを目で追いかける犬の姿が映った。
私は、握りしめていた石ころを、滑り台の上から精一杯遠くへ放り投げてみる。
滑り台の周りをグルグル回っていた野良犬たちが、一斉に石の方に向かって走り出す。
よし、やった! 今のうちに、別の場所に逃げよう!
 
が、そんなにうまくはいかなかった。
石ころが食べ物じゃないとわかった犬たちは、すぐに戻ってきて再び滑り台の周りをグルグルと回り出す。
しかも、うなり声は段々大きく激しくなってきている。
ついに一頭が、階段の方からのぼろうとしてきた!
私は、拾った木の枝で必死に追い払う。
「ウ~ッ、ガウッ」
怒った犬が、大きな声で吠えた。
もう、ダメだ! 助けて、神様! 
 
「コラーッ! 何やってんだ! シッシッ! どっか行け!」
突然、おじさんの大声が聞こえてきた。
そして、声と一緒に飛び出して来た犬が、野良犬たちに向かって吠えまくっている。
「お嬢ちゃん、大丈夫か?」
おじさんの声の方を見ると、野良犬たちが遠ざかって行くのが見えた。
あ~、助かった……。野良犬たちが逃げていく……
 
滑り台の上に立ち尽くす私に、おじさんが尋ねる。
「こんな朝早くに、一人で何をしてるんや?」
「ラジオ体操に来て……」
「まだ6時前やで。お嬢ちゃん、1時間間違ってるで」
そう教えてくれるおじさんの声を聞きながら、私は目の前のジャングルジムに釘付けになっていた。
 
「なんで、あんな小さい滑り台にいたんや? ああいう時は、大きい滑り台に逃げなあかんで」
さらに続く、おじさんの言葉。でも、私の頭の中は、もう別の考えでいっぱいになっていた。
「次に逃げる時は、ジャングルジムや。そうや、武器も用意しておかないと!」
 
「ありがとうございました」
お礼を言うと、私は駆けだした。
朝日が昇り、輪郭のはっきりした道を、家を目指して一目散に駆け抜ける。
早く! この、私の大活躍を、早く誰かに聞いて欲しい!
いつの間にか、セミたちがうるさく鳴き始めている。
マンションの階段を猛ダッシュで駆けのぼった私は、勢いよく玄関の扉を開けた。
「ただいま! あのな~! 私、すごかったんやで!」

 
 
***

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2018-09-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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