お金を払ってでも働きたい場所・天狼院書店について《川代ノート》
2014年2月22日、土曜日。 その日が私の運命を変えた。
“天狼院書店様、はじめまして。早稲田大学の川代紗生と申します。 ネットサーフィンをしていましたら偶然こちらのホームページにたどり着き、なんて面白そうなんだろうと、わくわくしました。 是非イベントに行ってみたいです。お店に行ったことも知り合いがいるわけでもないのですが、22日の編集会議に参加させていただけるのでしょうか?お返事お待ちしております。よろしくお願いします。”
“川代さま 天狼院書店店主の三浦でございます!ぜひ、お越しくださいませ!面白いことになると思います! お会いできるのを、楽しみにしております! 三浦”
はじめは、些細な出会いからだった。
雑誌編集部の、本当に初めの頃の編集会議に参加したときだ。 私は就活生で、編集者になりたくて、出版業界を目指していた。OB訪問をさせてくれる人がいやしないかと、Facebookでいろいろ調べ物をしていたら、天狼院のイベントに行き当たった。 雑誌編集部の告知文が、とてつもなく強い力で私を引きつけた。
どうせ天狼院がやるからには、やはり、面白くなければ面白くない。 ということで、この雑誌『READING LIFE』の創刊にあたり、編集部向けに指針を決めることに致しました。 考えた指針がこれでございます。
営業ゼロ 広告ゼロ 面白さ無限大
はたして、そんな夢のような雑誌、本当に創れるのか? 正直、それはやってみないとわかりません。 けれども、僕には自信があります。 いや、自信というよりか、それ以上に焦りがあるのです。 早く、手を挙げないと誰かにやられてしまう、という焦りです。 思えばそれは、こたつを置くということを思いついた時にも、福岡に出店すると決めた時にも、そして、天狼院書店を創ると決めた時にも、同様に生じた感覚でございます。「ポジティブな焦燥感」とでも申しましょうか。 合理性というよりか、直感的な、野生本能的な理由から、雑誌『READING LIFE』は、「いける」と思っております。超絶面白いことになって、徐々に、そして結果的に圧倒的に多くのお客様に受け入れられると考えております。 雑誌『READING LIFE』が、まずは天狼院書店の店頭に並ぶときの光景を思い浮かべると、もはや、ニヤニヤが止まらないのでございます。
(くわしくはこちら)
ビビッときた、というのが一番。
そのあと、ワクワク、胸の高鳴りが二番。
そして、焦燥感が、三番。
あ、わたし、ここに行かないと駄目だ。行かなくちゃいけない。置いて行かれたくない。
「どうしても行かなきゃ」と思わせる吸引力が、天狼院のその記事にはあった。 いてもたってもいられなくなった私は、即座にFacebookのイベント申請をした。でも、もし常連ばかりの内輪の雰囲気だったらどうしよう、アウェイは嫌だ、と思って、事前に三浦さんにメッセージを送ったのだった。
天狼院に辿り着くまでには、かなり時間がかかった。 5分24秒たっても、全然つかない。もしかして、とおりすぎちゃった?と不安になってくる。 東通りがもう終わりかけたとき、「とみー」の文字が。 ようやくあった、よかったー。と、ドキドキしながら蕎麦屋さんの二階の階段を登る。 「天狼院書店」の文字が書かれた、ガラスのドアの向こうには、人がごった返している。 ふう、と一息ついて、人見知りを落ち着かせるために、ニッコリ笑顔をつくる。
「こんばんは!雑誌編集部ですか?」 店に入ると、坊主で髭の男性が、声をかけてくれた。店は暖かくて居心地がいい。コートとマフラーをとり、スーツのジャケットのボタンをはずす。雑誌編集部には、もうほとんどの人が揃って、席についていた。受付をすませたあと、コーヒーを飲んで参加者の顔を見渡す。 みんなそれぞれ話をしている。常連風の人もちらほら見かける。
長身で細身のすらっとした、カジュアルな服装の男性が、話をはじめる。こんばんは、今日は雑誌編集部ということで、企画を出してもらいたいと思います。この人が店主の三浦さんだろうか?
じゃあ、自己紹介と、こんなことやってみたい、という記事の企画をそれぞれお一人ずつに話していってもらいましょうか。雑誌編集部がスタートする。「店主の三浦です」、さっきの坊主の男性が話し始める。あ、こっちが三浦さんか。長身の人の方は、講師のくまお先生というらしい。その店主は目を輝かせて、雑誌「READING LIFE」の説明をはじめる。
「超絶面白い雑誌ができますんで。皆さんには実際に記事を書いてもらおうと思っています。今日は編集会議です。面白ければなんでもOKなので、今日は書きたいことについて話してください!」
自己紹介をしつつ、それぞれがやってみたいこと、書いてみたい記事について、企画を出し合う。「オリンピックの聖火を盗む」とか、「フリーメイソン徹底解明」とか、「スピリチュアルスポットVS徹底理論」とか、ひとりでは思いつかないことも、みんなで話すとじゃんじゃんアイデアが出る。本当に楽しかった。
私が求めていたものは、これだったんだ!と、瞬時に思った。刺激を受けすぎて、脳や体の、神経という神経が、そこらじゅうビリビリしているような感じがした。 とても私には思い浮かばないような、面白い話や企画が、次々と出てくるお客さんたち。そしてその面白いネタを、さらに面白く膨らませる、この三浦さんという店長と、講師のくまお先生。
世界にはこんなに面白い人が集まった場所があったんだ、と思った。自分の居場所を見つけたような気がした。
それからは結構な頻度で、天狼院に入り浸るようになった。三浦さんともよく話すようになった。 三浦さんの話は本当に面白かった。話しているその場で、とんでもない理論ができあがって、あ、すごいこと思いついた!と、カブトムシを見つけた時の子供みたいな、キラキラした瞳で言う。その話を聞いているだけで、自分の頭もフル回転して、頭がよくなったような気がした。もっとこの人の話を聞きたいと思った。
出版業界に入りたかった私は、三浦さんにアドバイスをしてもらった。OB訪問のつてを紹介してくれたこともあった。出版業界の厳しさ、難しさ、けれどとても面白いことも教えてくれた。働いてみたら、絶対に将来の力になると思う、と言われて、まずはインターンから始めることになった。
ちょうどその頃、春から就職する草間さんと伊丹さんが辞めるということだったので、草間さんが担当していた手帳ラボのマネージャーを、そのまま引き継ぐことになった。 手帳ラボも本当に面白かった。だらしなくて時間にルーズな私にとっては、時間管理術なんて未知の領域だったけれど、手帳ラボに集うお客さんたちは、自分流に手帳をコラージュしたり、仕事用にアレンジしたり、毎朝絶対に4時に起きて朝活をする人なんかもいて、私の叶えたいライフスタイルの一歩先にいる人がたくさんいた。お客さんたちの時間管理術とか、生活習慣を少しずつ真似すると、就活もうまく回るようになったり変化が起きてきて、天狼院にいるだけで、ぐんぐんと成長して行くのがわかった。
でもマネージャー業務も思っていたよりもずっと難しくて、前任の草間さんが素晴らしかっただけに、同じように仕事ができない自分にイライラした。 早く天狼院に集中したかった。もっとたくさん来て、手帳ラボももっと面白くして、他にも面白いイベントとかやりたいのに。 焦っていた。
私は就活で完全に行き詰まっていた。4月後半になり、周りのほとんどのみんなが一つは内定をもらっていて、就活を終えている子も半分以上だったのに、私はいまだに内定をもらっていなかった。みんなは楽しそうに遊び始めているのに、私ときたら一番行きたかった会社に落ちて、そのあとも立て続けに落ちて、もう逃げ出したいと思っていた。自分は社会から必要とされてない、とどんどん自分を追い詰めて、本気で死にたいと思うくらい辛かった。こんな状況から抜け出して、はやく天狼院でちゃんとしたスタッフとして働きたいと思った。
どんどん持ち駒が少なくなっていくなか、ゆっくりだけれど、地道に選考が進んでいく会社があった。その会社に、はじめはそれほど関心がなかったものの、選考が進んで、人事の人と話したり、会社のことを知っていくうちに、強く惹かれていくようになった。いちばん自分が働いている姿が明確に想像できる会社だった。今までに落ちたどの会社よりも。
けれど最終面接の直前になって、また落ちて同じ思いをするんじゃないか、という恐怖心に襲われた。ここまで来て、こんなに一生懸命会社のことも調べつくして、大好きになって、こんなに入りたいのに、それでも、また落ちたら。持ち駒はもうほとんど無かった。どうしようどうしよう、思い詰めて、自信がなくなるばかりだった。
そんな面接当日の朝、三浦さんから、メールが届いた。
さき、おはよう。面接今日かな。さきらしくあって、社長を魅了してきな笑。大丈夫、彼もひとりの人間だ。大した話じゃない。いつも通り、魅了して帰ってくればいい。
彼の言葉があったからこそ、自信を持ってその面接に挑め、無事に内定をもらうことが出来たというのは、言うまでもない。
三浦さんが、スタッフに求めるものは、かなり大きい。
部活やラボのマネージャーになれば、そのイベント運営、集客、司会からなにから、ほとんどのことを任されてしまう。お客さんを集められなければ、自分の責任だ。
困った時も、簡単に助けてはくれない。自発的に、自分で工夫して、ありとあらゆる知恵を絞りだして、お客さんに喜んでもらう方法を考える。
でも、スタッフのことは、すみからすみまで、本当によく見てくれている。肝心な時には、こうして背中をちゃんと押してくれる。やりたいことがあれば、自分でなんでもやらせてくれる。
こんな面白い空間で、ほぼ毎日やっているイベントに参加出来て、凄腕の編集者、ベストセラー作家、芸術家まで、ありとあらゆる、一般的に「すごい」と言われる人たちがしょっちゅう遊びに来て、トークイベントをやっている、そんな空間で働けることを、本当に誇りに思う。
天狼院にいると、みるみる自分が変わっていくのがわかる。ものの見かた、本の読み方、仕事のやり方。でも、それだけじゃない。
私は、天狼院にきてから、昔よりずっと、正直になった。それは、三浦さんが、スタッフみんなの本当の姿を見ようとしてくれるからだ。嘘をついたり、自分をよく見せようと、見栄を張ろうものなら、三浦さんにはすぐわかってしまう。見透かされているのだ、すべて。
だから、はっきり言ってしまえば、私は三浦さんが怖い。彼の前では、嫌いな自分も全部、受け入れなければならないからだ。でも、天狼院で働く自分が私は好きだ、と強く思う。どんどんいい影響を受けて、正直になって、素直になって、誠実になっていく。コンプレックスだらけだった自分のことが、少しずつだけれど、好きになっていく。
天狼院はたしかに厳しい。辛いこともたくさんある仕事だ。でもそんなこと一切忘れてしまうくらい、面白いことや楽しいことがたくさんある。ここで本気で働けば、必ず成長できる。自信を持って、社会に出て行けると思う。
天狼院書店で、インターンとして働くという、覚悟があるなら。自分を試してみたいという、気概があるなら。
ぜひ、一度、三浦さんに会ってみてほしい。話してみてほしい。それだけで構わない。
きっと、何かが変わる音が、聞こえるはずだ。
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