わたしが綺麗すぎるより少し汚れたものを愛するようになった理由
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記事:大北 舞(ライティング・ゼミ)
「タイムスリップした……?」
大学に入学する1か月前、初めてその土地を訪れたとき、わたしはこう思った。どう表現したらいいのか、街が全体的に古びていて、色あせている。
「しまった、人生の選択を1つ間違えた。わたしの輝く大学生活はどこへ……」
正直そう思った。輝くにはそれにふさわしい舞台が必要なのに。両親にまんまとはめられた気がした。
わたしは中学時代から、「大学生になったら家を出よう」という計画を密かに立てていた。何かと口出ししてくる両親のもとを離れて、もっと広い世界を見たい、というのが大きな理由だった。高校時代、半数以上の同級生が、そこに疑問などないといった様子で県内に残るなか、絶対に外に出たいという人は少数派だったと思う。福岡出身のわたしは、漠然と「関西か関東の大学に行きたいなあ、やっぱり都会がいいよね」と思っていた。
しかし、その計画は難航した。両親が、わたしが家を出ることに断固反対したからだ。何度も言い合いをして、結局お互いの妥協点をとった結論が、「九州内なら」ということだった。すべて思い通りとはいかなかったけど、それでも期待を込めてやってきたのがその街だった。それなのに着いた瞬間にさっそく理想の一部が崩れてしまった。
こうして始まった《別府》での生活。わたしの通っていた大学は、学生の半数が留学生というちょっと変わった大学で、だからこそ、全国各地から来る日本の学生も個性的で目的意識をしっかりもった人が多かった。国際的な環境に憧れただけの能天気なわたしは、留学生や個性のかたまりのような一部の日本人学生に圧倒され、暗澹たる思いで大学生活をスタートさせた。
「せめて住んでいる街が、東京みたいに、あるいは大阪みたいに、刺激に溢れていたら、こんな気持ちにならなくて済んだはず」、心のどこかでそう思った。自分ではなく、環境のせいだと思いたかった。こんなわたしだったから、周りの友達たちが無邪気に温泉や美味しいご飯を楽しんでいても、別府を好きになんてなれなかった。というか、なりたくなかったという方が正確かもしれない。だから、大学1年生の間は、連休で時間ができるとよく実家に帰っていた。家族や友達に「別府はどう?」と聞かれても、「別に……。古い観光地っていう感じかな」とだけ答えていた。
それでも1年が経つうちに、個性的な仲間と過ごす大学生活や一人暮らしに慣れ、友達もできた。人生初のアルバイトを始めて、行動範囲も広がった。こうして、徐々に最初のふてくされた気持ちが消え、わたしはこの街での暮らしを楽しめるようになっていた。少し余裕のできたその頃から、福岡に一人で住む祖母がちょくちょく遊びに来てくれるようになった。もしかしたら、家にあまり連絡をしなくなったわたしを心配して両親に代わって様子を見にきていたのかもしれないが……
わたしは、せっかく日本に来てくれた留学生や祖母を喜ばせたくて、一緒にいろいろな別府の観光名所を訪れた。地獄巡りをしたり、別府八湯という市内八か所の代表的な温泉地で温泉や食事を楽しんだり。温泉以外にも、別府湾を散歩したり、別府公園で花見をしたり、地元で評判の居酒屋さんで一緒にお酒を飲んだりもした。観光地に向かうバスを待つ間、地元のおじいちゃんおばあちゃんに話しかけられて、たわいのない会話をしたこともあった。
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大学を卒業するまでには楽しいことも苦しいこともあったが、わたしはこの街で大学生活を送れてよかったと思っている。4年間暮らしたわたしが思う《別府》の魅力は、言ってみれば「綺麗すぎない」という一点に尽きる。全国の有名な観光地の中には、あまりにガイドブック通りに美しくて、印象に残りにくい場所があると思う。しかし、《別府》は幸か不幸かそれには当てはまらない。たしかに、ガイドブックの写真は別府の街を素敵に切り取っているが、それだけではない。
駅前のメインストリートから一本路地に入ると感じる、昔ながらの温泉街らしい怪しげで猥雑な雰囲気。世界各国からの留学生がここで学び、働き、生活することによって生まれる多国籍な空気。「アルゲリッチ音楽祭」の開催や「別府プロジェクト」というアートNPOの存在が象徴する《革新》のエネルギーと、変化を嫌う《保守》のエネルギー。――この街が見せてくれるのは、生身の人間と同じ、綺麗なだけではない汚れた部分や矛盾を抱えた姿である。
こうしてわたしはいつの間にか、《別府》という街に愛着をもつようになっていた。わたしが別府の魅力を認められるようになったのは、へそ曲がりなわたしと仲良くしてくれた素直な友人たちと、いつもわたしを見守ってくれた優しい祖母のおかげだ。今は福岡で働くわたしだが、親しくなった人を連れて行きたい場所として真っ先に思い浮かぶのは別府だ。
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そういえば、今度の【7/22(土)天狼院旅部】の行き先は別府らしい。見るだけで癒される写真と爽やかな告知文に惹かれてやってきた人は、この街の多面性に驚くことだろう。しかも、カメラと紙とペンを持っていくというのだから、別府のディープな魅力を発見してしまって、一度と言わず二度三度と来たくなるかもしれない。別府好きのわたしとしては、仲間が増えて嬉しい限りである。
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