壊れたファスナーに学ぶ、本質の捉え方。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:坂元沙也可(ライティング・ゼミ日曜コース)
ぺらんと薄い、ナイロン生地の黒いリュックを愛用していたが、ファスナーが壊れてしまった。
理由はわかっていた。
カバンそのものの軽さを重視しして選んだので、とても軽量な分、ノートPCなど重めのものを入れると、形が崩れてだるんとなる。それでも構わず、ノートPCや冊子などを入れて毎日使っていたので、開け閉めの際に変に圧力がかかってか、ブチンという音とともに、ファスナーのつまみ部分がとれてしまったのだ。
げげ。
慌てて、とれたファスナーのつまみを、もとの位置に力ずくで戻す。
うりゃ! よし、戻った。
けれど、どうもそれから、動きが怪しい。
以前のようにするりと動くときと、ピクリとも動かないときとが出てきてしまったのだ。まわりの生地や、中身のなにかを“噛んで”しまって動かなくなることは、ファスナーではよくあることだが、どやらそれではない。
幸い、ファスナーのつまみがふたつあるリュックだったので、動きの悪い方を端っこに寄せて、なるべく使わないようにしたが、ついつい忘れて動かしてしまう。
駅の改札の前で、定期券を出そうとしたとき。
レジでお金を払おうと、財布を出そうとしたとき。
トイレで手を洗って、ハンカチを出そうとしたとき。
普段自然にできていた何気ない動作なだけに、いちいち気にしなければならないという、煩わしさったらないのだ。
我慢して付き合うべきか。
それとも、諦めて買い換えるべきか。
このリュックに出会うまでに、色々なリュックを比較検討していたときのことを思い出す。
そうだった。これぞ理想的、イメージ通り! と選び抜き、そこそこの値段をかけたリュックだった。処分は留まったが、いちいち引っかかる煩わしさからは逃れたい。
どうしてくれようか。
こんな小さなファスナーひとつなのに……
電車の中で、壊れたファスナーをじっと見つめていた。
動きの悪い方のファスナーを触りながら、色んな角度で見てみる。
すると、真横から見たときに、キラリとなにかが光った。目を凝らさねばわからないほどの突起があることに気がついた。
なんじゃこら。
つまみの根もとにあたる部分に、小さな小さな突起があって、ファスナーを動かすときに、つまみで押されて引っ込むようだ。そしてどうやら、その突起がちゃんと引っ込んでいるときは、ファスナーがスムースに動くらしいことがわかった。
つまみが外れ、無理やり戻したときにつまみが変形してしまい、その突起にきちんとあたらなくなっていたのが、動きが悪くなった原因だったようだ。
ファスナーの動く・動かない、つまりは、カバンとして機能する・しないは、この隠れた小さな突起が握っていたのだ。
そして、それに気づいた瞬間、以前に読んだ本を思い出す。
その本は「本質の捉え方」について、書かれていたものだった。
ひとつの面だけではなく、多面的に見る。
正しく現状(構造)を理解しないと、本質的な解決にはならない。そんなことが書かれていたように、記憶している。
壊れたファスナーを、無理やり見た目だけもとに戻しただけでは、解決はしない。構造を正しく理解し、本当の問題点を見つけることができたのだ。まさか、壊れたファスナーにまで「本質の捉え方」が当てはまるとは……。
思い返せば、これまでに同じようなことを、異なる状況で幾度も感じていたし、今まさに、仕事でも同じような事柄に直面していると言えなくもないのだ。
きっとあのまま、壊れた本当の原因がわからないままだったなら、無理やり使い続けて、手の施しようがないほどに壊していたかもしれない。いや、実際に壊してしまったものも、ある。
本で読んで理解していても、実際にその状況になってみないと結局気がつけなかったりするので、壊れたファスナーで得た経験を、次こそ活かそう。そう思ったのだった。
ちなみに、ファスナーが壊れたリュックは、今は使っていない。
なぜなら、つまみ自体が欠けていて、自分では修復ができない状況だったからだ。毎日の利用だと、都度起こる引っ掛かりストレスと戦わねばならないので、たまに使用する「休日用リュック」へと、ポジションチェンジをしたのだ。
原因がわかったところで、すでに手遅れな場合もある。
これもまた、壊れたファスナーから得た教訓かも知れない……なんて、酷使しすぎた自分のせいです、はい。
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