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ダイヤル式公衆電話はからくり箱になった


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記事:ライティング・ゼミ平日コース 平本 智佳
 
 
「そこの電話がこわれていてかけられません」
 
といって中学生が窓口に来るようになったのは、いつ頃からだっただろうか。10年くらい前からだろうか。
“そこの電話”というのは、10円玉でかけられるピンク色の公衆電話である。
最近ではすっかり見かけなくなったが、私の職場ではいまでも現役で使用されている。この電話が中学生にとっては箱根細工のからくり箱のようになっている。
 
箱根細工のからくり箱というのは、一度は目にしたことがあるのではないだろうか。モザイクのような寄せ木細工で作られた箱型の民芸品で、手に取ってみると箱のどこにもつまみも引き出すための切込みもない。しかし、表面のスライドする部分を、決められた順序通りにずらしたりまた元に戻したりしていくと、内側の引き出しや物入れを開くことができる細工になっている。順序通りというところがミソで、やみくもに押したり引いたりしても開けることができないのである。そのため宝石などの貴重品や現金などをしまっておく用途にもおすすめされている。(盗難されにくいとはいえ、箱ごと持ち出しされてしまえばそれまでではあるのだが)
 
これまで何人もの中学生から、公衆電話が「かけられない」「こわれている」という訴えを受けている。
念のためと電話をチェックしてみるが異常はない。中学生はなぜ電話をかけられないのだろうか。
ケース1
中学生(以下、中)「電話から音がしないんですけど」
私「お金入れた?」
中「え、先にお金とるの?相手が出なかったらもったいないじゃん」
私「お話中なら戻ってくるので、先にお金入れてください」
 
ケース2
中「何回お金入れても戻ってくるんだけど」
私「じゃあ、10円玉が満杯かな。もう一度試しに入れてみて」
中「ほら、出てくるし」
私「まず受話器を上げて、それからお金入れないと戻ってきちゃうからね」
 
ケース3
中「いわれたとおり、受話器上げてお金入れたけど、かかりません」
もう、ここまで来ると監視下で再現してもらうしかない。
私「はいじゃあ、もう一度やってみて」
中「34××の」
なんと中学生はダイヤルの金具の中の数字を指で押しているではないか。この間違い方が一番衝撃的であった。
私「ちょっと待った。これダイヤル式電話だから。数字を押すだけではかかりません」
中「え、じゃあ、どうやって番号入れるんですか?」
私「指をかけて右へ回します」
中「ええー。こんなのやったことない。これ、回るんだあ」
 
ケース4
まだ、電話一本がかけ終わらない。
中「ちゃんと回してもかからない」
私「はい再現してみて」
中「ほらね」
なんで途中で指を抜くんだ!
ダイヤルに指をかけた中学生は、まるで汚いモノに嫌々触っています風で、少し回すと指を抜いてしまう。
当然ダイヤルは数字を認識しないうちにすぐに戻ってしまう。
私「ちゃんと右端の止まるところまで、回してから手を離す」
中「この電話、超むずいんですけど」
 
かつて“電話のかけ方”といえば、電話をかけてからの応対の話であった。
「もしもし、○○様のおたくですか。私、××と申しますが、△△さんはいらっしゃいますか」
「いま、お話ししてよろしいでしょうか」
「失礼ですが、お名前頂戴してもよろしいでしょうか」
「○○はただいま席を外しておりますので、後ほどこちらからおかけ直しいたしましょうか?」
といった電話でのやりとりを指南するものであった。
しかし、現在求められる「電話のかけ方」はそこからではない。
 
そういえば自分自身、公衆電話を前にいつ使ったのかわからない。10年ほどは使っていないかもしれない。
私は、ピンクの公衆電話の前に電話のかけ方マニュアルを作成して掲示することにした。
これを読んでくださっている皆さんの記憶の中の電話のかけ方とあっているだろうか?
 
〈ピンク公衆電話の使い方〉
1. 受話器を持ち上げてから、10円玉を投入口に入れる。
2. ツーという音がしていることを確認したら、電話番号順にダイヤルを右に回していく。
3. ダイヤルは右端の金具で止まるところまで指を離さないで回すこと。
4. 都内に電話をかける場合は市外局番の03はつけなくてよい。
 
自分が体得していて、無意識のうちにこなしている動作をいちいち文章化してみると、なんともまどろっこしく感じる。しかし、手順通りに操作しなければ、電話はかからないのである。
からくり箱を開くための順番と板の動かし方を忘れてしまうと、ただの四角い物体になってしまう。ただの箱を通信機器に変えるのは、知識と経験だ。
 
だから中学生たちよ、ダイヤル式公衆電話の存在とその使用方法を知っておくことは、現代のような災害の多い世においてはサバイバルへの第一歩だぞ。停電で携帯が使えなくなった時でも、電話線でつながっている公衆電話ならかけられることもあるだろう。
 
そしてお願い。お返しに私にもスマホの新しいアプリの使い方を
「ちげーよ。まず認証画面確認してからだよ」
「そこじゃなくて、アプリストアからインストールして。基本でしょ」
とか面倒くさがらないで、優しくわかるように説明してね。
 
 
 
 
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2019-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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