【僕が、落語家が実は魔法使いだと思う理由《陸奥亭日記》】
記事:野田賀一(ライティングラボ)
「えー、毎度バカバカしいお笑いを一席。お付き合いを願いたいと思います。」
これは、落語家が高座に上がって一番初めに話すお決まりのフレーズだ。
落語家がなぜ、この言葉を使うのか?
ある時、ふと不思議に思った。別の言葉でも良いのではないか?
きっとこの言葉に何か意味があるはずだ。
そして、たどり着いた結論は、落語家はきっと魔法使いだということだ。
この言葉を聞いた瞬間に、もうあなたは魔法にかかっている。
そう、「人間ならば必ず笑わずにはいられない」という魔法に、だ。
そして、この魔法はもう一つ不思議な力を持っている。
それは、江戸時代から代々続き、いつの時代にも存在するということ。
万人に通じる「笑い」はもはや「力」だ。
言い換えれば、つまりバカバカしいお笑いは皆んなに愛されているのだ。
なぜこんなにも愛され続けているのか?
そして、僕にはもう一つ疑問がわいた。
天狼院天朗院落語部で、僕や部員のまったくの素人が笑いを取る姿を見て。
「この魔法は誰でも使えるのではないか」と。
なぜ、誰でも使えるのか?
魔法は魔法使いだけが使える特権のはずだ。
では、なぜか?
この答えを言う前に、私自身が魔法にかかったキッカケ「天狼院天朗院落語部」のことを少しご紹介したい。
毎月、天狼院書店では落語部を開催している。
プロの落語家が演目を行った後に、部員がそれぞれ好きな演目にチャレンジするという2部構成だ。
プロの落語家が先生で、指南をしてくれる。弟子入りせずにこのようなチャンスは滅多にない。
何より、素人でも高座にあがることが出来る。
それは至極簡単な話で、
「はい! やりたいです」
と言えば3フレーズくらいの小噺を教えてくれて即、実践。
いかにも天狼院天朗院らしいといえば、らしい。
僕は天狼院は常々ズルいと思っている。
なぜなら、この1mの至近距離に高座があったら上がりたくなる。こんな場所は他にはない。
伝統芸能の位置づけにあり、人間国宝が2人も出ている落語界において、
こんな気軽に素人が高座にあがっていることを知ったら、きっと面喰らう人は沢山いるだろう。
時には、中々高座にあがるのを躊躇している人がいる。
それでも店内に漂う、「やってみるでしょ?」的なあの空気。
本人はきっと「背中を押しやがって。」とか思っていると思うが、
それと同時についつい、「あー、なんかやれそう」って思ってしまうから不思議だ。
天狼院にも独自の魔法があるのかもしれない。
大体、そのお陰でこんな僕でも笑いが取れた。それも一席で何度もだ。
大体、日頃口がごもってぼそぼそ話して、間が悪く、
気の利いたフレーズは一切持ち合わせていない、僕でもだ。
その理由は、簡単だった。
それは立川談志のある演目のまくらでの1フレーズにあった。
「古典落語は古典落語だからこそ、現代に残り続けている。それは落語が人間の業の肯定だからだ」
初めは正直訳が分からなかった。
落語家お得意のなぞかけかと思った。
でも、違った。
それは、50本くらい他の演目も聞き比べてみてのことだ。
改めてこの言葉に尽きると感じた。
この言葉の意味は実はとってもシンプルで、
「人間の業=性質・本質」 にある。
つまり、人間の性(さが)・根本みたいなもので、無くならないもの。
生まれた時から常にみんなが持ち合わせているものだ。
具体的に言うと、酔っ払って失敗することや、恋人にやきもちを焼くこと。
人の真似をして失敗したことや、時には勘当した息子を思う親の愛情など、
日常、巷にあふれているもの。
だからこそ話に共感出来るんだと思う。
笑いあり、涙あり、人間くさいことが落語の魅力だ。
だからこそ、こんなにも長く愛される。
だからこそ、ついつい笑ってしまう。
落語は同じ演目を何回見ても笑える、泣ける。
というか、見慣れてくると、ここで笑うと分かっていても笑ってしまう。
泣くとわかっていても泣いてしまう。
終いにはそこで笑うことが気持ちよくなってしまう。
そこで、涙することで人間っていいなとつくづく感じてしまう。
なんと恐ろしい魔法か。
これをランナーズ・ハイならぬ、落語ーズ・ハイと命名してみた。
この言葉が流行るとは到底思えないが、それでも必ず落語ーズ・ハイはそこに存在する。
一旦、落語ーズ・ハイになってしまうとこのイリュージョンの世界から抜け出すことは難しいかもしれない。
それくらい落語は聴けば聴くほど、見れば見るほど、魅力があふれている。
生前、立川談志が良く言っていた
「寄席はイリュージョンだ!」
ちょこんと座布団に座って、宣言した通りのバカバカしいお笑いを一席やってお金をいただく。しかも使うのは扇子と手拭いのみ。
これをイリュージョンと言わずしてなんと表現すべきだろうか。
さぁ、この魔法であなたが見るのは、威張っているがどこか憎めないお殿様か、喧嘩っ早い熊さんか、
底抜けにおバカな与太郎か、おっちょこちょいな八っつぁんか。。
今宵、天狼院で一席。
今夜も誰かが、魔法にかかる。
***
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また記事中にありました落後部も4月23日に開催予定です。是非ご参加ください。
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