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僕が「劇団俳優」を心底愛する理由


記事:楠田誠一(ライティング・ラボ)

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ハッピーバースデー!!

 

今日は恋人の誕生日。

1年に一度の記念すべき日に、誰もが最高のお祝いをしてあげたいと思う。

 

そんな大事な日なのに、あなたは肝心なことを忘れてしまっていた。

 

そう、誕生日ケーキを買い忘れてしまったのだ。

こともあろうか、更に言えば、誕生日プレゼントすら買っていない。

 

今日は土曜日、デートの約束をしている。

あと、15分で待ち合わせの時間だ。

なんでもない土曜日ではなかったのだ。

特別な土曜日だったのだ。

 

とある喫茶店で、いままさに恋人が来るのを待っている。

 

なのに、ケーキもなければ、プレゼントもない。

あれもない、これもない。

誕生日カードだって書いていない。

ないものづくし。

 

絶体絶命。

 

今日が恋人の誕生日なのを、たった今さっき思い出したのだ。

 

ピンチ。どうする?どうする?

 

素直に謝るしかないか。

 

 

 

想像力。

 

「想像力、豊かだねぇ」

「想像力ないね!」

 

僕らがよく耳にする言葉だ。

 

「あなたはホント、想像力が足りないのね」

そう言われて喜ぶ人はいないと思う。

そんなことを言われようものなら、誰だって不愉快になる。

 

けれども、そう言われてみて初めて、果たして自分には想像力が本当に足りているのだろうかと自問するのだ。

 

テレビやビデオ、インターネットの動画などの発達のおかげで、

何かを想像しないまでも、容易に実際の映像を見ることができる。

 

映画館では、大画面の迫力と3D、耳元に迫ってくる大音量が、あたかも

そこにいるような臨場感を作りだしてくれる。

 

ひとつの想像力を持たずとも、ただ座っているだけで、楽しさは満たされる。

 

時はさかのぼって江戸時代。

 

江戸時代の人々は、われわれよりも遥かに想像力が豊かだったのではないだろうか。

 

江戸時代のエンターテイメントといったら、落語だ。

着物を着た変な爺さん、またはおっさんが出てきて、右を向いたり左を

向いたり。

 

右を向けば、博識のご隠居さんになり、左を向いたら、馬鹿で間抜けな

小僧の与太郎になる。

 

落語の小道具は、たった二つしかない。

扇子と手ぬぐい。

 

実にシンプルだ。

 

落語家が、身振り手振りを加えて、パーパーペーペーとしゃべるだけ。

 

落語を聞く人は、そんな究極の一人芝居を聞きながら、想像力を膨らませて

楽しんできたのだ。

 

天狼院には、落語部も劇団天狼院もある。

 

僕は一度だけ、劇団天狼院のワークショップに参加したことがある。

しかし、あまりにも自分の想像力の足りなさにショックを受け、そのときの一度きりで挫折してしまった。

 

 

 

先日、僕はある芝居を観に下北沢に行った。

 

毎週土曜日の朝9時から1時間ばかりやっている朝劇だ。

 

下北沢のカフェの開店時間は、たいてい11時か12時だ。

場所がらなのか、モーニングサービスから開けているカフェが少ない。

このカフェでは開店前の時間帯に、劇団が店を貸し切り、

朝劇を開いている。

朝の早い時間帯だというのに、40席ばかりのカフェは満席になる。

人気なのだ。

 

この日のストーリーは、誕生日にまつわる物語だった。

登場人物は、4人。

カフェの店主と常連さん。

近所に住む、まだ芽のでない苦労人の劇団員。

歌手を目指し、田舎から上京してきた劇団員の妹。

 

妹の誕生日に最高の演出をしようと頑張る兄の物語である。

 

芝居が終わると観客は帰るわけだが、最近の劇団はサービス精神旺盛。

出口で送り出し、ハイタッチをして観客を見送ってくれる。

 

僕は帰り際に、店主役の男優さんに言った。

「誕生日の芝居だったけれど、実は昨日、自分の誕生日だったんですよ」

 

「えーーっ、そうだったんですか? 始まる前に言ってもらえれば、何かお出ししたのに」

 

「いえいえ、今日ではなく、昨日でしたから」

 

「何もなくてすみません。じゃあ、ハッピバースデーを歌いましょう!」

 

男優さんひとりはギターを弾くようなしぐさで、

もうひとりはピアノを弾くしぐさで、バースデーソングが始まった。

 

エアーギターに、エアーピアノだ。

 

カラオケDAMのBGMがなかったとしても、歌は始まるものなのだ。

 

カフェにいる全員が、僕のためにハッピーバースデーを歌ってくれた。

 

歌い終わると、カフェにいるみんなが大きな拍手をしてくれた。

 

僕は、とても嬉しかった。

 

そこで、終わるはずだった。

 

しかし、まだ続きがあった。

 

劇団員さんたちが、僕の前にダーーーツと駆け寄り、握り拳を

差し出した。

そして、それをくっつけ合った。

そのあと、皆が人差し指だけを立てた。

 

あたかも、バースデーケーキがすぐそこにあるように。

 

「はいっ、じゃあ、ロウソクを消してくださーーーい」

 

なるほど、なるほどと思った。

 

僕は思いきり頬を膨らませ、何本も立てられた人差し指の大群に、

ふーーーっと、大きく息を吹きかけた。

 

彼らは身体ごと吹っ飛んでいった仕草をしたのだった。

ロウソクの炎は消えた。

 

割れんばかりの拍手に包まれた。

「おめでとーーーー!!」

「おめでとうございまーーす!」

 

そして、劇団員の人たちと記念撮影をした。

 

妹役の女優、寺田有希さんが、

「みんなーー、5月1日だから、指で5と1ね!」

 

劇団員の人たち全員が、左で5、右手で1を作ってくれた。

「はい、チーズ!」

ピースサインをしない記念撮影は初めてだ。

 

費用は、1円たりともかかっていない。

劇団員さんたちの即興劇に僕は涙が出た。

 

ケーキも、カードも、プレゼントもないけれど、

最高のバースデーだった。

 

***

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