歯がとれた年末年始のお話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:松井 保孝(ライティング・ゼミ 冬休み集中コース)
「自分のことが好きですか?」
という質問を投げかけられた時、あなたはどう答えますか?
「はい」
と自信を持って答えることができる人は、そう多くないのではないだろうか。
一方、
「自分のなかで気になる点はありますか?」
という質問を投げかけられた場合、あなたはどう答えるであろうか。
おそらく、何かしら気になる点があるのではないだろうか。
12月31日。2019年最後の食事としてピザを食べているときそれは突然に起こった。
ガリ、ガリガリ。
砂抜きが不十分なあさりを食べた時の100倍ぐらい不穏な音が口の中で鳴り響いた。
嫌な予感がする。
僕はおそるおそる口をあけてみた。
「やっぱり……歯がとれてるやん」
僕の前歯は1本セラミックでできている。芸能人の方でもやっている人がいるので名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれない。これは簡単に言うと、直したい歯をけずり、その上にセラミック歯をかぶせて実際の歯と同様に見せるものである。
セラミック歯は何とか見つかったものの、歯科医院は年末年始のため休診中である。
年明けまでは歯を元に戻すことはできない。
「歯が欠けているの見られるの嫌やな」と気持ちが暗くなりつつ残りのピザを食べた。
例年、お正月は実家に帰ることになっている。
一人暮らしの息子の帰宅であるからか、両親はいつも優しく迎え入れてくれる。
「元気にやってるん?」
「おせち料理も好きなご飯もいっぱい準備しているから、好きなもの食べていき」
など、久しぶりの帰宅を喜んでくれているようである。やはり実家はいいものである。
「それなのに、それなのになんで気づかない!」
明らかな息子の変化に気づかないのである。
最初は、「もしかして気をつかってくれてる?」なんて思ってもいた。
やはり、親子とはいえ、気にしていることをダイレクトに言うのは憚られるのであろうか。親しき仲にも礼儀ありである。
しかし、1時間がすぎ2時間がすぎても特段の何も言ってこない。
しびれをきらし、
「何か変わったとこあらへん?」
と母親に聞いてみた。
「別に変らんよ。帽子新しくしたん?」
案の定である。当然のように気づいていない。
そして、帽子は昨年から使用しているものである。
「年末に歯がとれてん。ほら、ここ見て、欠けてるやろ」
と自分で言ってしまった。
「ほんまや。全然気つかへんかったわ」
と母親の弁。
考えてみると、「何か変わったことない?」という唐突な質問を受けた経験がある人は多いと思う。
しかし、その質問に正解できた(正解し続けることができた)方は少数派であろう。
相手のことに興味があったとしても、大きな枠で記憶しているから、細部の変化には気づきにくいのかもしれない。決して相手のことが嫌いなわけではない。むしろ、こんな質問されたりするぐらいであるから、その相手との関係は良好であろうと考えられる。
その後、別の日に友人とゴルフに行く機会があった。
この時もまだ歯は欠けた状態である。
当然のごとく、歯についての変化は誰も気が付かない。
そんな中、友人から唐突な質問を受けた。
「俺、なんか変わってない?」
数日前の記憶が蘇る。おそなく、何かが変化していることは間違いない。
「……」
「……」
無言になる一同。まじまじと顔を見てみるが特段の変化はないように思える。
「黒目を大きくなるコンタクト着けてるのよ」
と友人が満足気に言う。
なるほど、確かに黒目が大きく見える。というか、なんかちょっと可愛く見えるぐらいである。
「全然気がつかなかった」
と一同。
実家であったやり取りの母親側に僕自身がなったのである。
年末年始のこれらの体験で気づいたことがある。
一つは、人は他人の変化に意外と気づけない。
これは何も悪い意味で言っているわけではない。
自分が気にしている点があったとしても、他人はそんなに細かい点は気にしていなかったりするのである。
僕という人間は僕全体を見て判断され、あなたという人間はあなた全体を見て判断しているのである。
他人の目なんて、少し気にするぐらいでちょうどいいのかもしれない。
もう一つは、自分の満足は自分が決める
他人は変化に気づかない。逆にいえば、自分の変化には自分が一番気づけるということだ。
だからこそ、気になっている点があれば、自分で自分を満足させることが大事な事だと思う。
例え他人がどう思っていようと、気づいていなくとも、自分自身が満足することで生活が豊かになるからだ。
「口を大きく開けてください。
「これで、元に戻りましたよ。こんな感じでいいですか?」
治療が完了した歯医者さんに問いかけられた。
「問題ないです」
僕は満足げに答えた。
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