マツコの知らない世界に出演できなかったから見えたもの
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記事:いづやん(スピードライティング・ゼミ)
「TBS、マツコの知らない世界のディレクターの◯◯と申します。突然のメールで失礼いたします」
とある梅雨の日、仕事の合間に個人のメールを何気なく開いた自分の目が大きく見開くのを、抑えることはできなかった。
メールの件名は「マツコの知らない世界出演について」。何かのいたずらか、スパムメールだと最初は思ったのは確かだ。
内容は、東京の島々の世界について、マツコさんに話すネタがあるかどうか、という正真正銘の出演打診の連絡だった。
飲み物を外に買いに行くふりをして、オフィスの外に出てもう一度よく読んでみた。間違いない。しかし、問題はその期限だ。この連絡をくれたディレクターは「できれば明日には一度電話で話がしたい」という。
不安な気分は抜けないものの、次の日の夜、仕事を早めに切り上げて家に帰った。予定の時間にかかってきた電話に出ると、至って礼儀正しいディレクターの声。今回の件は、番組で島について取り上げたく、色々探しているうちに僕の島旅ブログにたどり着いたからだという。
自分のプロフィールや、どの島が面白かったか、どんなテーマなら話せそうか、など結構事細かく聞かれた。1時間半ほどもしゃべっていただろうか。必死だったので、何をどう話したのか、よく覚えていなかった。
「どうしよう、本当にあの人気番組に出ることになるのか……?」
期待より緊張が先走ってしまい、電話インタビューの最後の方ではお腹が痛くなってくる始末だった。
「もう少し詳しく聞きたいので、明後日実際に会ってお話できませんか」
そこまで言われたらもう腹をくくるしかないと思い、会社そばのカフェで夜会うことにした。
指定されたカフェに行ってみると、若い男女のディレクター二人が、ビデオカメラをテーブルに設置して待ち構えていた。企画会議で実際にしゃべっている僕の画が欲しいのだろう。
「全国の島だと取材する時間も足りないし、テーマも散漫になりがちなので、東京都の島に絞って、面白いテーマがあれば、それについてお話してもらいたいと思っています」
そう、ディレクターはネタを振ってきた。
僕は自分の経験で思いつく限りのテーマを話し、二人は真剣にメモを取る。僕の頭の中はすでに、マツコさんにどうやってこの話しをしようか、ということで一杯だった。
「実際に出演いただく場合は、◯月◯日に収録に参加いただくことになります。他にも出演を打診している方がいらっしゃって、複数の候補から企画会議でどなたにするか決めますので、また後日連絡しますね」
ディレクターはそう言い残し、1時間半ほどの打ち合わせは終わった。
僕は思いもしなかったチャンスに、会社には筋を通そうと思い、もしかしたら出演することになるかもしれない、そうなったら会社を休むこともある、と伝えた。
「うちの会社から有名人が出ることになるとはなぁ」と社長もまんざらではない様子で、出演を了承してくれた。
「島のことを語るんだから、島で買ったTシャツ着ていくかあ。どれだったらマツコさんに突っ込んでもらえるかな」などと考えていた一週間後。
「収録までの短期間で東京の各島を取材するのは難しく、今回は見送りとなりました。また次回、相談させてください」
「6月で梅雨時期の伊豆諸島だと、取材に一週間だけというのも時間的に厳しいし、延期もやむを得ないな」と自分で自分を納得させたが、出る気満々だった心はやはり歯噛みしていた。
自分を納得させたつもりだったが、出演した場合に予定していた放映日には、自分の代わりに企画が通ったやつの面白さはどんなものか見てやろうと息巻きながら、テレビの前に陣取っていた。
見終わった後、思ってしまった。
「自分はまだまだだな……」
その後もすっかりこの番組を毎週見ることが習慣になってしまい、そのたびに「頭おかしいな!」と大笑いで各分野のマニアに脱帽しつつも、自分の平凡さからくる嫉妬のような気分を味わっていた。
「出演している連中を見ていると、お前は普通だな!」と社長にも笑って言われて半笑いで返すことしかできなかった。
「延期させてください」というのは、体の良い断り文句だったのだ。「次がある」と思っていたが、実際にはなかった。
番組を見るたびに「自分に足りないもの」を考えせられた。
まず、マニアの尺度として「数が足りていない」。島旅に行っていると言っても、この時点でせいぜい80島程度。
島に行って「◯◯について調べています」などの、確固としたテーマも実はない。
「マツコの知らない世界」を見るにつけ、自分に足りないものが浮き彫りになった。
膨大な数、気違いじみた深さ、寝ても覚めてそればかり考えているからこそ見えてくる面白い視点。
自分には足りないものばかりだった。
逆に言えば、旅した島の数と、自分なりの面白いテーマが見つかれば、再び声がかかるに違いない。
それを励みに、2019年は100の有人離島を踏破できた。自分なりのテーマを見つけることが、2020年の目標だ。
ここまで考えて、「テレビに出ることが目的ではなく、もっと島旅を面白くすることが一番大事だ」と気がついた。それだけでも、今回の騒動には価値があったのだ。
それでもいつか、マツコさんにドヤ顔で島の面白さを話すことを夢見ながら、次に行く島について夢想している。
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