だから病名を公表してください!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:黒田美祐(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
気付くと、指が勝手に開くボタンを押していた。
<歌手ジャスティン・ビーバーさん、ライム病を告白>
アイフォンに表示されていたそのニュースを、脳が理解するよりはやく開けていた。今日のことだ。特に彼のファンというわけでもないけれど、昔友達が好きだったからだろうか、「ライム病」という聞き慣れない名前に、知りたい欲が刺激されたのだろうか、それともちょっと「チャラい」イメージのある彼と病気という取り合わせに、何か感じるものがあったのだろうか。いずれにせよ、仕事終わりの半分閉じかかった瞼でも勢いよく読むことができた。
ライム病は、ダニを媒介とする細菌による感染症で、関節炎や皮膚炎、神経症状など様々な症状・炎症を引き起こす。有効な治療薬もある病気だが、症状が慢性化し最悪死に至る場合もあるらしい。
彼がインスタグラムでこの発表をしたことで、「ライム病」がトレンドワードとしてランクインしている。私も検索したうちの一人。アメリカではよく知られていたようだが、確実に日本では今日付けで知名度が上がっただろう。そして多くの人が、そんな状態でも「必ず良くなる」という彼の前向きな、懸命な姿に励まされ、「がんばれ!」と応援したくなったにちがいない。
このニュースをしばらく開きっぱなしにしながら、私はレディ・ガガのことを思っていた。
私の母は今、線維筋痛症という病気を患っている。
「せんい、きん、つうしょう?」
はじめて聞いたときは、どこで区切るのかわからず、「繊維? どこの筋肉?」とはてなマークだった。
「簡単に言うとな、体のあちこちが痛くなる病気やねん。人によるけど、ひどい人は髪の毛切っても爪切っても痛いんやて。脳が痛みを過剰に感じるらしいわ。薬もないしそんなんやから、自殺率も高いらしいねん。でもたぶん色んな症状とか調べてたら、それじゃないかなーって。こわばりとか眠れへんのとかも、症状に入るみたいやし」
決して暗いトーンではない声で、母はそんな風に言った。
母にとっては、やっと見つけた可能性だったからだ。
そんな恐ろしい話を聞いて私は身震いしたけれど、それでも一緒に喜んだ。喜ばしかった。
15の時くらいから母はずっと体が弱く、朝起きられなかったり、歩けなかったり、なぜかずっとしんどかったりした。原因はわからない。最初はヒザの痛みから始まって、疲労感や極度の冷え、貧血、色んな症状のアレルギーに悩まされてきた。もう30年以上もだ。私が小学生のころは、歩けない時が長くあった。中学生のころは、家で学習塾の先生をしていたけれど、フラフラで這いつくばって階段をのぼっていた。家事が出来ずずっと宅食を取っていた時もある。毎年季節の変わり目には、顔のむくみや声が出なくなるなどのアレルギー。まだまだ他にも。元気な日もあるけれど、寝込んでいる日が多かった。
我が親ながらいちばん「可哀そう」だと思ったのは、病院をたらい回しにされたという話。やっと最近になって研究が進みわかってきたことも多いが、昔は訳のわからないほどしんどくて病院に行っても、数値が出ないと相手にされなかった。「怠けているだけですよ」という目で見てくる病院の先生。どこに行ってもはっきりと分からず、本当に自分がただ弱いからだという気もしてくる。それでも必死に二人の娘を育て、仕事を全うし、「自分で調べるしかない」と、病気や薬に関する本を読んで、色んな可能性を病院に投げかけてきた。
幾度もNOの返事を受けながら、それでも前向きに自分の体を研究してきた甲斐あって、ようやくここ数年で、良い薬と良い病院、本当に愛のある良い先生に出会えてくるようになった。
そんな時だった。
レディ・ガガが「線維筋痛症」を公表したのは。
これだと思った母は、調べに調べ、自分のこれまでの症状を年表にして、色んな先生のところに持って行った。
きちんと診断がおりたのは、1年半後くらいだろうか。紆余曲折あった。やっぱり膠原病の一種じゃないか、五十肩も入っている、アレルギーとの関係は? 症状が多岐にわたり、数値で判断できる指標もない。YESとNOの可能性を繰り返しながら、ようやく、「線維筋痛症ということで、治療していきましょう」ということになった。
今もずっと、治療を続けている。一般的に原因は心的ストレスが大きいとされるが、はっきりわからない。特効薬も確実な治療法もない。可能性のある治療や薬を試しながら、元気になることだけを信じて前に進む。帰宅すると泣いていることもあったし、他の病気も併発したりしている。それでも、「病名があるだけでずっと幸せ」と母は言う。
なにかわからないのが一番辛い。その苦しみを、レディ・ガガは救ってくれた。母を、私たち家族を前進させてくれた。彼女は公表したツイッターで、「この病気の認知度が上がり、同じ症状に苦しむ人たちを繋げる助けになれば」と書いている。まさに、彼女の告白によって母や同じような症状の人たち、医療業界のなかでも認知度は上がっただろう。そして病名がつくことによって、他にも同じように苦しんでいる人たちがいる、自分は異常じゃない、病気なんだからしんどいのは当たり前だ、と、心を楽にすることができる。
自分の病気を多くの人に公表するのは、凄く勇気のいることだと思う。だが、レディ・ガガはきっと、本当に誰かを救いたいと願い、公表してくれたのだろう。きっと、ジャスティン・ビーバーも。病気と闘いながら活躍する姿は、誰でも勇気づけられる。確実に救われる人がいる。
「もう少し元気になったら、ブログなんか始めてみようかなあ」
私の母も、笑顔でそんなことを言うまでになった。
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