『死ぬまでに読むべき本を考える』
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:松永 恵(ライティング・ゼミ平日コース)
自分が死ぬまでに、あと何冊の本を読むことができるだろう。
読むべき本の数を考え始めた時から、私は本との付き合い方が少し変わったような気がします。
今この本を読んでいる瞬間にも死んでしまうかもしれないし、読みかけの本も読むことは出来ず、新刊を楽しみに待ち焦がれながら死んでしまうかもしれません。
読める本に限りがあると気が付いた時から、私はこの本を読まなければならないという使命感と、次はあの本も読まなければならないという焦燥感と、少しの寂しさ、そんな感情を持って、本の表紙をめくるようになりました。
気づきを与えてくれたのは、ミュージシャンの坂本龍一さんです。
YMOとしてのバンド活動を始め、作曲、演奏、プロデューサー、アレンジャー、俳優など、活動は多岐にわたり、映画「ラストエンペラー」で米アカデミー賞作曲賞を受賞、世界に名を知られることとなり、現在も世界で活躍する日本人ミュージシャンです。
読書家としても知られる坂本さんは、還暦を迎えると「残りの人生で読みたい本リスト」を作ったそうです。
そのエピソードを聞いた時、私は衝撃を受けました。
彼はいつか来る死に向き合って、読むべき本を整理したのです。
世界に溢れんばかりに存在する本の中から、死ぬまでに読むべき本を整理するという心境はどのようものなのでしょうか。
これから読みたい本には、話題となって興味があった本もあれば、続編が出ると噂されながらも、何年も続きが出ない本などもあるはずです。
読もうとしていた本の全てをひょっとしたら諦めて、残った人生に自分が必要と思う言葉や知識が書かれている本を選び、リスト化する作業。
命が少しずつ終わりに近づくのを目で確かめるように、リスト化された本を少しずつ減らしていく日々。
クラクラと、眩暈がしました。
そんな作業、怖くて私にはできないと思ったのです。
読み切れない本は諦めて、ごく限られた本だけを何冊と決めて選書する。
「残りの人生で読みたい本リスト」は、自分の命の果てを、目に見える形にしてしまう作業だからです。
けれど読みたい本リストを作ることは、避けて通れないことだと気が付きました。
いつか死ぬことはわかっていても、遠い未来のことだと思っていた私は、明日死ぬかもしれない、という可能性を考えていなかったのです。
坂本龍一さんは80歳まで生きるとして、60歳から20年で読める『最低これを読んでおかなければ死ねない』という本を100冊リストにして作ったそうです。
けれど数年後にガンを患った際、20年では読めないと思い直し、1年くらいで読める本を急いで選び直しリスト化し、いつでも読めるように椅子の傍らに置いていたそうです。
命の期限を感じてから、本のリストを更新する作業は、想像を超える恐怖だったのではないか、と思います。
明日死ぬのかもしれない、1年も生きられないかもしれない。
その極限の中で本を選ぶ勇気を、私だったら持てるだろうかと考えずにはいられなかったのです。
そこから、私は本との出会いを大切に、意識するようになりました。
厳選して読んだところで、結局後悔してしまう本だってあります。
だったら、心の向くまま本に出会って、今読みたいものを読む。
本との出会いはそれぞれで、偶然だったり必然だったりします。
その本に出会ったことで人生が変わってしまったり、全く違うものの考え方をするようになったりすることもあります。
本屋や図書館に行く機会を増やし、新刊や話題の本の情報を探し、お勧めの本を人に聞いたりして、本との出会いを意識するようになりました。
そうすると不思議と、今自分に必要だと思える本が分かり、良い本に出会えるようにもなりました。
自分が死ぬまでに、あと何冊の本を読むことができるだろう。
明日死ぬかも知れないと思うと、本も厳選して選びたくなるし、後悔のない本を選びたくなります。図書館に行っても、私の生きているうちに図書館中の本を全部読むことは叶わないのです。
しかも素晴らしい本は次々に生まれていて、増えていきます。
本だけではなく、映画も音楽もゲームも漫画だって。
作品の数だけ出会いがあります。
作品は途切れることなく世の中に生まれているので、私は全てを見ることもできません。
今生きている、限りある中で、最大限に情報のアンテナを広げて、本を読んでいきたいと思っています。
後悔のないよう、たくさんのいい本を探して、出会いたいなと思っています。
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