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【身近な孤独死に決意を新らたにした正月】


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:にしきおり美保(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
1月6日に田舎から都会に戻ってきた。
私が事務所として借りているマンションの非常階段に出るドアが開けっ放しになっている。既に夜9時、1月の寒空の下、外に向けてドア開けっ放し。
「それはないだろう!」フロントサービスに問い合わせた。
すると、
ドア近くの部屋でご老人が亡くなったと言う。
「それだけでドア開けっ放しって何事ですか?」
フロントサービスの人が丁寧な口調になり、小声で説明してくれた。
「お亡くなりになって発見するまで少し時間がかかった上に、あまり良くない亡くなり方をしたそうなのです」と。
それ以上は教えてもらえなかったが納得するしかなかった。
多分、私がいない間に、近隣の住民、管理組合、警察なども巻き込んで大変な騒ぎだったことだろう。
 
私はこの老人を見たことがある。
私の部屋から3軒隣り、歩数にしてたったの10歩ほどのところに、おじいちゃんがいて、早朝、必ず出かけて行くので、廊下ですれ違うことがあった。
何度もすれ違い、挨拶や会釈をしても、無視されていた。
気分は良くないが、ただ、ご高齢のようなので、目や耳が遠いのかもしれないなと気にもとめないでいたが、この秋ぐらいからパッタリと見てないような気もする。
お年寄りなので病院に入院することもあるだろうし、老人ホームに入居することもあるだろう。
そうやって都会の希薄な人間関係はそのまま忘れ去られていた。
 
いつ亡なられたか分からないが、24時ドアを開けっ放しにしなければいけないほどの悪臭。そんなことになっていたなんて想像だにしなかった。
ほんの10歩、たったそれだけの距離なのに誰がいるのか、どうなってるのか、さっぱりわからないそれが都会の現状かもしれない。
 
東京に戻ってくる前日、
私は故郷の大分で、あるハウスメーカーさんにいた。
実家のある土地を活用するため、グループホームを含んだ建物に建て替えたいという希望を話し、資金計画や規模の相談をしていたのだ。
 
実家には、今年米寿を迎える母がたった一人で住んでいる。
この年末、戻ってビックリした。
1階の全ての部屋の足元に母の荷物があちこちと散乱し、広い玄関のたたき台やトイレが埃まみれであった。
元々きれい好きな母は、リビングやトイレを美しく飾り、玄関のたたき台は、顔が映るのではないかと思うほどピカピカに磨きあげられていたというのに。
 
悲惨なのがキッチンだった。テーブルには食器や調味料がところ狭しと広げられ、食事ができるスペースは皆無。シンクの周囲には出したままの箸や容器がカビにやられ、間違って、口に入れでもしたらと思うと寒気がした。
 
聞くと、母は、年末体調崩し掃除すらできなかったと言う。
「と、に、か、く〜」と、キッチン周りのカビているものは全てゴミ袋に押し込みながら、母が無理せずにこの生活を維持するにはどうしたらいいだろう、かねてから、心に抱いている理想を現実にしようと決意した。
そして、話した。
 
以前なら、
「このままどうなるかわからん。だから考えるのやめとくわー!」
「いざとなったらお母さんは老人ホームに入るから気にせんで! そのくらいの金はあるんやから!」
と強気だったのに、初めて、聞く耳を持ってくれた。
 
これまで親の介護をしたことがある人や親を亡くして遺産問題に振り回されたことがある人なら分かるはずだ。
親の言う「あるはずの金」は、たとえ一人っ子であっても、自由に預金から引き出せるものではない。頼まれて銀行に行っても委任状や使途の記録などの面倒があり、もし、認知症になってしまうと、成年後見人制度の手続きを取らなくてはならず、もっと厄介だ。
 
つまり、親のための介護費用は、大きなものは、書類をいくつも出さなくてはならず、小さいものは、子供が立て替えることになり、費用が戻ってくるのは、亡くなってから、遺産問題が全て片付いてからということになる。
その前に、贈与という形で、少しずつ、財産を分けて行く方法もあるが「早目に財産を分けると、子供は親の面倒をみない」という説のためか、なかなかそうしないし、子供の立場から「贈与税の掛からない範囲で、お金を頂戴」とも言いにくく、なかなか進まない。
 
そこで、私のイメージの中での理想は、親のお金を頭金にして、グループホームを作り、見守りと清潔で健康的な暮らしが得られる環境を、親が元気なうちに作るということだ。
 
それに、親の言う「いざとなったら」というタイミングをどう見分けるのだろう。
徐々に体調が悪くなる訳では無い。
突然転倒してそのまま動けなくなって発見されなければ衰弱死してしまうかも知れない。イザというタイミングよりも、もっと早く、環境を整えたほうがいいに決まっている。
つまり、自宅をグループホームにすることで、見守りと清潔な環境が手に入り、親の財産管理も早めに済ませることができる。
 
ついでに、ちゃっかり言えば私自身の老後にとっても役に立つ方法だ。
私は、離婚後、独身のままで来ている。老いが進んで身体が動かなくなったら、どうするのか現時点では何も解決していない。
パートナーがいる人も、最後には、どちらかが一人きりになる。
 
つい数日前、二人目の孤独死を目の当たりにした。
年明けの入院先でのこと。
隣のベッドの女性が入院して3日目に旦那さんが自宅のお風呂で溺死した。発見された時、既に手遅れだったようだ。その経過を隣で聞いていてドキドキした。
老人が一人きりというのは、たくさんの危険をはらんでいる。普通の死ではないので、警察での検死などがあり大変なようだ。
 
同年代の友人も
「例え、子供がたくさんいても、親の面倒をみるとは限らないから、グループホームはいい考えだと思うよ」と言ってくれたり、
少し知的障害のある娘さんを持っている友人も
「多分、結婚できないだろうから、グループホームが出来たら、うちの娘を入れてよ!」と言ってくれる。
 
私の頭の中の理想の計画というのは、グループホームに介護職員さんが来て見守りがあり、プラスして賃貸などの収益のあるアパートを造り、共有スペースに猫カフェのようなペット専用部屋をつくり、アルバイトさんも雇う。つまり、ペットも協力しながら皆で可愛がる。
そういった整った環境であれば、全ての入居者さんが安心して暮らして行けるに違いない。
 
親の見守り、遺産相続、自分自身の老後、子供世代への負担、老後のペット問題も一挙に解決する良い考え方ではないだろうか。私はこの計画にワクワクしている。
また、地方によっても違いがあるが、建てようとしている大分市では、グループホーム部分の設備費用の1割を負担してもらえる。どんな家やアパートを建てようにもこのような優遇制度はなく、追い風を感じる。
 
ただし、まだ実績が無いので、資金計画や法律上の問題をクリアし、一軒目を立派に造りあげたい。
上手くいけば、同じような悩みを抱えている人の相談に乗ってあげられる。
高齢の家族を持ち、自分自身の老後の心配をしなくて良い方法を探し当てたら、困っている方々に教えて差し上げられる。
日本中の人達が、「自己責任」とか「老後問題は自分で何とかしろ!」といった風潮ではなく、支え合えるモデルケースを作りたい。
 
昨年から練ってきた今年の目標が、目の前の現実として動き出そうとしているタイミングに身近な二人の老人の孤独死が後押ししていると感じ、
私は、この計画を今年必ずやり遂げるのだと決意を新たにした。
 
 
 
 
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2020-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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