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離婚騒動で得たもの


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記事 飯田あゆみ(ライティングゼミ平日コース)
 
昨年の春、突如離婚話が持ち上がった。
「突如」と書いたが、実はそんなに突如でもなく、過去に私が「もう離婚だ!!」と思ったこと、実際に役所に離婚届を貰いに行ったこと、夫に署名捺印させたこと、は何回もある。
がそのたび、土下座して謝ってくるのは夫の方だったし、私は自分が言われる側になったことがなかったので、相当驚いたのであった。
 
我が家は結婚30年目を迎えようとしている、熟年カップルである。
今はそこそこ平和に暮らしてはいるが、夫は酒乱で、暴れるとひどい。なので、下の子が四歳の春に転勤の話が出た時、家族は迷わず「単身赴任でお願いしまーす」と夫を送り出した。
ワンオペ育児、なんのその。平和な毎日を送れるなら、多少の不便は我慢しましょう、と思ったのである。
 
酔わなければ、稼ぐし、面白いし、賢いし、まあいい男とは言い切れないが、悪くはない。そんな夫である。
 
問題の離婚騒動は、夫の歯痛から始まった。4月のある日、大変凶悪な目をした夫が言った。
「歯が死ぬほど痛てぇ」
 
死ぬほど痛いなら、大人は自分で歯医者を探して治療してもらいに行く。夫も大人なので当然そうするだろうと思っていたら、そのまま二週間放置し続け、
「なぜ、俺のために歯医者を探さないのか?」
と怒り出した。
 
夫の主張はこうである。
「自分は子どものころから一度も虫歯になったことがなく、当然、歯医者などかかったこともない。したがって、歯医者の良し悪しがわからない。だから、歯が痛いと俺が言ったら、歯医者の利用経験のあるお前が、俺のために良い歯医者を選んでくれたっていいじゃないか。むしろ、なぜそうしないのか? 愛情がないからではないか? 前から思っていたのだが、お前、俺のこと嫌いだな?」
大変迷惑な八つ当たりであり、被害妄想である。
 
だが、痛みで眠れず、行ったことのない歯医者の恐怖に心底やられてしまっている夫は、この痛みと恐怖を理解しようとしない妻とは、この先も一緒になんてやってられるか! と離婚を言い出したのであった。
 
それを受けて私は考えた。今回、私は何一つ悪くないよな。どう考えても、あれは夫の八つ当たりだ。そもそも、してほしいことも言わずに「察してちゃん」でいようとするような大人とは、私だって一緒にいたくない。わかった、離婚しよう。経済的には全くもって見通しが立たず、不安しかなかったが、そう決めた。
 
それからの私は、行動が早かった。お小遣い程度の稼ぎしかない、ほぼ専業主婦なので、まず、食べていくための仕事をしなくてはいけない。年金分割してもらえたとしても、まだ何年かは働かないと食べられない。家も探さなきゃ。そして、車を処分しないと、私だけでは維持費が払えないぞ。
できるだけ不安は見ないようにして、さくさく動いた。
 
車を処分し、原付バイクに乗り換え、アルバイトを見つけてきて、最後は家だな、となった頃、夫は、自分で歯医者を探して、治療を受け、ようやく痛みが和らいで正気に戻り、こう言った。
「あのう、離婚を取り消していただくことはできないでしょうか?」
「はぁ?!」
寝耳にウォーターとはこのことだぜ! とルー大柴なら言っただろう。
 
愛車も処分し、これからの厳しい生活をどう組み立てていこうかと考えていた私は、腰が抜けるかと思った。が、一方では頭の中に「どっちが得かよーく考えてみよう!」という昭和の時代の欽ちゃんのCMの声が響いていた。答え:離婚しないほうが、QOLが保証されお得です。
 
というわけで離婚は回避され、私と夫は今も夫婦を続けている。
そして、その騒動のおかげで、私のおこづかいが増えた。というのは、車を処分したことでその維持費がかなり浮いたからだ。ざっと計算してみる。
1.駐車場代  1万円×12か月=12万円
2.車検代金  約7万円
3.任意保険代 約7万円
4.税金    約5万円
5.ガソリン代 5千円×12か月=6万円
合計 約37万円 つまり一か月あたり3万円くらいは可処分所得が増えた計算だ。
 
小さな子どもを連れての離婚であれば、車がないと不便な地域はいくらでもあるし、車は生活必需品だともいえよう。が、子どもが巣立って熟年離婚を考えるなら、最初にいらなくなるのは車だ。現在、短距離の移動は原付バイク、長距離の移動は公共交通機関を使っているが、車の維持費に比べたら、まるでどうってことはない。むしろ都心の「一時間1800円」なんていう信じられない高額な駐車料金を考えると絶対安い。その上、頑張って維持したところで、私の年齢ならいずれ近いうちに免許は返納しなくてはならなくなるし、間違って人を轢いてしまうことを考えたら、車を持たないほうが圧倒的にリスクも費用も抑えられる。雨の日に出かけるのが多少不便なくらいで、あとは全く問題ない。
 
なかなかエキサイティングな、本音を言えばお金の不安で押しつぶされそうな体験だったが、何事も経験だ、というのは本当だった。少なくとも、夫はあれ以来、理不尽な要求はしなくなったし、してほしいことは言うようになった。離婚騒動というのは、中途半端なところでやめないほうが、解決につながるものであることを学んだ。今、もめているご夫婦は、お互い徹底抗戦の構えで本気をぶつけ合ってみることを提案したい。そうすれば、もしかしたら、関係も改善できて、お小遣いも増えるかもしれないよ?
 
 
 
 
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2020-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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