ダンゴムシは新幹線に乗るか?
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記事:大越香江(ライティング・ゼミ特講)
「ママ〜、この植木鉢、ちょっとよけてみて」
ダンゴムシは子どもたちのアイドルである。
私の子どもたちも保育園児の頃、園庭でバケツに一杯ダンゴムシを集めたり、ポケットに詰めたりして、たびたび私をギョッとさせた。大きな石や植木鉢をのけると、ダンゴムシたちは、おもむろにわらわらと動き出すのである。うちの子どもたちだけではなく、お友達もダンゴムシが大好きだった。保育園にお迎えに行くと、その日に集めたダンゴムシを、数人が競うように自慢げに見せてくれたものである。
わらわらと動いているダンゴムシをちょっと刺激すると、瞬間的に脚をかかえてクルンとほぼ完全な球体に丸まってしまう。そんなところが、子どもたちの関心をひくのだろう。
ワラジムシは、一見ダンゴムシに似ているのに丸まらない。一時期、餌を食べないということでニュースになったダイオウグソクムシは多少丸くなるものの、完全に丸くなるわけではない。球体に丸まるところが、ダンゴムシのウリなのだと思う。
子どもたちは、小学生になってからもしばらくはダンゴムシの熱狂的なファンであった。
上の子はいまだにダンゴムシを愛している。機会があれば石や植木鉢をのけては、その下にいるダンゴムシを見つけて楽しんでいる。一方、下の子は残念ながら興味を失ってしまったように見える。
私も幼い頃、同じようにダンゴムシが好きであった。
父の仕事の都合で、私は幼稚園の頃、広島に住んでいた。広島の8階建てのマンションの屋上の、コンクリートの割れ目のわずかな砂だまりにもダンゴムシが住んでいた。どこからやってきたのかわからない。ダンゴムシの生命力には驚かされるが、子どもはめざとくそんなダンゴムシも見つけてしまうのだ。
ある時、父の転勤で福島に引っ越すことになった。
出発の朝、私はマンションの屋上で一匹のダンゴムシを捕まえた。当時5歳の私はダンゴムシと離れたくないと考え、引越し先まで連れて行くことにしたのだった。
ダンゴムシは私と一緒に山陽〜東海道新幹線に乗って広島から東京へたどり着いた。新幹線の中で大事にダンゴムシを握っていたことを今でも覚えている。
「ママ〜、東京で新幹線に乗りかえるの?」
「新幹線は東京でおしまい。特急に乗り換えるからね」
当時まだ東北新幹線は開通していなかった。
引越し先に到着した後、ダンゴムシをどうしたかについての記憶はない。しばらく飼っていたのか、それとも庭に放したのか……。温暖な広島でぬくぬくと過ごしていたダンゴムシが福島の寒冷な気候に適応できたかどうか。
私のダンゴムシが、史上初めて新幹線に乗ったダンゴムシかもしれない。
そんなわけで、子どもたちが道端でダンゴムシを見つけては釘付けになって全く離れようとしなかった時も、ズボンのポケットにダンゴムシを詰めていた時も、笑って見守るしかなかった。バケツ一杯のダンゴムシもご愛敬である。すべては自分も通った道だった。自分のダンゴムシの思い出を思い返しながら、子どもたちとダンゴムシの交流を見守った。
「ママ〜、ダンゴムシのガチャガチャがしたい」
ダンゴムシに興味がなくなっていたように見えた下の子も、最近、手乗りサイズ(実物の10倍)のダンゴムシのおもちゃを見かけて興味を持った。丸まった状態でガチャガチャから出てくるのだが、ちゃんと伸びた状態にもできる、よくできたおもちゃである。
手乗りダンゴムシは「だんご丸」「だんごちゃん」と命名され、我が家で大事にされている。
ダンゴムシ愛は普遍なのだと思う。
最近、11年間ダンゴムシの研究を続けた高校生のことがニュースになっていた。彼は、ダンゴムシのフンの中の細菌が強い防カビ物質を作ることを発見した。
親も子どものダンゴムシ愛に楽しくつきあった方がいい。
実際、子どもたちのダンゴムシ愛を目の当たりにして、大人になるにつれて薄れていた自分のダンゴムシ愛が再燃したと思う。ダンゴムシ好きの子どもたちのために、私はダンゴムシの絵本を買ったり、ダンゴムシのテレビ番組を一緒に見たりした。図鑑やTシャツも買った。夏になると、私もダンゴムシ柄のTシャツを着る。
ダンゴムシは私と一緒に、東海道・山陽新幹線に乗った。
ダンゴムシは子どもたちのアイドルである。ダンゴムシはあちこちで子どもたちと一緒に新幹線に乗って、すでに新幹線の全線を制覇しているかもしれない。
「ダンゴムシは新幹線に乗るか?」
答えは、Yesである。
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