運命なのさ!
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:やま(ライティング・ゼミ特講)
センター試験に遅刻した。
つい先日のタイムリーな話題である。
大事なセンター試験の日に出遅れてしまった。
と言っても私の試験ではない。
自分のクラスの生徒の応援だ。
業務ではない。会場の入口に立って緊張しているであろう生徒にエールを送るために行く。しかし私が入口に着いた時、他の先生達が引きあげる時だった。完全に出遅れた。
「先生のクラスの生徒元気に行きましたよ。チョコ渡しときましたよ」
と隣のクラスの先生に笑われた。
私はこれまでに何十人もの生徒を合格させてきたスーパー受験指導ティーチャーではない。だから生徒が試験会場で私に会ったから御利益があるとかそんなわけではない。
そして癒し系の見た目ではないから、私に会ったから心が和んだとかそんなわけでもないと思う。(もちろん存在がそんなふうになれていたとしたら担任として嬉しいが)
だから私が入口にいなかったからといってその子の試験にさほど影響はないだろう。
「隣のクラスの先生は来ているのに何でうちの担任はいないんだろうと」とひょっとしたら思ったかもしれないがそれをネチネチ言う子ではない。前日にお守りも渡し言いたいことも全部伝えていた。だから何か大きく影響を与えたわけではないと思うのだが、試験前に顔を見て何か不安なことがあれば聞いて、笑顔で送り出してあげたかった。
隣のクラスの先生と別れ自分の車に戻り一人になった後、
「自分はなんてアホなんだろう」と自己嫌悪に陥った。
自分の朝からの行動を振り返って、
「なんで部屋の片づけまで始めちゃったんだろう」とか
「なんで遠出するのを分かってて昨日のうちにガソリンを入れておかなかったんだろう(たまたま入れたガソリンスタンドで車の下の氷や、フロントガラスの氷をすごく丁寧に除去作業をしてくれ意外と時間がかかった)」
と自分の無計画さを後悔した。私はいつもそうである。前の日に時間があったのに出発直前に準備をして忘れ物をしたり、出発前に少し時間に余裕があるからと他のことを始めてしまい結局出発が遅くなったりということがよくある。仕事面ではそうならないように意識をしているので大きな失敗はないが、プライベートでは結構何回かやらかしてしまっている。今回もその一回となった。
「一生に一度の大事な試験なのに、自分の段取りの悪さで遅刻するなんて34歳の大人が情けない」そんなふうに自己嫌悪になって運転していたら頭がボーっとしてきたのでスーパーの駐車場に車を止めた。
すると喉が痛くなってきた。朝から鼻水がひどく行きの車でも何回か路肩に車を止めて鼻をかみ、風邪かなと思っていたが、喉が痛くなり風邪をひいてしまったと分かった。
先月風邪をひいた時に喉の痛みがひどかったので病院に行ったら、「扁桃腺炎」で抗生剤を飲んで治したことがあった。またああなったら嫌だなと思った。
そして「さっき生徒に会ってなくてよかった」と心底思った。
もし生徒に会っていたら変な菌を飛沫感染させてしまったかもしれない。
そう思った時に大好きだった祖母の言葉を思い出した。
「運命なのさ」
昨年亡くなった祖母と話していた時によく出てきた言葉である。
祖母は9歳の時に母親をなくし、それから家族を支えるために料理や洗濯、小さい弟の世話をずっと一人でやってきたという。女学校に通いたかったが、家事をするために近くの農業学校に行きずっと文句も言わず母親代わりの仕事をしてきた。若い時そんな苦労をしてきたので結婚の時期になった時、祖母の父親が、「もう苦労をする必要はない」と海上保安庁に勤める国家公務員の人を見合い相手に探してきたという。もう亡くなった私の祖父である。どういう経緯かは分からないが結婚後数年して退職し、八百屋を開くことにしたという。祖母は芋や南瓜をせっせと売って必死で3人の子どもを育てたそうだ。祖母の葬儀の際、喪主である伯父が「うちの母は働き者で八百屋の仕入れで朝が早く、夜は店を閉めてから家のことをやり、毎日数時間しか寝ていなかった」とエピソードを語っていた。
祖父が60代で亡くなり、八百屋を閉め、伯父家族と同居し、自分の時間ができた祖母。ご飯の支度は叔母がしてくれ、何も働かなくてよくなった祖母が言ったこと。
「今が一番幸せだ。みんながいて、何もしなくても美味しいご飯を頂ける。何も不自由がない。
若い時にいっぱい苦労したから今そう思える。
昔何も苦労しなかった人は年取ってから辛い思いをしている。
年を取ってから幸せだと思えるように神様が若い時の私に苦労させかもしれない。
全部『運命なのさ』だけぇ」
柔らかい鳥取弁でしみじみと語ってくれていた祖母の優しい顔を思い出す。
「運命なのさ」
この言葉に私はこれまで何度も助けられてきた。
何か辛いこと、苦しいことがあっても、それはその後うまくいくための運命なのである。
大学受験で失敗した時、職場で合わない先輩がいた時、教員になって生徒とうまくいかなかった時、「運命なのさ」自分にそう言い聞かせてきた。
そして「今は自分の思い通りにいかない時どうするかを乗り越える試練なんだ」とか「自分はこんなふうにならないようにしようと気づくためにこの人に出会ったんだ」と自分なりにその運命の理由付けをして一つ一つ前に進んできたように思う。
大好きな鳥取のおばあちゃんの「運命なのさ」は、何かうまくいかなかった時に自分でプラス思考に転換するための魔法の合言葉で、私の座右の銘である。
今回いくつかの自分のミスによって生徒の応援に間に合わなかったが、これも生徒に風邪をひかせないようにするための運命だったのだ。私は自分が浪人した時、センター試験の少し前にあるきっかけで体調を崩してしまい、万全ではない状態で試験を受けた。途中で頭がぼーっとしたり集中力が続かなかったりして自分の力が出せなかったことをその後もずっと悔やんだ。体調管理も含めてが受験であるし、「~たら、~れば」を考えても仕方とは分かっているのだが、「あの時出かけていないで家にずっといたら風邪を拾わなかったのに」とか「あの時普通に試験を受けれていたらどうなってたんだろ」と考えたことがこれまでの人生で数えきれないほどある。
だから、受験に向かう生徒に私が一番願うことは、「ベストコンディションで試験に臨んで最後まで頑張ってほしい」ということである。今回もし私が風邪をうつしてしまっていたら私と同じように後悔することになったかもしれない。その辛さは私が一番よく分かる。だから今日は間に合わなくてよかった。これも運命なのさ。そう思ったらすごく気分が明るくなった。そしてスーパーで風邪薬を買い帰路に着いた。
自分の身に起こることは運命だ。
あと2回提出するこの課題のネタがなくて1週間ずっと困っていたが、思わぬところでネタができた。行きは間に合うかハラハラしながらの運転だったが帰りの1時間半はずっとこの内容を考えて、今無事完成できた。これもまた
「運命なのさ」
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