頼りないパパの教育
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記事:三好健(スピード・ライティング講座)
「パパ! 川崎の、TSUTAYAと、本屋に行きたいです!」
と、5歳の娘、アンが本を読んでいる僕の所に来て、ニヤニヤしながらそう言った。
「いいよ、行こうか」と、僕。
するとアンは、パタパタと廊下を走ってリビングに行く。コソコソと話す声が聞こえた。11歳の姉、リオと何やら話しているらしい。
どうやら、リオにそそのかされれ、アンは僕の所に外出の打診に来たようだった。
リビングではバタバタとクローゼットを開けたと、賑やかになってきた。
今日はママが外出。頼りないパパしかいない。
リオは自分の着替えや荷物の準備に合わせて、アンの服も準備。二人で着替えた後に、洗面所の鏡の前で、髪をリボンで結い始めた。
ママが一人で外出をすることは珍しく、普段であれば、娘二人はママに頼りっぱなし。
服の準備も、髪を整えるのも、ママ任せ。
アンなんかは、気に入った鞄やらおもちゃが無いと、ママに泣きつくこともあるくらい。まだまだ甘えたい年頃だから。
でも、今日はママがいない。そして、パパは頼りないと娘達は知っている。
そんなときは、二人で仲良く協力し合う。いつもはケンカもする姉妹なのにね。
そんな姿を見て、頼りないパパはニヤニヤ。
二人は外出の準備を終えて、玄関に向かう。
背の高さは違うのに、二人は同じ格好をしている。アンは姉のリオのことが大好きで、いつも同じような格好にするのだ。
僕も自分の準備を終え、ガスの元栓や床暖、電気や戸締まりの確認。
ふとリビングのテーブルに眼をやると、白いA4用紙があった。そこには文字が箇条書きで、こう書かれていた。
・お茶を飲む
・着替える
・もちものじゅんび(少なめにする)
・ジャンバをきる
・くつをはく&出発する
・トイレに行く
・かみをじゅんび
姉、リオの文字だ。
そして、その全てが打ち消し線で消してあった。
タスクリストだった。
リオが、出かけるまでにやることを箇条書きにしていたのだった。
実はアンは、かなりのわがまま。気に入らないことがあると、アンの必殺技「号泣」が発動する。
そんなときは、ママもパパもアンを優先し、リオは自分のしたいことが出来なくなる。
だからリオは、「外出をする(本屋に行く)」という自分の目的を達成させるために、アンのモチベーションを高めたのだ。
リオは本屋に行きたい。だが、「本屋にいこう」と言っても、アンは付いてこない。
だから、アンの好きな「TSUTAYA」を持ち出すことで、アンの気持ちを外出に向ける。
そして、普段は外出の準備をするだけでも、アンのわがままで一悶着がある。
だからリオは、外出までにすることを書き出し、それを消していくという行為に、アンを巻き込んだ。
これは、仕事においても同じだな、と。そう思って、僕は内心で笑ってしまった。
部下に仕事を依頼するときも、最終的な目的を示さずに目の前の仕事だけをやらせると、部下のモチベーションは上がらない。
何のために、その仕事をしているのか分からず、その仕事そのものがつまらなくなり、最終的な目的まで到達することが難しくなる。
反面、ゴールが明確にあり、そこに至るまでの道筋が明確になっていると、たとえ目の前の作業が単調でつまらない物だったとしても、モチベーションを維持することが容易い。
だから、向かいたい場所が遠ければ遠いほど、ゴールや、マイルストン、途中経過の指標が必要になってくる。
アンの気分を乗せるためとはいえ、リオがこういったタスクの見える化をするという行為をしたことが、ちょっと面白かった。
誰が教えたわけでも無いと思うのだが。もしかすると学校、あるいは本で学んだのだろうか。
リオはとても活字が好きで、四六時中、本にかじりついている。
何にせよ、自分の娘の成長を、こういうふとした出来事で実感できるのは、とても楽しい。
娘の身長も、僕の顔の近くまで来ている。いつの間にか、大きくなっちゃうんだね。
娘がこのように成長するのも、パパが頼りないからこそ!
まあ、狙って頼りなさを演じているわけでも無いのだけれどね。
娘が大きくなって色んなものが見えてきたときに、愛想を尽かされないように、ちょっとは頼りになるパパを演じたいな。
親子三人で川崎の丸善に行き、本や文房具を買い、レジに並ぶ。
会計を済ませてふと歩いていると、前からママが笑って歩いてきた。
なんでも、パパの後ろに並ぶ子供達が、カルガモの親子のようだったと。
いつもは見られない光景に、ママが笑った。僕も内心、嬉しかった、気がする。
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