メディアグランプリ

エッセイ漫画とバウムクーヘンのおいしい年輪の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:緒方愛実(スピード・ライティングゼミ)
 
 
「あ~、やっぱりこの方の本はおもしろいなぁ!」
 
私は、本をパタリと閉じて、満足げに背伸びをした。
読破したその本は、新しく買った本ではない。昨年購入し、何度も読み返しているお気に入りの本だ。
読書を趣味としている私は、様々なジャンルの本を読んでいる。小説、ビジネス書、ハウツー本など、特に、学生のころから買い集めているのは、エッセイ漫画だ。その中でも、海外での旅のレポート、長期滞在をテーマにしたものを探している。
日本人の多くは、長期の旅行休暇を取ることは至難の業だ。仕事、家庭、その他諸々の理由が足かせになる。だが、外国に住む友人の多くは、長期の休み、しかも、会社からの休暇資金付きで、国内だけでなく、海外へ飛び出して旅を楽しんでいる。実にうらやましいことだ。私だって、旅することが好きだ。中でも、ドイツの歴史に興味があり、時間と都合を無理やり取り付けては、一人、ドイツへ飛んで蚤の市でアンティーク雑貨を値切り交渉することに幸せを感じている。しかし、彼らほど気軽に行けないのが現実。
もう、うらやましいを通り越して、泣けてくる。
 
数年前、本屋さんで偶然見つけた、ながらりょうこさんのエッセイ漫画は、そんなもやもやを抱えた私の心を癒してくれる。彼女は、ドイツの首都・ベルリンに住む漫画家だ。『ヨーロッパたびごはん』ではヨーロッパ諸国の旅の事、『ねこと私とドイッチュラント』では、ベルリンでの滞在を、それぞれ食をテーマにして執筆されている。滞在中や旅で出会った人々との交流、美味しそうなグルメを、やわらかく、繊細な感性と描写のイラストで描いている。あたたかな雰囲気のタッチと、本当に美味しそうに各国の料理を食べる、漫画の中のながらりょうこさんとキャラクターたち。思わず、グ~とお腹が鳴って、口元のよだれをぬぐってしまう。
この本を読んだことで、もちろん、私のお腹は満腹になることはない。だが、この一冊には、彼女が旅した感動や経験がギュッと濃縮されている。私がもしかしたら、一生知ることができないかもしれない知識や景色を、本のページをめくるだけで、一緒に体験し、旅をすることができる。この本には、彼女の数か月、いや数年の時間が詰まっているのだ。
 
「そうか、エッセイ漫画はバウムクーヘンなんだ!」
 
バウムクーヘンは、ドイツの伝統的焼き菓子。太い木の棒に生地を掛け、何層にも重ねて焼いて作り上げる、とても技術と根気のいるスイーツだ。輪切りにした断面の、幾重にも重なる姿が、木の年輪に似ていることから「バウムクーヘン=木のケーキ」と呼ばれている。
ドイツでは、「マイスター」という称号がある。職種ごとに細かく分野分けされ、それぞれの職種に必要な技術と経済・経営学を勉強し、国から認められた匠だけが、お店を運営・出店することが許される。バウムクーヘンも、製菓マイスターの手によって作り上げられる。バウムクーヘンには、彼らマイスターが重ねて来た努力の年月も積み重なっているのではないだそうか。だからだろうか、本場ドイツでは、ごく一部の地域でしか販売していない、ちょっと高級な府ご当地スイーツの分野に入っている。日本の様に、コンビニで100円ほどで手に入るお菓子ではないのだ。
はじめて本場の価格を知った時は驚いてしまったが、なるほど、作る過程、国家資格のマイスターについての事情を知ると納得ができた。
 
昨年、天狼院書店さんで、ライティングの技術を学び、書き手の立場に自分が立ったことで、そのことを実感した。講師の三浦先生もライティング・ゼミでこうおっしゃっていた。
 
「文章は、書き上げる時間だけでなく、構想に数年から、長くて数十年かかることがある。でも、読破する時間は、10分や数時間しか時間はかからない」
 
懸命に数年技術を勉強しても、何時間も丁寧に丹精を込めて作ったバウムクーヘンを、ペロリと一口。なんだか、少し物悲しくなった。
 
エッセイ漫画は、エンターテインメントなだけじゃない。描き手の技術、感性、時間が詰まっているのだ。それを、私たちはお金と言う代価を払って、彼女たちの経験を知識体験することができる。
たった千円ほどで、遠く離れた国の様々な景色を、鮮やかに見ることができる。
なんて、すてきで、尊いことだろう。
 
そう考えると、本棚にあるエッセイ漫画たちが、宝物の様に輝いて見える様になった。何度も、じっくりと噛みしめて読む習慣ができた。
いつか、私も彼女が見て、触れた景色を体験しに行こうと、決心しながら。
 
日常を仕事や家事、勉強に追われているみなさん、気分転換にエッセイ漫画はいかがだろうか?
忙しすぎて、何も楽しいことがない、やる気が起きない、旅行に行きたいけれど行くことができない、そんな人に特におすすめしたい。この本たちには、色んな年齢の、さまざまな趣向の方が体験した、驚きと、笑い、時にはホロリと来る刺激的な冒険譚が描かれている。他人の目を借りて面白い体験をのぞき見するなんて、めったにできない体験だ。
読み進めていく内に、「へぇ、そうなんだちょっとやってみたいかも?」と一瞬でも思い描いたら、幸い。あなたは、面白い、すてきな体験を経験するための、一歩を踏み出したことになる。さまざまな本を読んで、あなたの好き、興味があることを見つけて欲しい。
バウムクーヘンは、層が厚くなるほど、どっしり、しっとりとして食べ応えがあっておいしい。
マイスターたちが焼いたバウムクーヘンをかじりながら、あなたの旅を自由に夢想して、できればぜひ実際にその地を訪れてみるのはいかがだろうか?
さまざまな景色を見て、体験をすることで、次へ行動するモチベーションアップにつながり、きっと日常も鮮やかに見えて来る。
そして今度は、あなたが丁寧に焼いたバウム―クーヘンを、次は周りの人に一口分けてあげて。漫画で描かなくても、言葉や、写真といったさまざまな形で感動は表現することができる。マイスターが作ったバウムクーヘンも捨てがたいが、手作りのバウムクーヘンもやさしい味がする。
 
あなたにしか作れない逸品を見つけに、まずはエッセイ漫画で楽しくて美味しい夢の旅に出かけてみてはいかがだろうか?
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 
http://tenro-in.com/event/103274
 

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2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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