好きなことがあるのは、それだけで価値がある
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:大田知賀子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「好きなことがあるっていうのは、それだけで価値があることなんですよ」
思わず顔を上げた。
あ、この瞬間、すごく大事だ。この後に続く数秒に集中するため、全身のわたしが前のめりに話を聞いた。
「好きなことを見つけた方がいいよ」
「好きなことは何?」
何度も人から聞かれたし、自分自身にも問いかけた。
ドラマを見るのは好きだし、本も速く読めないけど好き、部活動でやってきたテニスやバレーも好き、旅行も好きだな……好きは見つかるけど、好きから生まれるはずの次の何かや、それを見つける方法を、ずっと見つけられずにいた。
考え始めたのは、大学3年生、就職活動を始めたころだ。
それまで、のほほんと、というか、ぼーっと生きてきたと思う。両親は高い理想を押し付けるタイプではなく、小学、中学は公立の学校に行き、姉が行っていたという理由で同じ高校、大学に進んだ。学校では部活動を頑張り、体育祭や文化祭は率先して楽しんだ。大学ではアルバイトで社会人体験をして世界が広がったと思っていたし、働くのが面白いと思っていた。
そして迎えた就職活動、同じような境遇・能力の人と過ごしてきた高校大学生活から一変、同い年の人が横一直線に並び、よーいドン! と企業に就職していく。自分自身がどんな分野や業界に興味があり、何をしてきて、どんなことができそうか明らかにしていく。そして、企業に「この子がほしい!」と思ってもらえるよう、「わたしはこんな人物です」とアピールする必要もある。そのどちらにも、「自分を知る」ことが重要であり、自己分析に挑む。
自分と向き合う中で、「好きなことはなにか」「得意なことはなにか」自分に何度も問いかけた。実際、テレビを見るのが好きだったので、テレビ業界も受けてみたし、本が好きだったので、出版業界も受けてみた。結果は散々。
好きは仕事に結びつかなかった。結びつくには何か特別なことが起きなければならないのかもしれないと思った。
仕事のことも、自分のこともよくわからず、フワフワしたまま就職活動サイトからその時ピンと来た会社を受けた。悶々とする日々を過ごし、最後は大学に来た求人の中から父に相談しながら内定をもらい、入社した。就職先が決まるまでは、社会で活躍が期待されるような能力のなさにショックをうけ、視野の狭さに暴れだしたい気持ちになったこともあるし、泣きまくったこともあった。
幸せなことに、働き始めると、自分が想像していた以上に会社の中には色とりどりの仕事があったし、部署が変わると転職するように業務が変わった。色々な人に会い、新しい知識を身につけ、仕事を進めて行くのが楽しかった。結果的にはおもしろい仕事に巡り会えた。
わたしの就職活動は結果オーライだが、ずっと引っかかっていたのは、「好き」はどうやったら仕事と結びけられたのだろう? という疑問だった。
ある日、音楽業界の方にお話を聞く機会に恵まれた。その方は、クリエイティブと呼ばれる分野でお仕事されていて、まさに就職活動でわたしが最初に志望していた憧れの職業。様々な話を聞いたが、どれもワクワクが止まらなかった。
その方が最後に話してくれたのが、好きの話だった。
「好きなことがあるっていうのは、それだけで価値があることなんですよ。…(中略)…やらないことを決められることが、好きの一番の効用です。」
好きは、好きなことを中心に世界を広げ、磨いていくことが可能ということ。
例えば、映画が好きだったら、脚本を書いてみる。映像を自分でも撮って編集してみる。編集した映像にCGを入れてみる。磨きがかかり、人が繋がって行くと、映像業界の人に会うようになったり、編集技術に長けた仲間にも出会ったりする。自分が好きな映画から、いろいろなことに世界が広がっていく。
そして、ある程度まで広がると、今度は自分の時間の中で納まりきらなくなってくる。好きが基準で決めてきているからか、納まりきらなくなる瞬間、自分がやりたことと、やりたくないことが、はっきり切り分けられるようになるそうだ。
川の砂利を拾い上げ、ざるの中でこして、金を探す途上国の子供たちが思い浮かんだ。希望をもってすくい上げた砂利=好きに関連することを、手で金以外をかき分けながら洗い流す。自分の意志で残こしたものに手をかけ、時間とパワーを注ぎ育て、自分だけの形に変形させていく。川で見つけた金は、世界でたった一つの個性という宝石になるかもしれないのだ。
そうだったのか……!好きの大きな謎に答えがみつかった瞬間だった。
すでに社会人経験10年以上、ずいぶん時間がたってしまったが、人生まだこれから、好きを極めていこうとおもう。
そして、これから成長していく子どもに、好きなことを見つけること、好きを起点にやることを広げて行くことを勧めてみよう。楽しく挑戦していく先に、自分の個性やスペシャリティが発見できたら最高だ!
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