「とりあえず生」な就活面接。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:安井美貴子(ライテイング・ゼミ日曜コース)
「私が御社を志望した理由は、ダイナミックでグローバルな事業領域に魅力を感じたためです。」
「学生時代に頑張ってきたことは、サークルの合宿係として、学外の関係者と関係性を築き、スムーズな合宿運営に貢献したことです。」
就活。一定年齢以上の「おとな」であれば、誰しも経験のある、ちょっと苦くて、しょっぱい思い出。最終的に複数の勝利を勝ち取った猛者であっても、長きにわたる戦いと冒険の過程で、ようやく自信という武器を装備したのであり、最初から堂々たる振る舞いができたわけではないだろう。皆、それまでの学生生活では、考えたことすら無かった志望理由や自己アピールの文章をこねくりまわし、幻のような「就活の軸」を探し求め、苦しむ。半分こじつけのような自己分析の末、やっと説明が成立する「自分だけの」軸の存在を見つけると、それ以外の軸なんて最初から存在していなかったかのような面持ちで、「自分だけの」志望理由をしたためる。それが身の丈にあったカラフルな表現であるほど「おとな」からは好印象を向けられ、勝者の道へ近づいてゆけるのである。
わたしの居た環境は、就活に対して非常に意識が高かった。4月から始まる本選考に向けて、周りの仲間は、その10カ月も前の6月1日から始まるインターンシップの情報収集に余念がなかった。周りに流されながらも、まずはハウスメーカーのインターンシップへ。商材である個人向け住宅に住まう家族の暮らしを想像しながら、部屋のつくりを考える体験は、とても浪漫があった。たった2日間の機会だったが、空想が膨らむかぎり、憧れのファミリー像に重ね合わせたその素敵さに、もっともらしい理由を付けていくのは、他人の暮らしを疑似体験できるようで、夢があった。企業側からすれば迷惑な話だが、以来、志望度にかかわらず、面白そうなイベントには片っ端から参加しては、あと数年経ったら、数十年経たないと味わえないような高待遇を各社の人事部から受ける優越感を楽しんだ。
世の中には、就活を楽しめるタイプと、二度と味わいたくない苦行のごとく拒みたがるタイプとに分けられると思う。かく言うわたしは、総じて就活が好きなタイプであった。しかし、それはわたしが自信を持てる経験やエピソードがあるわけではない。むしろその逆。就活では、どんなに趣味の合わない相手だったとしても、おとながわたしの話を聞きたいと言ってくれる。就活は、「とりあえずまずは」と話を聞いてもらえる場である。とりあえず生ビール、とりあえず枝豆。就活とは似つかわしくない単語で失礼。しかし、気の合わないひとと頑張ってやり合う必要がもはやない昨今、どんな相手でも、とりあえずまずは、と話を聞かれる姿勢を持ってもらえる、特別な場である。与えられた数十分で、自身や自社の将来が決める真剣勝負において、いかに好印象を残すか。いかに真意を引き出すか。普段だらりだらりと話すときとは、比べ物にならないほど、一言一言に気を遣って言葉を積み上げる必要があるのだ。
当初は、さすがに各種イベントのコンテンツに興味を持っていたものの、次第に、自分の言葉をどのように理解してもらえるかを試す面白さを見出すように。最終的に探しても探しても見つかる気配のない「わたしだけの就活の軸」を探すために、空をつかむような自己分析をするのをやめた。代わりに、自分が伝えたいことを最も効率よく。使った言葉以上の内容がたっぷり伝わる工夫に、時間をかけるようになった。鏡の前で、ときににこやかに。ときに困惑したような表情で。また、あるときは、企業の人事担当者がわたし個人のブースに足を運び、逆合同説明会のような場になる機会に参加したことも。何十人もの人事担当者に、自身の話を聞いてもらう1日は、わたしの自己肯定感を著しく高め、就活に限らず、「あのときこういえばよかった」の苦労が少ないわたしになれたように思う。
自分が1番伝わってほしいと思うことは、相手が察してくれるのを待つのではなく、自ら伝えにいかなくてはならない。そのために、まずは伝えたいことを鮮明に。そして、どんな人物だと思われたいかを明瞭に。分かってもらおうと思うのではなく、自分が伝えたい通りに伝えることで、「とりあえずまずは」の時間を延長できるのだ。内なる声に耳を傾けるくらいなら、おとなに話を聞いてもらえる、そんな就活の場を楽しんでほしい。
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